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主人公は、俺じゃない  作者: りんご丸
第一章:嘘つきの強襲
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美少女との邂逅

 体がぶつかった衝撃で、思わずしりもちをつく。

 男のごつい体ではない、柔らかいものにぶつかった感触だ。

 それに、このタイミング、あのシルエット。


 まず間違いない、成功だろう。

 あの咥えてた何かはパンだろうし、クラウスにぶつかる予定だったものが何か変なものだとは思えない。

 何より、この柔らかい感触。

 絶対に男のごつい体ではないだろう。

 抱き枕の代わりに寝られるレベルだ。

 いやまあ流石に我ながら気持ち悪く誇張しすぎだが、少なくとも男の体ではないはずだ。

 

つまるところ、これで晴れて俺の『ドキッ! 街角で美少女ゲット大作戦』は成功となる。

これから俺が学校に行って朝礼を受けている間に、美少女が転校生としてやってきて


『おまえは!』


『あなたはあの時の!』


ってなる展開まで約束されたはずだ。まあ、この世界に学校があるのか知らんけど。


 さて、いったいどんな美少女なんだろうか。

 個人的にはお姉さん系の方が好みだが、美少女ルートに入れれば贅沢は言うまい。

 早速拝見させてもらうとしよう。

 さあ、マイアイズ、オープン!


「イタタタタ……。大丈夫かしら?坊や」


 眼を開くと、そこにいたのは葉巻を咥え、ぬいぐるみを抱いた、女言葉を話すゴリゴリにマッチョな男だった。


 ……は?


 O☆TO☆KO だった。


 ……は?


 え?この人誰……誰?


 おいおいまさか……お姉さん系って……お姉さん系って……オネエさん系!?


 待て待て待て、意味わからん。

 え、何? ぬいぐるみと、葉巻と、オネエさん?

 駄目だ要素が何一つ噛み合ってねえ。

 キュート系なのかハードボイルド系なのかオネエさん系なのかわからねえが、属性同士が死ぬ気のボクシング大会開催してやがる。


 ちょ、ちょっと待て。

 じゃあなんだ、柔らかかったのはぬいぐるみか。ぬいぐるみのせいなのか。

 抱き枕の代わりにって…本当に抱いて寝られるレベルじゃねえか。


 何がどうなったら理想と現実がここまでかけ離れるんだよ。日本とブラジルレベルだぞこのかけ離れ方。

 というかそもそも俺はなぜこの人のシルエットを見て美少女と勘違いしたんだ。

 落ち着いて一つずつ上げていこう。いったい美少女から何がすり替わってオネエさんになった?


 えーっとまずは、パンの代わりに葉巻を咥えてて……他には美少女の代わりにオネエさんで……ぬいぐるみに至っては誰だお前どこから来た。

 やっぱ駄目だ……すり替わった工程のどこをとっても一ミリも理解が及ばねえ。


「ノルマンじゃないか。何をしているんだい、こんなところで。てっきりもう待ち合わせ場所に着いてるものだと思っていたよ」


 クラウスもさすがに気が付いたらしく、上からのぞき込んできた。


「あら、お知り合いなの? 急に胸に飛び込んでくるなんて、情熱的な坊やね」


 オネエさんが、俺の顔を見ながらそんなことを言ってきた。


「ち、ちがう! 俺はただ、美少女と見間違えただけで!」


「あら、やっぱり情熱的じゃない。そんな熱烈な告白されたのは久しぶりよ」


「そんなロマンチックな話じゃねえ!」


「あらあら残念ね。……そうそう、坊や。前はちゃんと注意して歩かなきゃダメよ? 私だからよかったけど、もし年配の人とかだったら大変なことになってたかっも知れないわ」


 思ったよりも優しく対応してくれた。

 というか言ってることがもっともすぎてぐうの音も出ない。

 なんかもう自分の浅ましさとかぶつかった申し訳なさとかが半端ない。


「もう……もう……」


 美少女に会えると期待してた自分が恥ずかしい。


「すいませんでしたぁぁぁぁぁぁああ!!!」


 俺は、その場から全力で逃げだした




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




 魚を売っている店の店主が、威勢よく声を張り上げている。

 リアルで「寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 生きのいい魚だよ!」を聞くことになると思わなかった。

 買い物に来ている人達も相当な数で、店は盛況を博している。


 ここは、クラウスとの待ち合わせ場所だ。

 昨日、クラウスと別れるときに、どこかで待ち合わせようという話になった。

 最初はクラウスが俺の泊まる宿まで迎えに来ようと言い出したが、さすがにそれは辞退したのだ。

 ここまでいろいろやってもらってんのに、迎えに来てもらうとか言い御身分すぎるしな。


 逆に、こっちから向か絵に行くと申し出たが、それも丁重に断られた。

 向こうは向こうで申し訳なく思ったらしい。


 そこで代替案として、待ち合わせ場所を決めることにした。

 その際に、俺は王都の土地勘がなかったため、目立つ場所としてこの店の前を指定させてもらったというわけだ。


 後で会えたらちゃんとオネエさんに謝らなきゃなぁ、と考えていると、クラウスがやってきた。


「ここにいたのかノルマン。急に走っていくからどうしたのかと思ったよ」


「それについては触れないでおいてくれ。勝手に自爆しただけの悲惨な話だから」


「何やってるんだ、君は……まあ、それについては置いておこう。それよりも、言っておかなきゃならないことがあるんだ」


「なんだ? そんなかしこまって」


「今から君には、ある人に会ってもらいたい。君と同じく剣聖護衛隊に入るだろう人なんだ」


 ん? 今日集合したのって、剣聖護衛隊の登録の手続きとかじゃなかったっけ? ……ああ、そういや、今日の目的については剣聖護衛隊に関すること、としか言ってなかったか。まあ、一緒の隊に入る人なら先に顔合わせるのが普通だよな。登録した後に性格が合わないことが分かっても嫌だし。


「おう、わかった。そいつはどこにいるんだ?」


「ここから歩いてすぐのところで待ち合わせしているよ。ついてきてくれ」


 そう言って歩き出すクラウスについて街を少し歩くと、急に開けた空き地に出た。


「あの人か?」


「ああ、そうだ」


 そこには、こちらに背を向け、空を見上げる髪の長い少女が立っていた。


「リリー、すまない、待たせたかな」


 リリー、と呼ばれた少女は、こちらへハラリと振り向いた。



 ――――――美しい、少女だった。

 さらさらとして光沢のある黒い髪。ぱっちりとした二重の瞳に、それを覆う長い睫毛。

 スラリと通った鼻梁の下には、程よい厚さの唇。

 服から覗く白い肌は、触れれば壊れてしまいそうなほど透き通っていた。

 大きな瞳を見ていると儚さすら含んだ、ある種の人形めいた美しさに引き込まれてしまう。

 にもかかわらず、彼女自身は確かにここにいるという存在感がある。


「いえ、私も今来たところです」


 クラウスとカップルのようなやり取りをした後に、彼女はニコリと笑った。


「ノルマン、紹介するよ。彼女の名前はリリー。小さいころからいろいろ手助けしてくれる、親愛なる僕の友人さ。リリー、こちらはノルマン。僕の親友だ」


「初めまして。クラウス君から噂は兼ねがね聞いてます。リリー・ミュラーと申します。以後お見知りおきを」


「あ……ノ、ノルマン・タリフレアです。こちらこそよろしくお願いします」


 見惚けていた意識を、慌てて切り替えて挨拶をする。


 え? 美しすぎない? 美人とかいうレベル超えてるぞこれ。

 しかもすごいお淑やかだし。

 後、なるべく見ないようにしてるけど、胸のあたりのふくらみすごくありません? メロン的なもの実っちゃってません?


 あかん、めっちゃタイプだ。

 清楚・美人・ダブルメロンとか、童貞の理想全部詰め込んだ存在じゃねえか!(当社調べ)

 貧乳派の異論は認める!


 ってかちょっと待て。さっきクラウスなんてった!?

 小さいころから、いろいろ手助けしてくれた?

 それってつまり、幼馴染ってことだよな?

 この美少女と……幼馴染……


「なあ、クラウス」


「なんだい?」


「お前、夜道には気をつけろよ。嫉妬に狂った暴漢に襲われるかもしれないぞ」


「忠告ありがたいけど、夜道を守るのも騎士の仕事さ」


 あかんだめだほんとに暗殺したくなってきた。

 こんな美少女と幼馴染とかマジふざけてんだろこの腐れ主人公野郎。

 しかもクラウスと合わせたら、美男美女幼馴染じゃねえか。

 完璧だよ。もうくっつく未来しか見えねえよ。この、おめでとうが!


 ちくしょう! 俺には、勝てないのか! どうあがいても脈はないのか!

 せめて……どうにか気の使える男アピールだけでもしておこう。


「い、いやー、それにしても喉乾きません? どこか店でも入りましょうか」


 暑い日向から避難する気を使える俺ナイス!


「わかりました。行きましょう」


 よっしゃリリーさんも乗ってきた!


 ……あれ? でもこの世界ってカフェとかなくね? 

 あるとしても大体酒場じゃね?


 やべえよ、俺、昼間っから酒場に入ろうとする飲んだくれになりかけてるよ。

 リリーさん絶対合わせてくれただけじゃん。

 内心でドン引きしてるって。

 急に撤回とかしても不審者だし、どうしよう。


 ええい! こうなったらままよ! めちゃくちゃおしゃれな酒場見つけて、ピンチをチャンスに変えてやる!


「あ! あそことかおしゃれですね。入りましょうか」


 少し歩いた結果、おしゃれそうな店を見つけた。

 もうここに賭けるしかない。


「いらっしゃいませー」


 店に入ると、何やら聞いたことのある声が迎えてきた。


「おまえは!」


「アラ、あなたはあの時の」


 店のカウンターにいたのは、先ほどぶつかったオネエさんだった。


いつから美少女とぶつかると錯覚していた?

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