101話:予想
そしてその日の夜。俺とミルは【太陽と月の交差】へと向かっていた。
ソルは店をサボっていなければいいのだが…
「おっ、やってるっぽいな」
見えてきた店はまだ明るく、どうやら人がいるようだ。こっちの世界の文字でオープンの看板が出ている。そして扉を開けると、店の中には誰もいなかった。
「あっれ?」
「アキラ、あれじゃない?」
ミルが指差す先には呼びベルが置いてあった。俺はそれをチンッと押すと、奥の部屋から物音がする。
「はい…いらっしゃ──ってまたあんた達か」
「随分な言い方じゃないか……まぁいいや、今日はまだ店にいたんだな」
「姉さんが……店に居ろって置き手紙を置いてたからな」
面倒そうにそう言って椅子に腰掛けたソルは肘をついた。そして思い出したように口を開く。
「それで?僕に聞きたい事があるんだろ?」
「ああ、俺達にも魔女連続殺人の情報を共有して欲しいんだ」
「……何でだ?何でお前らまで魔女連続殺人を調べる。お前らには関係の無い話だろ」
俺達に疑いの眼差しを向けるソル。どうやら怪しまれているようだ。まあそう簡単には教えてくれないか。
「ボク達の目的も似ている。アキラの予想だとその犯人はボク達の敵と繋がっている…」
「…ふーん。ま、いいけど。取り敢えず外に出るぞ。犯人を探しながら教えてやる」
そう言って立ち上がり、店の扉に手を掛けて外に出たソル。俺とミルもその後を追う。
俺達の事は気にせずに歩き続けるソルを駆け足で追いかける。
「……魔女を殺し続ける犯人は未だにその姿さえ目撃されていない。そしえ必ず魔女を狙って殺す」
歩きながら突然そう発したソル。
俺はそれを聞いて、気になった事を質問してみた。
「魔女が狙われるのは夜だけなのか?」
「ああ、今までも必ず夜に魔女は狙われてきた」
「ソルは何で事件を調べてるの…?」
「…………姉さんの為だ。僕に残された唯一の肉親。それを奪われない為に」
素っ気なくて態度も悪い印象だが、結構姉想いのいい弟だな。こうやって面倒そうにしていても、ちゃんと質問に答えてくれるし。
「あれ?でも犯人は夜にしか現れてないんだろ?ルナは朝から夕方までしか動けないんだから、こう言っちゃ被害者に悪いが関係無くないか?」
「まあな。……だが10年に1度、僕と姉さんは分離して2人になる。もう少しでその日がやってくるんだ。だから少しでも姉さんには安全に過ごして欲しい……」
「ルナが…お姉さんが大好きなんだね」
「う、うるさいっ!!」
ミルの言葉に過剰反応したソルは、顔を赤くして早足で先に行ってしまう。否定しない辺り、大好きなんだろうなと、俺とミルは笑いながらソルの後を追った。
────────────
「それらしい事は起こらないな」
「ん、でもそれは良いこと」
その後は俺とミルのペア、そしてソル1人と二手に別れて街を探し回ったが、殺人はおろか悲鳴さえも無い静な夜。
何も無いのが1番ではあるのだが、どうも不気味でしかない。
『まるで監視されているような……いや考えすぎか』
どこからか見られているような気がした。だがどこを探しても見つかりやしない。
「一旦戻ろう」
「そうだな、ソルの方で進展があったかもしれないし」
街に設置してある時計を見ると、ソルとの合流時間になっていた。こちらは何も無かったが、向こうはどうだろうか。そんな事を考えて俺達はソルの店へと向かった。
「遅かったな」
「ちょっと遠くの方まで行ったんだけど進展無し。んでそっちはどうだった?」
「こっちも同じだ。何も無いのは良いことだが、心配が残るな」
店に入ると、既にソルは戻ってきていてホットミルクを飲んでいた。そして不安が残った顔をして、ソルはそう言いながら俺達の分のホットミルクを用意してくれる。姉弟揃って暖かい物を淹れてくれる。外は寒いからホントありがたい。
「なぁソル、魔森林の噂を知ってるか?」
「確か…怪しい集団がいる、だったか?それがどうした」
「いやなに、俺はそっちの方もこの連続殺人と絡んでると思ってる。だから何か情報は無いかと思ってな」
こういう大型のイベントは大抵繋がっている。ましてや異世界なら尚更だ。
未確認の魔物の方はよく分からないが、そちらも恐らく繋がっていると読んでいる。
「何…?それは本当か?」
俺の言葉に驚いた表情をした後、ソルは顎に手を置いて考える。
そんな中、ミルは未だにフゥフゥしている。猫舌らしい。
「…………!そうだ、確か魔森林で黒いローブを被った男を保護したというのを聞いた。聞いた話によれば、その男は何かに操られている……というより魅入られた様に意識がハッキリとしていなかったらしい」
「それは…!うん、いい情報を貰った。ありがとう、ソル」
「これが手掛かりになるのか?」
「ああ…!個人的にはかなりの手掛かりだ!だけどまだ確証が無い。1週間……もあれば犯人が分かる筈だ」
声を出さずに驚くソルと、フゥフゥをやめたミルが俺の顔を見る。
俺の勘と、今までに読んできた【なろう】全般の知識が通用するなら、犯人もメランコリーの仲間さえも表に出せる。
「しかし1週間か……その日は丁度10年ぶりの皆既日食の日……その日までに犯人を捕まえよう。当然僕も協力させてもらう」
「ああ!頼りにしてるぞ、ソル!!」
俺は手を差し出して、ソルと固い握手をする。そして俺達は明日からの為に、今日は解散する事になった。
「ねぇ、犯人が分かるってホント…?」
宿へと道のりの中、ミルは俺の袖を可愛らしく引いて質問してきた。
「ああ。さっきの情報と、俺の知識が正しければ今回の殺人犯とメランコリーの仲間は同一人物……そしてそれは恐らく“色欲“だ」
相手を魅了するような能力は大体が色欲。まだ殺人の方の犯人は分からないが、絶対と言える程確率は高いと見ている。
「そして色欲はあの日に俺と眼があった魔女……そいつがこの一件の犯人だ」
「なら…その色欲を捕まえる事が出来たら…」
「ああ、メランコリーに、コルさんに繋がる手掛かりになる」
ミルは顔を強張らせて何かを考えている。そして思い出したかのように俺の顔を見た。
「何で1週間で分かるの…?手掛かりがある…とか?」
「いや、手掛かりは無い。だけど俺にはこの“眼“がある。──も、勿論1人じゃないよ!?俺は弱いからな……だから俺に力を貸してくれ、ミル」
眼があると言った瞬間、ミルはむぅ…っと怒りの表情をするので、俺は慌てて言葉を選んでミルに助力を頼む。
するとミルは柔らかく微笑み、コクりと頷いた。
「ん…!任せて、ボクがアキラを守るから」
ミルの力強い言葉に、俺は安心と安堵を覚える。そして同時に、『あれ…?何か守られ系主人公になってきてね?』と考えてしまう。
一瞬、鯖太郎と騎士くんが頭を過るが、俺は高速でそれを追い出して自己肯定する。
『お、俺はそういう系の主人公じゃないから!!……うん!』
でもほんの少しそう思ってたり…?
なんて事を考えて、モヤモヤとしながらミルと共に歩いた。
ルナ・アルマース 18歳
金髪に左側に銀のメッシュが入ったクラウンハーフアップで、明るく元気な美少女。
銀色の目。
魔法の適正率が高く、五大魔法の殆どを使える逸材であり、魔女の中では若い方。
普段から魔女帽子を被り、中に白いシャツ、下はミニスカで黒いローブを羽織っている。
ソル・アルマース 18歳
銀髪に右側に金のメッシュが入ったアキラと似た短髪。クールで無愛想なイケメン。
金色の目
姉程魔法は得意では無いが、魔道具作りや附与魔法が秀でている。
全体的に蒼と黒の服装に、腰マントを着けている。




