3話
「なんか最近父さんの帰り遅いね。」
「仕事が忙しいんだってさ。それより明日も学校なんだからもう寝なさい。」
「はーい」
前まで遅くても22時には帰ってきた父が、ここ1,2週間は夜1時に帰ってくるのだ。労働基準法はどうなっているのか。しかし、そんなことは睡魔に負けて頭の片隅に追いやられてしまった。
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ねえ、漆原さんってどっから来たの?
それより昨日烏間くんと一緒に帰ったってホント!? どんな関係!?
「あーあー、質問責め食らっちゃってるねえ。止めなくていいのか奈白。」
「俺がなんか言ったら余計火に油だろ。」
「ま、それもそーか。」
昨日に質問をするような時間が無かったため、黒音は質問責めを食らっていた。それもそうだろう、公立高校に珍しい転校生で、なおかつ美少女ときたもんだから放っておくわけが無い。廊下にも黒音を一目見ようと十数人が群がっている。
ガララッ
「朝のST始めるぞー。」
結局、四谷先生が来たことで質問責めは終わった。
次体育かよーだりぃ
まあまあ、すぐ終わるって
「今日の体育って去年みたいに持久走だよな。」
「多分そうだと思うぞ 。」
「はぁ、帰宅部には辛いな。」
「言っとくが、一緒に走ってやらんからな。」
「余計なお世話だ!」
帰宅部の奈白にとって持久走は地獄でしかない。中学では運動部に所属してはいたが、腰の怪我で続けることができなくなってしまったために部活には所属していないのだ。しかし、サッカー部に所属している真人にとっては授業の持久走くらいどうってことはないのだろう。
「にしても今朝の質問責めはすごかったな。」
唐突に真人が話を変えてくる。
「あー黒音のやつ?まあ顔が整ってるからな、無理もないだろ。」
「その口ぶりだとやっぱり知り合いなんだな。」
「まーな、昔の幼なじみだよ。というか、そろそろ外出ないと。」
「あ、やっべ!早く言えよ!」
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-じゃあこれから持久走始めます。男子と女子別でスタートするから男女のペアつくって計測してくださいね。
「おーい、黒音。ペアになろうぜー。」
「ええ、いいわ。丁度あなたに声かけようと思ってたのよ、奈白くん。」
奈白は唯一話せる黒音を誘う。黒音も奈白を誘うつもりだったらしい。軽く微笑みながら相槌を打つ。
「なあ、ジャージ脱がなくていいのか?」
黒音は春だというのにジャージを着ていた。気温は25度前後で寒くはなく、むしろ暑いくらいだ。しかも日差しが強い。
「ええ、私寒がりだから。」
「そっか。」
そう答える黒音は、額に汗を流していた。しかし、本人がそう言うのなら、と特に気にはしなかった。
結局、持久走を走り終えた後も汗を流しながらも、ジャージを脱ぐことはなかった。