102話:色欲の悪魔
ブックマーク60、PV4万達成!ありがとうございます!
俺の予想を頼りに、俺とミルはグリモバースを歩き回って色欲の魔女を探す。身長や体型に服装も覚えていて、更に特徴的な胸があるにも関わらず、一向に見付からない。今日で3日経ったのだが、未だに見付かっていない。
「まるで隠れてるんじゃないかって思うくらい見付からないな…」
「ん…それにこの国は広すぎる……とても2人じゃ回りきれないよ…」
ミルが言う通りグリモバースはあまりに広すぎる。同類を見付けられる筈の眼があるから簡単に見付かると思ったのだが……浅はかだったか…
「あ…お水がもう無い……ちょっとお水容れてくるね」
「あっいいよ、俺が行く!」
水筒の水がもう無いようで、容れに行こうとするミルに代わり俺が行こうとすると、ミルは首を横に振る。
「ボクは平気。それにここなら人通りも多いから襲われる心配も無い。だから待ってて…?」
「まぁ…ミルがそう言うなら…」
俺がそう言うと、ミルはニコっと微笑んで走り去って行った。献身的だなと考えた後に、一緒に行けば良かったのでは?と思った。だけど今から行っても入れ違いになる可能性があるから待機する事にした。
確かにここなら突然襲われる事は無い…………と思いたい。メランコリーのように頭のネジが飛んでる奴ならいつ仕掛けてくるか分からない。
「ま、最も俺が襲われる理由が無いんだけどな」
向こうからしたら、主人公のように脅威でもない俺に構うだけ時間の無駄ってもんだ。悲しいけどこれ、現実なのよね…
「1人で考え事かしらぁ?」
───ドクッ…!
背後から聞こえた甘い蜜のような美しい声。鼻孔をくすぐって魅了するような花の匂い。
…そして同時に感じる嫌悪感。
間違いない。“色欲“の魔女だ。
俺はすぐさま腰に佩剣している細剣に手を掛けるて、戦闘体制に入ろうとする。
だが、、
「フフフフフッ…!動いちゃだ~めっ♡動いた、振り返ったら……分かるわよね?」
「ッ…!」
俺は細剣を抜剣しなかった。いや、出来なかった。
苦虫を潰したような表情のまま、俺は町行く人に視線を向ける。俺の目の前には首にナイフを当てた民間人達がいる。その虚ろな目は正気ではないのが明白だ。
「汚いぞ…!関係の無い人を巻き込むな…!!」
「フフッ……!フフフフフッ!!汚い?なにそれ、もしかして俺に言ってんの!?フハフフフフフ…ッ!!」
色欲の魔女はツボに嵌まったように笑い続け、俺の髪の毛を鷲掴みにして上へと上げる。
それと同時に笑い声が聞こえなくなった。
「俺は色欲の悪魔だぞ?汚い事をやるのが悪魔だ、そうだろ?なぁ!!」
荒い言葉遣いと共に、俺の髪の毛を乱暴に扱う色欲の魔女……いや悪魔は、再度笑いだした。
「にしてもお前のその“眼“は何だぁ!?随分と綺麗な色じゃねぇか」
髪の毛を掴んでいる手とは反対側の手で、俺の顔を撫で回す色欲の悪魔。長い爪を俺の顔に引っ掻けて、閉じられた片目を瞼の上から弄り続ける。
俺は反抗せずに色欲の悪魔の弄りに耐える。それが爪で引っ掛かれた場所から血を垂らしても、瞼の上から目玉を弄りくり回されても。
「おい“嫉妬“!!何をチンチラやってんだ!さっさとこいつの人格を乗っ取れよ!!」
「…!」
怒鳴りながら俺の頭を力強く殴った色欲の悪魔。すると俺の中にある黒いモノが動き出す。抑えようとしても止まらない。止める事が出来ない程溢れ出る黒いナニカはやがて、、
「うる、さい…………雑に扱わない、でよ……」
「おっ♪出てきた出てきた!」
勝手に動き出した口に、俺は驚きと焦りを感じる中、色欲の悪魔は満足そうに笑う。
このままでは不味い。あの時はキャスが何かをしてくれたから戻る事が出来た。しかし今はキャスはおろか、ミルさえもいない。
「さぁ~て、んじゃさっさと行くぞ、着いてこい」
「わた、しに……命令しな、いで…!」
「…………あ?」
俺の肩に手を置いてそう言った色欲の魔女に、反抗するように手で払い除けて立ち上がる俺の体。そして色欲の悪魔へと振り返る。
「命令す、る……それはわた、し…より立場が、上……!嫌、だ…!!」
「……へー…生まれたばかりの癖に先輩に反抗?随分と自分の強さに自惚れてるんだな。…いや、“嫉妬“特有のそれか?」
ようやく色欲の悪魔の顔を完全に見る事が出来た。奴はやはりあの時の魔女であり、その眼を黒いピンクに輝かせて半笑いで俺を睨んでいた。
「まぁいいや。───軽く死んどけ」
溜め息を吐いた後、色欲の悪魔は俺に手を翳した。そして次の瞬間、手の平から淡いピンク色をした電撃が放たれた。
突然の攻撃に対応する間も無く、俺の体は建物へと吹き飛ばされる。
体の自由は無くても、この体は俺の物だ。当然痛みは俺に伝わってくる。自分では動けないのに痛みは共有と、理不尽極まりない。
「痛、い………血、出てる…………死ん、じゃう…!ダメ……!ダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメ…!それは絶対に───ダメ…!!」
狂ったように同じ言葉を連呼し、俺の体は瓦礫の中から立ち上がる。額から垂れる血を上へと拭うとオールバックのようになり、前髪が無くなり視界が広くなる。
通りへと戻れば、町行く人々は悲鳴を上げて逃げている。色欲の悪魔に操られていた人達も人混みに押されて意識を取り戻したようで、既にいなかった。
「殺、す…!ぶち殺してやる…!!」
「ははっ!物騒な奴だな、そっちが本当のお前って所か?なぁ…嫉妬」
さっきの1撃よりも更に巨大な電撃を手に集めて不敵に笑う色欲の悪魔。
そして黒いピンク色へと変色した電撃は、高速で俺の元へと放たれる。
「違、う…わた、しはそんな…名前じゃ、ない…!」
色欲の悪魔を睨み付けながら、手が勝手に迫る電撃へと向けられる。次の瞬間、後ほんの僅かまで迫っていた電撃は煙のように消え去った。
『まただ、またあの時のように消しやがった』
コルさんとの戦いの時も、乗っ取られた時に相手の技を消していた。これが[羨望]の能力なのか、俺の中にいる奴の能力なのかは定かではない。
「へぇ~…今回の“嫉妬“はそういう能力なのか。毎回変わるから対策が大へ───」
興味深そうにそう発していた色欲の悪魔に対し、俺の体は容赦無く高速移動で加速したまま顔面を殴り飛ばした。仮に悪魔に操られていても、相手は女性。にも関わらず顔面を…鼻を狙うとは……流石悪魔と言った所だろうか。
「あが…がッ!痛ッ…ち、血が出てっ!!?わ、私の──俺の顔が…!!テメェ!!よくも───」
瓦礫から起き上がり、何かを叫ぼうとした瞬間に俺の体はまたしても容赦の無い蹴り放つ。俗に言う中段蹴りだが、相手も当たる瞬間に受けに入るのが見えた。
「ははっ…!成る程ねぇ、生まれたばかりでも悪魔は悪魔って所か。はぁ…面倒な性格してやがる」
吹き飛ばされた色欲の悪魔は、そのまま空から向かってきた箒に乗り、上から俺を見下ろしながら舌打ちをしてそう言い放つ。
「本当はここで半殺しにして連れ帰りたいがぁ……どうやらそうもいかねぇらしい。───おっと危ねぇw」
箒に股がったまま、色欲の悪魔は空へと舞い上がり、迫る氷の斬撃を回避する。
首が勝手に斬撃を飛ばした者へと視線を向ける。
「アキラに……何をしている…!」
「お~怖っ!まあ俺の目的は果た。そ・れ・にぃ…♡もうすぐで私の願いは叶うから、その時を楽しみにしてろよ?フフッ…!フフフフフッ!!」
口を抑えて笑い続ける色欲の悪魔は、最後に俺の小さく手を振ると黒い穴へと消えていった。
これで一先ず安心出来る。そう思った次の瞬間だった。
「っ…!!どうしたのアキラ…!?」
俺の体はまたしても勝手に動き出し、有ろう事かミルに向かって右上段蹴りを放った。
困惑の表情でガードしたミルに、俺の体は畳み掛けるかのように左中段回し蹴りを放つ。
「ウっ…!」
今度はガードする間も無かった為、俺の蹴りはミルの横腹へと沈み、苦痛の表情を浮かべる。
『やめろッ!!ミルには手を出さないでくれ…!!頼むから……』
──君、が何を……言ってる、か分からない………でも…確か、にこの女……に君、は羨望…を抱いてた…………なら死ん、でいい…
『言い訳ないだろうがッ!!ミルにこれ以上手を出したら……俺はお前を徹底的に潰すぞ!!』
──…?わた、しは……どころ、か邪剣使い…の男に、も勝てない君、が…?
『そ…れは……』
──もう…いいよ、ね…?
そのか弱き声を最後に、俺の体は動き出す。
ミルの命を刈り取る為に。恩人であり師匠であるミルに、俺の体は牙を剥いた。
「死ん、で……ね?」
操られた方が強いのはお約束。でも主導権を取り返せない主人公は……うーん…




