100話:同類
100話達成!皆様のお陰です!
その後ルナに部屋へと通された俺達は、ソファーに座っていた。
台所で紅茶を淹れてくれたルナが俺達の元へとやって来て、向かい側に座る。
「ソルはまだそんな危ない事をしてるのね…もうっ、あの子ったら」
ルナに昨夜の事を説明したのだが、ソルが事件を調べている事を言わない方が良かっただろうか。ルナは可愛くプンプンと怒る。
え、なに?ヒロインは可愛く怒るように出来てるの?なにそれコワッ。
「でも困ったなぁ…私は夜の時の記憶が無いから、ソルが知ってる情報は私は知らないの」
「そうですか……此方も突然来てしまって申し訳無いです」
「ううん、こっちもごめんねっ?私達はちょっと特殊な人間なの…」
くいっと出された紅茶をイッキして、お暇しようと立ち上がると、ルナは申し訳なさそうにそう言った。
「お店って夜も営業してますか?その時にまた来ようと思うんですが……あっ勿論お客としても来ますよ」
「うんっ!一応営業してるよ!……ソルがサボらなかったらだけどね…」
「ならまた来ますね!」
「わざわざ来てくれたのにごめんね…また来てねっ!」
ルナは俺達に手を振って店前まで見送ってくれた。
さて、メランコリーに繋がる情報は掴めなかったが、また夜に来ればソルに会える。
「…………ん?」
「どうしたの…?」
「あ、いや……なんでもない」
とある女性の横を通った時、何か不思議な感覚がした。その女性は何てことない普通の魔女。強いていうなら胸がエロ同人並にデカイ。
『まさか胸に惹かれた?んなバカな…あそこまでデカイと興味は無いんだけどなぁ…』
そんな疑問を抱えたまま通り過ぎていった女性を見続けると、女性は俺の方へと振り返り、妖艶に笑った。
──ドクンッ…
その瞬間心臓を握り締められたかのような激痛が胸に走り、脳を支配するかのような快楽が俺をぐちゃぐちゃにする。
「は、はっ!……はっ……ッッ…!」
息を吸おうとしても、まるで忘れてしまったかのように息が出来ない。
肺に空気が入っていかない。ただただ苦しい。
「アキ………!……ラ!」
隣にいるミルが俺を支えて叫んでいるが、意識が朦朧としてよく聞こえない。
ふらつく足は、ミルの肩を借りて何とか立っていられる。
やがて心臓の痛みも脳に溢れる程沸いていた快楽も落ち着きを取り戻し、漸く平常心に戻る事が出来た。
「大丈夫なの…?アキラ…」
「うん…心配掛けてごめんな…」
俺はミルに連れられて座れる場所へと移動し、ミルに渡された水筒を飲んで落ち着いた。
「一体何があったの…?」
「俺も詳しい事は分からない……けど…何となくなら原因は分かってる」
「それは…なに?」
俺は少しの間を置いた後に口を開いた。
「さっきすれ違った女……黒いピンク色の眼をしてた…………メランコリーとそっくりな黒い光だった」
「…っ!それって…!」
「ああ…恐らくメランコリーの仲間だと思っていい」
あの時すれ違った魔女の女。魔女特有の帽子を被っていて顔はよく見えなかったが、その眼を見てすぐに分かった。
恐らく俺があの女に感じた感覚は“同類“を見つけた時の反応だろう。それは向こうも同じの筈だ。
『だからアイツは振り返って笑ったのか……わざわざ眼を光らせて』
メランコリー然り、あの女の眼もとても気持ちの悪い光だった。思い出しただけでも吐き気と悪寒がする。
「…………ミル、今俺の目は黒いか?」
「……蒼い」
「そっか…」
やはり俺の眼も蒼く光っていたか。なら俺の仮説は当たってると考えていいだろう。
どうせこの色は少ししたら収まる。今はあの女の事を考えよう。
「ミル、俺の予想が正しければメランコリーやその仲間が付近にいると、この眼が反応する。だから俺を──」
「それはダメ。絶対に許可できない」
俺が言い終わる前にミルはそうはっきりと言い切った。その眼は真っ直ぐと俺の眼を見ていて、強い意思を感じる。
「自分が囮のようになって探すって言うんでしょ?それは絶対にダメ。そんな危険な事をアキラにはさせない」
「………あ、あくまでも1つの策だよ…!ホントにやらないよ!自分の弱さは分かってるからそんな危険な事はしたくないし…?」
「それなら……いいけど」
とても怖い目をしていたミルに俺はテンパりながらもそう弁解すると、スゥ…っといつもの脱力した目に戻った。
その後は俺の体調面を心配してくれたミルが『今日は休もう…?』と言ってくれたのだが、既に体調は治っているので、『別に気にしなくていいよ』と言うと、心配だからと一緒に行動する事になった。献身的だな…ありきたりなセリフだが、ミルはいい奥さんになるわ。
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アキラがフラフラとした足取りでベンチへと向かっている時と同時刻。場所は変わって【太陽と月の交差】内にて、、
「こんにちわ、ルナちゃん」
「あっ!エリーンさん!こんにちわっ!」
ルナが魔道具の整理をしていると、お店にやって来たのはルナがお世話になっている先輩魔女、エリーン・スロウ。
「今日も来てしまったわ~」
「ふふっ!いつもありがとうございます!」
エリーンは昔からよくこの店にやってくる常連であり、まだ小さかった頃のルナに魔法を教えたのもエリーンであった。
仲の良さそうな2人を見ていると、まるで姉妹のようだ。
「フフッ…フフフフッ!」
「?何か楽しいことでもあったんですか?」
ルナに出された紅茶を一口飲んで、楽しそうに、嬉しそうに笑うエリーン。
「えぇ、ちょっと…ね?フフッ…ちょっと面白い子に出会ったの」
「えっ!もしかしてそれは恋ですかっ!?」
年頃のルナはそういった話には敏感だ。ましてや姉のように慕っている人の色恋なら尚更。
エリーンは食い気味に聞いてきたルナにクスクスと笑いながら口を開いた。
「ん~、ちょっと違うけど似たようなモノかな?ただ仲間に出会ったのよ」
「仲間…ですかっ?」
「えぇ、私の仲間……フフッ…!フフフフフッ…!」
楽しそうに笑うエリーンに、ルナも嬉しそうに笑みを溢す。そんな微笑ましいお茶会だが、ルナは知らない。
エリーンがどんな感情を抱えて笑っているのかを。“仲間“が何を表すのかを。
──エリーンの本当の顔さえも。
ルナは何も知らない。
エリーン・スロウ 33歳
ルナやソルがまだ小さい頃からの知り合いであり、2人に魔法を教えてくれた魔女。
子供が大好きで面倒見がよく、昼間によく会うルナを特に可愛がっている。
尚、胸はバカみたいな大きさで、色気がヤバい美魔女でもある。




