5話
両親が寝静まった頃、奈白は寝付けずに一人考え事をしていた。何故黒音は体育の時頑なにジャージを脱ごうとしないのか、何故昼にどこかへ行ってしまい、他クラスの子と食べると嘘をつくのか。昔の幼なじみだからこそ心配になってしまうのだ。しかし、どんなに考えても答えはでない。
『...いのよ..わた..から...えて』
隣の黒音の家からそんな声が聞こえてくる。よく聞き取れなかったが喧嘩しているようだった。黒音が心配になったが今気にしても仕方がないと思い、奈白は意識を手放す。
「あら、おはよう奈白くん、木嶋くん。」
「おう、おはよ。」
「おはよー、漆原さん。」
いつもと変わらない様子で少し安堵する。どうやら昨日の喧嘩に黒音は関係なかったらしい。
「今日は俺らとお昼食べないか?」
「お誘いは嬉しいけど遠慮しとくわ。」
やはり昼食は断られてしまう。友達がいないだけなら恐らくは誘いを受けてくれるだろう。何かがあると思い、奈白はどこかに行く黒音を尾行することにした。
ゴーンゴーン
ガララ
昼放課のチャイムを聞き、彼女は教室を出た。
「すまん真人、ちょっと行ってくる!」
「はいよー。」
黒音が歩く数メートル後ろを保ちながら静かについていく。廊下を少し歩き、階段を登る。階段では振り返った時に気付かれないようしゃがみながら登っていく。黒音は屋上で食べているらしかった。
「何してんだよ、黒音。」
屋上についた所で話しかける。黒音はビクッと体を揺らした後にこちらを振り返り、顔を見てあからさまに挙動不審になる。
「やっぱ、他クラスのっていうのは嘘だったか。」
「・・・・・」
何も言い返せないのか、黙り込んでしまう。奈白はため息をつきながら「昼、食べようぜ。」と誘う。黒音は黙って受け入れるが、弁当を取り出そうとしない。
「食べないのか?」
「・・・・・」
いつもの調子はどこにいったのか、黙り込んで話そうとしない。
「食べるつもりでここに来たんだろ?食べないと午後からキツいぞ。」
「・・・ええ。」
ようやく黒音は弁当を取り出し、弁当を開いた。中身を見て奈白は目を疑った。何日も放置したようなブヨブヨの腐ったミニトマトに、異臭を放つ野菜炒め。極めつけに白カビの生えたウインナー。とてもじゃないが食べられるようなものではなかった。
「・・・お母さんが作ったのよ。」
唖然としている奈白に黒音が話す。
「・・・なんでお前の母さんはこんなのを作ったんだ?」
「嫌がらせよ。」
言葉がでなかった。なんで嫌がらせを受けているか、なんて聞くことはできなかった。余計に傷つけてしまうかもしれない、どう慰めればいい、考えても考えてもわからなかった。
「黒音」
「なにかしら」
「明日から俺もここで食べてもいいか?」
「好きにすればいいじゃない。」
「それから」
「別に今じゃなくてもいい、いつか何があったのか教えてくれ。必ず助けになるから。」
「・・・ありがとう」
さっきまで曇っていた黒音の目が心無しか晴れた気がした。