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苦しい恋の果て

作者: 天騎

俺、野原勇輝(ノハラユウキ)は幼い頃から高一の今までずっと花井秋(ハナイアキ)が好きだった。

だけど俺は知っていた。

秋は石川翔(イシカワカケル)が好きなんだって。

「お前さ

翔のこと好きだろ」

ハッキリさせたかった。

翔が好きなら諦められるし違うならまだ望みはあるってことだからだ。

秋は苦笑いして、

「なぜか勇輝にはバレる気がしてたんだよね」

と言った。

「当たり前だろ」

気づけばお前ばかりみてるんだから。

そんな言葉を隠してニヤリと笑う。

そんな余裕本当はなかったけど。

「私、翔が好きだよ」

やっぱり。

俺は諦めなくちゃならない。

秋の幸せのために。

「しゃーねぇから応援してやるよ」

キリキリ痛みをうったえる心をみないふりをして言う。

秋は少し驚いた顔をして、

「本当!?」

と聞いてきた。

「なんでそんな驚くんだよ

当然だろ」

そういうと嬉しそうに笑った。

「もつものは友達だね!」

その言葉に俺はまた鋭い痛みを感じた。

'友達'

その言葉がどれだけ俺にとって重くのし掛かるか、秋は知らない

「ありがとう」

けれど笑う秋はきれいだった。


───────────


それから俺らの関係は少し変わった。

秋はいつもより翔の話を俺にすることが増えた。

今日あった翔の出来事とかそんなこと。

それを聞くたびに苦しくなるけれど、幸せそうな秋をみるのも好きだったのも事実だ。

諦めようと思ってるのに恋してる秋をみているとますます好きになってしまう。

その瞳がこっちに向けばいいのになんて。

応援するって決めたのに、そんなことを考えてはいけないと思うほど気持ちが溢れだそうとする。

はぁ……と俺はため息をついた。

「ごめん

つまらないよね」

俺のため息を勘違いした秋は眉をさげ謝った。

「ちげぇよ

考え事」

そういうと秋はぷくと頬を膨らませた。

「私とのお話し中に考え事~?」

と言う秋の頬をつつく。

「ごめんって」

俺は謝る。

秋はぷーと空気を出す。

「冗談だよ」

秋はそう言うと、

「なんかあったの?」

と心配そうに聞く。

「お前が心配することじゃねぇよ」

お前のことだよ、何て言えない。

早くお前たちがくっつけばいい。

そしたら嫌でも諦められる。

「俺のことはいいから頑張れよ」

秋は腑に落ちないようだったが、

「うん」

と頷いた。


───────────


その日は何だかおかしかった。

やけに秋がそわそわしていて落ち着かなかった。

「秋、どうしたんだよ」

俺はたまらず聞いた。

「あの………あのね」

秋は俯いて言った

「翔が今日告白されるかも」

小さい声でもその言葉は聞こえてきた。

翔は特別モテるわけではないが隠れファンは多いと聞く。

「翔が………ね」

たぶん翔は告白されても断るだろう。

何となくそんな気がした。

「落ち着けよ」

俺は秋にデコピンする。

「いたっ!」

と秋は声をあげ額を押さえた。

「なにするんのさ!」

秋は俺を睨む。

「自信持てよ」

俺がそういうと秋は呆けた顔をしたあとにっこり笑った。

「自信ついた!」


────────────


そんなある日。

近くの公園で二人で会いたいと秋からメールがきた。

なんだろうかと公園に向かった。

するとそこにベンチに座りうつむいた秋がいた。

「秋…?」

近づき声をかけた。

するとゆっくり顔をあげた秋の顔は目が真っ赤で明らかに泣いた形跡があった。

「お前……」

「私さ

告白したんだ

それで……

ふられてきた」

そうじゃないかとは思った。

秋が泣くなんてそれくらいで。

「友達としてしかみれないんだって

でも友達としてならまだいてくれるから」

無理に笑う秋は痛々しくて。

「いけると思ったんだけどなぁ

勇輝言ってくれたでしょ?

自信もてって

だから頑張ったんだけどな」

俺は気づいたら秋を抱き締めてた。

抱き締めてもこいつの心は今の俺には向かないだろう。

それでもこの体温だけは確かだ。

「勇輝……?」

「いつまでも待つから…………」

小さくて声もかすれてたと思う。

聞こえなくたってよかった。

けど俺の言葉で秋は気づいたみたいだ。

「勇輝…!

でも私……翔が……」

「まだ!

まだいいんだ……

今は気づかなくていい」

気づかなかったふりをしてくれ。

諦めるなんて言ってたくせに全然だ。

幸せを願うなら困らせるようなこと言わない方がいいはずなのに。

「ごめん

ありがとう」

そういった秋の顔はみえなかったけど泣いていた気がした。

俺はそれを知らないふりをして抱き締める力を強くした。


───────────


「おはよ」

俺は秋にあいさつするとぎこちなく、

「おはよう」

と返してくれた。

最初はそんな感じだったが徐々にいつも通りに戻っていった。

俺も普通を装うのは慣れていた。

今までずっと心を殺してきた。

秋を待ち続けるということにはなったが前より気持ちが軽い。

もしかしたら待ち続けても、翔を忘れても、俺じゃないやつを選ぶかもしれない。

それでも少しでも意識させてるこの状況が堪らなく嬉しかった。

「なんかお前ら変わった?」

翔が俺と秋を交互にみながら不思議そうに聞いた

「別に普通だろ

なぁ?」

そういうと秋は、

「う、うん」

とぎこちなく笑う。

翔はまだ納得してないようだったが何も言わなかった。


───────────


そして二年たった。

俺達は高三になり、同じクラスになった。

あれから、まだ待ち続けてる俺だが変化はあった。

翔ばかりをみてた秋の瞳が俺をみつめてくれるようになった気がする。

それと同時に翔が秋のことをいつからか意識してみてることに気づいた。

そのことにひどく焦った俺がいた。

もし翔が今、秋に告白したら、秋は何て言うのだろう。

過去のことだと言うだろうか……

一度は諦めかけたけどここまで待ったのだ。

渡したくない。

やっと俺に歩み寄ろうとしてくれているのに。


「翔」

俺は翔を呼んだ。

「どうした?」

翔は目線を外さず返事をした。

目線の先には秋がいた。

「………」

俺は黙ってしまった。

翔はそれが不思議に思ったのかこちらをみた。

「どうしたんだよ」

翔はもう一度言った。

「………やっぱりなんもねぇよ」

本当は言おうと思った。

もう遅いって。

そうやって牽制してやろうって。

でもそれで止まるようなやつじゃないし、何よりもそんな自分が嫌だった。

「なんだよ、それ」

翔は苦笑いした。

「そういえばさ」

翔が言った。

「お前好きなやついるの?」

あぁ……

翔はなにも知らないのか。

それとも俺の気持ちを知ってて聞いてるのか。

「いる……って言ったら?」

試すようなことを言った。

「いや、だからどうってことないけど」

翔はうーんと言いながら頭を掻く。

「まぁいいか」

そういうと翔は立ち上がって。

「用事あるからいくわ」

と言って教室から出ていった。

そのすぐあと秋が寄ってきた。

「勇輝!!」

ちょっと慌てているような秋は続けていった。

「翔が告白されるかもって」

「は?」

翔が告白される?

そんなことはどうでもいい。

秋はなんで慌ててるんだ?

もしかしてまだ……

そんな感情がふつふつ湧いてきて、でもここで答え合わせすることは俺には出来なかった。


────────────


あの日とは逆に俺が公園に秋を呼んだ。

心臓がバクバクしている。

「勇輝…?」

秋は不思議そうにしながら公園に来た。

俺はベンチに座り、

「秋…

少し話そうぜ」

と言うと秋は、

「いいよ?」

と言って俺の隣に座る。

「あのさ

まだ翔が好きか?」

「え?」

聞かれるなんて思ってなかったのだろう。

「答えろよ」

俺が肘で小突くと秋は困ったように笑った。

「今日はそういう話?」

秋が緊張ぎみに俯く。

「そういう話」

俺も少し緊張した。

「翔のことはさ…」

ドクンと自分の心臓が鳴る。

「好きだよ

でも………!」

その言葉の続きは聞かなかった。

泣きたくなった。

俺はあの日のように秋を抱き締めていた。

「好きだ」

ハッキリ言ったことはなかったから今伝えとかないとと思った。

翔が自分の気持ちに気づく前に。

俺はずるいかもしれない。

それでも秋だけは……。

「もういい加減気づかないふりは出来ないよね」

秋の顔は見えなかった。

「さっきの続きね

でも、それは恋愛じゃなくなってた

勇輝に甘えてるだけかもしれない

それでも私、勇輝の側にいたいよ」

秋は確かにそういった。

側にいたいその言葉だけで十分だった。

「勇輝

私…私ね」

「ゆっくりでいい」

何かを伝えようとしてる。

「好きだよ」

あぁこんなに心が満たされるなんて。

「俺も」

そういった声は震えていた。


二人落ち着いてからこれからの話をした。

「翔には言った方がいいのかな?」

そう言った秋の顔は晴れない。

「言いにくいなら俺一人でいいぜ

翔に話したいこともあるし」

秋はそれでも腑に落ちない顔をした

「でも」

「大丈夫だって」

そう無理矢理言いくるめた


翔に話があるとメールをしたら、じゃあ俺の家で話そうぜ、とメールがきた。

それに了承して翔の家に向かっていた。

ピンポーンとインターホンを鳴らす。

「開いてるから入って」

と言われ無用心だなと思いながら入った。

どうやら家には翔しかいないようだ。

「よお

どうした?」

リビングのドアを開けると翔はソファーに座っており、早速聞いてきた。

「あのさ、お前には話しておこうって思って

俺、秋と付き合うことになったから」

そのときの翔の顔は忘れないだろう。

「お前間抜けな顔してっぞ」

そういう皮肉ると翔の目から涙がつぅーと伝う。

「あれ

俺、なんで泣いて」

翔は一生懸命涙をぬぐいながら呟く。

「秋が昔、お前を好きだったことは知ってる」

俺は翔の目をみながら言った。

翔が幸せにしてた方がよかったかもしれない。

でも何年も待った。

俺を選んでくれた。

それなら俺はとことん幸せにしてやりたい。

翔を好きだったことなんて忘れるくらいに。

「お前は今気づいたかもしれないけど俺はお前はあいつが好きだって気づいてたよ

だけどお前にももちろん他のやつにもやらねぇ」

俺ははっきり言った。

「俺が……?

秋を好きだった?」

一言ずつ確かめるように言った。

「そっか……

でも、俺、もう………」

'遅いよな'

翔はそう言った。

俺は何も言わなかった。

これ以上嫌なやつになりたくなかった。

「なぁ………

お前の好きなやつって秋だったのか?」

何を思ったのか、翔が聞く。

「あぁ」

俺は短く返した。

「俺を好きだって知ってたのに?」

その言い方に少しイラつきながら俺は答えた。

「そうだよ」

そういうと翔は諦めたように笑った。

「お前、相当好きなんだな」

俺は自信満々に答えた。

「まあな」

翔は言った。

「俺、どこかで気づいてたのかもしれない」

俺は何のことか分からず聞き返す。

「何に?」

翔は答える。

「もう、俺は過去なんだって」

俺はそれを否定する。

「秋はお前を好きだって言ってた」

俺は続ける。

「それは恋愛感情じゃないけど、少なくとも友好関係は終わってねぇよ」

翔はそうか、というと翔はそっと言った。

「泣かせんなよ」

そんなこと俺にとったら当たり前のことだ。

「お前に言われるまでもねぇよ」

俺はそう言うと部屋のドアノブに手をかけた。

「じゃあまたな」

そう言い部屋を出た。

翔が泣き声が微かに聞こえる。

それを振り払って俺は秋のもとに向かった。


「言ってきたぞ」

そこはいつもの公園だった。

秋はベンチに座っていた。

先にいて待っていたようだ。

「翔、なんだって?」

俺は秋のとなりに座りながら答えた。

「『泣かせんなよ』ってさ」

秋は足元をみながら言った。

「そっか」

というと秋は間を開けて言った。

「ずっと笑顔でいさせてくれる?」

その問いに俺は何てことなく言った。

「ケンカをしたり、お前を無意識に傷つけたりして泣かすかもしんねぇ

でも、その度に仲直りして、謝って、話し合って、いつか振り返ったときに幸せだって思わせてやるよ」

秋はあはは!と声をあげ笑った。

「なにそれ~」

おかしそうに笑う秋にムッとする。

「おい

真面目に言ってるんだぞ」

というと、

「ごめん

あまりに自信ありげにいうから」

秋はひとしきり笑うと俺をみた。

「ありがとう」

ふわりと笑う。

「私もずっと側にいるから」

その瞳にはしっかり俺が映っていた。

愛しそうに俺をみつめてくれている。

あぁ……

満たされていく。

何だか泣けてきて俺は上を向いた。

秋はそれに気づいて俺の脇腹をつついた。

「幸せかい?」

秋は冗談めかしてきてきいた。

「そうだな

俺の隣にお前がいて、お前が俺を想ってくれるなんて夢みたいだ」

すると秋は立ち上がって俺の目の前に立つ。

俺はそれをみつめていると、

秋の唇が俺の唇に触れた。

「夢じゃないよ」

真っ赤になって秋は言った。

「お前……」

状況を今、理解した俺から出たのはそんな単語だった。

俺も真っ赤だろう。

でも、

今度は俺からキスした。

「確かに夢じゃない」

俺は確かな幸せを噛み締めた




苦しい恋の果て


苦しかったからこそ見える幸せ

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