誘拐の真意
肌寒い空気に目を開くと、目の前にはごつごつとした岩肌が広がっていた。
この一時間ほどで、何度も見た光景だ。
俺をさらったやつらは、薄汚い身なりをした、背の低い太った髭面の男と、ガリガリで背の高い男の二人組だった。
どちらも三十代前半といったところだろう。
髭面のほうは、俺を袋から放り出すとどこかへ行ってしまい、俺の前には暇そうな顔をしたガリガリの男だけが残っている。
髭面がいなくなる前の会話内容から察するに、洞窟の入り口で誰かと待ち合わせをしているみたいだった。
二人だけで俺を遠くへ運ぶとも思えないし、おそらく仲間が来るのだろう。
肝心の俺がいる場所だが、周りを見るにどうやら洞窟のようだ。
幅は走ることができるほど広く、高さも同じぐらいに高い。奥行きも、目を凝らしても行き止まりが見えないほどだ。
岩で囲まれてこそいるが、洞窟というよりはもはやトンネルといったほうが近い気がする。
どういう原理かはわからないが、岩肌が青くぼんやりと光っており、どこか神秘的に明るい。
奥のほうから、わずかに風が吹いてくる。
先ほど髭面が向かった方向もそっちだ。
目では全くわからないが、きっと入り口があるのだろう。
不意に、縄で縛られた両腕と両足が痛んだ。
―――――こわい
思わず声を上げそうになる。だが、声を上げてガリガリの機嫌を損ねたら何をされるかわからない。
―――――こわい
こんなことになると思ってなかった。一体どうして、異世界に来たばかりで、こんな状況になっているんだ。
―――――こわいこわいこわい。
どうして、どうしてこうなった。
俺が狙われる理由はないはずだ。いいや、もはや理屈は関係ない。
ここまで来たら、どうしてさらわれたのかなんてどうでもいい。
誰か、誰か俺を助けてくれ。
誰でもいい。誰か、誰か、誰か、誰か。
グルグルと何度も同じことを考えてしまう。
どうして俺が、どうして俺が攫われた。
おかしい。攫われる理由に心当たりがない。
おかしい。大体なんで俺なんだ。俺を狙って得なんかないだろ。
今の俺の肩書は中二病なだけの、ただの一般人だ。
特別な点なんて、クラウスが親友であることぐらい……
そこまで考えてハッとした。
そうだ、クラウスがいる。
あいつなら、きっと助けに来てくれるはずだ。
前に子供が森で迷った時も、あいつはなぜか迷わずにすぐ子供を見つけていた。
俺のことも見つけてくれるはずだ。もうそれにすがるしかない。
だとしたら、せめてクラウスが来る時間を稼がなければ。
フーーーーと、息を吐く。
落ち着け。
パニックになっても仕方がない。
いつも通り、状況を整理して、今俺がやるべきことを挙げていこう。
……まず、クラウスが助けに来るまでの時間稼ぎだ。
もう俺にはこれしかすがるものがない。助けに来てくれると信じよう。
次にすべきことは、何でもいいから状況を打破できる情報を得ることだ。
今のところ、俺は自分がどこにいるかすらわからない。せめて、どこにいるかだけでもガリガリからうまく聞き出せないだろうか。
頭をフル回転させる。
緊張も相まってオーバーヒートしそうだ。
どう話しかければ、情報を聞き出せるか。
何を話せば、相手が乗ってくるか。
どこまでが、踏み込んでも大丈夫なラインか。
考えろ、考えろ、考えろ――――――――――
どれくらい考えていただろう。
そこまで時間はたっていないような気がする。
五分か、十分といった程度のはずだ。
ひたすらに集中していたせいでそれすらあいまいになっている。
だが、その集中のおかげで話すことは決まった。
あとは、賭けだ。
「な、なあ」
恐怖のせいか、声が裏返った。
「なんで俺をさらったんだ?」
「あん?」
ガリガリが退屈そうな目でこちらを見た。
「俺を狙ったんだろ?なんでわざわざ俺を狙ったんだよ」
「あんだよ急にぺらぺらと。……べつにおまえなんかねらってねえよ」
どうやら、話しかけただけでキレるような奴ではないらしい。
一番の不安がなくなり一安心する。第一関門突破だ。
ここを乗り越えれば、後は様子を見ながら話していけば大丈夫だろう。
地雷を踏まない限りは急にキレられることもないはずだ。
とはいえ、それでもだいぶ綱渡り。
正直、さっきから一言話すたびにプレッシャーで頭がおかしくなりそうだ。
「ほ、ほんとうか?」
「……どうしてお前を狙ったと思ったか理由を言ってみろ」
本当に退屈だったらしく、ガリガリは会話に乗ってきた。これで、第二関門突破だ。
「無作為に誰かを攫おうと考える奴は、こんな場所の村までは来ないはずだ。それに、この村は小さい。誰かがいなくなれば、すぐにわかる」
そう、森に迷い込んだ例の子供のように。
「しかも、この村の周りにあるのは、森と山のほかに障害物もない平野だけだ。土地勘のない人間じゃ、いや、土地勘のある人間を雇ったとしても人を抱えたまま森を抜けたり山を超えるのは現実的じゃない。攫ったことがすぐに気づかれる可能性もあるのに見晴らしのいい平野で逃げるっていうのも無理がある」
「な、なにより、こんな辺鄙な村まできて、それだけの障害を乗り越えたとしてもさらった人間が俺一人じゃ採算が取れないはずだ。そこらへんで遊んでる子供たちを攫ってすぐに逃げるならともかく、今攫われたのは俺一人だしな」
たまらず一呼吸入れる。ここが、正念場だ。
「さ、さらに、村からそこまで離れていない洞窟でずっと待機してる。おそらく村のやつらが近づかない森の中にある洞窟なんだろうが、それにしたってずっと待機しているのはおかしい。誰でもいいから適当に攫おうとしてたと考えるには、今の状況はあまりにも非効率的だ」
ガリガリが、感情の抜けた目でこちらを見ている。その無表情からは、何を考えているか読み取れない。
「だが、何か理由があって俺一人を狙って攫ったなら話は変わる。俺の家族がいないタイミングを見計らって攫ったとすれば、気付かれるタイミングも遅れるし、つじつまは合う……はずだ」
五秒ほど、静寂が訪れる。ガリガリは、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべると口を開いた。
「ビビりながら話してる割には案外頭が回るじゃねえか。だけどな、間違ってる点がある」
「まず一つ目。お前の理屈じゃ、平野も無理森も無理山も無理で、結局お前を攫う手段がないことになる。だが、実際はそうじゃない。俺たちはお前を抱えたまま山を越える手段を持ってる」
饒舌に話すガリガリは、先ほどと打って変わって実に楽しそうに濁った眼をしている。
「次に、二つ目。お前は、なぜ俺たちがここで待機しているかを無視している。メリットもなくただ待機してるとでも思ったか?最後に、三つ目。今この場所は森の中じゃない。山の中にある洞窟だ。残念だったなぁ?」
俺の推理が間違っていた。その事実を、ガリガリは突き付けてくる。
それが示すことはつまり―――――最終関門突破だ。
場所の情報を得る、という本来の目的は無事達成された。
そもそも、俺の推理があっている必要は全くなかった。むしろ、少しだけ外れていることを一番望んでいたのだ。
どうやってガリガリから情報を引き出すか考えた時に、俺が最初に思いついたのは、相手の性格を利用するということだった。
このガリガリ、見たところかなり性格が悪い。
さらに、自分が現在俺より圧倒的に優位に立ってると思っている。
事実、俺は両手両足を拘束されて、できることなどロクにない。
もし性格が悪く優位に立った人間の前で、自信満々に間違った推理を披露したらどうなるだろう?間違っていることを強調して相手に突き付けるはずだ。場合によっては、事実を伝えてでも。
今回、俺はそれに賭けた。ガリガリが、意地悪く事実をもって指摘してくる可能性に賭けたのだ。
もちろん、ガリガリが違うとだけ言ってそのまま黙る可能性も、そもそも無視する可能性もあった。
だが、俺は賭けに勝った。
これで、自分がどこにいるかの目星がつく。
俺が攫われた場所は確か、村の中でもちょうど森がすぐ近くにある場所だったはずだ。堂々と突っ切るわけにもいかないだろうから、森の中に隠れつつ山に向かったと考えれば、俺が運ばれてた時間からしても山の奥深くではないだろう。
村からそこまで離れていないなら、もし逃げ出せさえすればすぐに村へ戻れるはずだ。
……だめだ。ここまでわかっても、自力じゃ脱出はできない。縄を切る道具もないうえに、ガリガリの監視付きだ。
結局、俺はクラウスが助けに来ることにすがることしかできない。
村の近くにいることが分かっただけ、希望は増したはずだ。
そんなことを考えていると、ガリガリがこちらを見ながら口を開いた。
「そうだな、暇つぶしを手伝ってくれた礼だ。冥土の土産に何か質問に一つ答えてやるよ」
「質問?」
「そうだよ。聞きたいことぐらいあんだろ?これからどうなるとか」
「…………」
これは、チャンスだ。
さっきみたいに小細工をしなくても、直接聞き出せる。
何を聞けばいいだろう。
もう一人は何してる? か、
いつまで待機してる?か、
なぜ俺をさらった?か、
あるいはガリガリが言っていたようにこれからどうなる、か……………冥土の…………土産…………
死
瞬間、死が隣に座っているような錯覚に陥った。
ガタガタと震えが止まらなくなる。
これからどうなるのかを、考えた。
クラウスにすがって、目を背けていた事実を、考えてしまった。
この世界に奴隷制度があるかはわからないが、人さらいが存在するのだから、良くても奴隷、悪ければ人身売買だろう。どちらにせよ、それが意味するところは、俺の人間としての死だ。
誰も、クラウスも助けに来ないのではないかという考えが頭の底にこびりついて離れない。
当然だ。
俺があいつのことを見ていたのなんて人魂になっていた時の、ほんのわずかな間でしかない。たったそれだけしか知らないのに、心の底から信じられるわけがないのだ。
一度疑ってしまえば、不信は心に絡みつく。もう止まらない。
怖がっている場合ではない、と思う。
ここが情報を得られる最後のチャンスだ、とも。
すぐに返事をしなければ、それこそガリガリの不興を買い、今すぐ殺されることだってありえるかもしれない。
だが、怖い。
何を質問するか吟味しなければいけないにもかかわらず、恐怖心で頭が真っ白になる。
「も、もう一人の人は何しに行ったんだ……?」
どうにか紡ぎだした言葉は、そんなものだった。自分でもわかるほどに声が震えている。
「ああ、あいつか。あいつはな、洞窟の入り口で依頼人の関係者を待ってるんだよ。さっき言った山越えする手段ってのはその関係者だ。お前を村から攫ったあと、ここでそいつと合流して山を越える手はずになってる。向こうさんが少し遅れてるみたいだが、まあすぐ来るだろ」
俺がおびえている様子に気が付き、気分がよくなったのだろう。ガリガリが、聞いてないことまでぺらぺらと饒舌にしゃべっている。
「しっかしあんな大金出してでも誘拐したいだなんて、お前いったい依頼主になにしたんだ?……ああ、来た来た」
コツ、コツ、という足音が、暗闇から聞こえてきた。
音のする方をよく見ると、ぼんやりと人のシルエットが見える。
おそらくガリガリの相方の髭面だろう。きっと関係者と合流したのだ。
つまり、俺が逃げ出せるチャンスは、もうなくなったことになる。
コツ、コツ、と足音は止まらない。
髭面がここまで来てしまったら、どうしようもなく終わりだと、本能が警鐘をならしている。
だが、俺にはもう何もできない。
ちらりちらりと、絶望が首をもたげてこちらに近づいてくる。
「死にたく、ない」
思わず、声が漏れた。
無駄だとわかっていて、無意味だとわかっていてなお。
「間に合ってよかった」
聞いたことのある、声だった。聞きたかった、声だった。
「クラウス……」
「無事だね?ノルマン」
シルエット――――クラウスは、安心したように笑ってそういった。
「だ、誰だてめえ!どうしてここがわかった!」
ガリガリが唾を飛ばしながらわめく。
「それはこっちのセリフだよ。今すぐ投降すればここで痛い目にあうことはないが、もし抵抗するなら、僕の親友を誘拐したんだ、相応の罰を受けてもらうことになる」
クラウスはそう言うと、ガリガリを睨んだ。
ゾクリと、背筋に冷たいものが走る。
俺を睨んでいるわけではない。にもかかわらず、目の前のクラウスから今まで感じたこともないような気迫を感じた。
直接睨まれたわけではない俺がこれなのだ。ガリガリが感じたプレッシャーは相当のものだろう。
現に、明らかに顔色が悪くなっている。
「ふ、ふざけんじゃねえ!てめえなにもん……銀髪?まさか、てめえ……」
「『剣聖』、クラウス・ディエスブルグ」
クラウスの余裕とは裏腹に、ガリガリの顔が決定的に真っ青になった。
「クソッ……クソッ!クソッ!」
「や、やめ」
次の瞬間、ガリガリが腰から刃物を取り出したかと思うと、俺の喉元にナイフを突きつけてきた。
「ち、近寄るんじゃねえ!こいつがどうなってもいいのか!」
全神経が首のあたりに集中していく感覚がある。
喉元にナイフがあるというだけで全身が動かせない。
「それが君の選択か」
クラウスにしてはやたらと低い声が洞窟内に静かに響く。
気が付くと、ガリガリが吹き飛ばされていた。
「けがはないかい?」
いつの間にか隣に来ていたクラウスが、剣を空中で一薙ぎする。
俺を拘束していたロープが音もたてずに切れた。
「あ、あぁ、大丈夫……痛っ!」
見ると、左手から血が出ている。
それどころじゃなくて気が付かなかったが、どうやら岩か何かで掌をざっくりと横に切ってしまっていたようだ。
「血が出てるね。いま回復薬を……」
ズン、と嫌な音がしたかと思うと、パラリ、と掌に土ぼこりが落ちてきた。
何の気なしに上を見ると、天井の岩の亀裂が目に入る。
それは、幾度か瞬く間にどんどんと縦へ横へと広がっていく。
「な、なあクラウス、あれ……」
「……まずいね。どうやらこの洞窟、今すぐ崩れるようだ」
「……つまり?」
「ペシャンコにつぶれたくなかったら、走ろう」
「ですよねーー!!」
もはや地鳴りまでしている洞窟内を、ガリガリを抱えたクラウスと俺が走る。
その間も洞窟の崩壊は容赦なく進んでいく。
これひょっとすると間に合わないんじゃないかと思ったその時、
「見えた!あれが出口の光か!?」
「そうだね。あそこまで行けば外だ」
走る、走る、走る。
岩を蹴飛ばし、口に入ってくる砂の味に顔をしかめながら大地を踏みしめて、必死に足を前に進める。
小さかった出口の明かりは、見つけた当初の何倍もの大きさになっていた。
不意に、上空から大岩が降ってくる。
そのまま行けば、俺の頭と見事運命の出会いを果たし、俺の人生は感動のフィナーレを迎えるだろう軌道だ。
「そのまますすんで!」
叫び声と同時に、大岩がぱっくりと左右に分かれた。
「マジで死ぬかと思ったんだけど!なんだよ今のマジック!」
ドスン、と精神衛生によくない音を立てて左右に落ちた岩に冷や汗をかきながら、叫ぶ。
「剣術には自信があるからね」
「それにしたって無茶苦茶だろ!」
出口まであと五十歩といったところで、轟音が聞こえた。
それは、洞窟の限界を知らせる音だったのだろう。
それまでの何倍もの岩が降り、どうにか存在を保っていた洞窟は、本格的に崩壊した。
それまで見えていた出口の明かりが、一瞬で岩に埋め尽くされていく。
「すまないノルマン、少し我慢してくれ」
「何言って―――うおぁっ!」
クラウスの言葉の真意を確かめようとしたその瞬間、どこにそんな力があるのか、クラウスの片腕に軽々と持ち上げられ、ガリガリと一緒にまるでボールのように出口へ向かって投げられた。
「ちょっと待ってこれは死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!」
景色が今まで見たこともないほど早く横に流れていく。
ベルトも椅子も安全バーもないジェットコースターに乗っている、そんな恐怖体験をしている気分だ。
あまりの空気抵抗に、呼吸ができなくなる。
「ほんとに……これはヤバ……グベハラッ!!」
何かにたたきつけられた衝撃が、全身を貫いた。
「痛てえ!死ぬ!死ぬ!」
強烈な痛みに悶えて涙目になっていると、それまではなかった、独特なにおいが鼻を刺激した。
「ここ……出口じゃねえか」
顔を上げると、辺りには森特有の景色が広がっていた。
どうやら、間に合わないと判断したクラウスは、俺とガリガリを出口まで投げたらしい。
「クラウス……クラウスは!?」
慌てて振り返ると、走るクラウスの前で、無慈悲にも大岩が出口をふさごうとしていた。
「クラウス!」
叫びもむなしく、大岩で出口は完全にふさがれた。
「クラウス……クラウス!クソッ!」
慌てて大岩に駆け寄り全力でたたくが、びくともしない。
「クソッ!クソッ!」
全身でタックルしようとしたその時、ピシリと音を立て、大岩が二つに割れた。
「すまない、僕は無事だ」
土ぼこりを立てながら、中からクラウスが出てきた。
「よかった!無事だったか!」
「ああ、この通りピンピンしてるよ……おっと」
岩の破片を踏み越えながら歩いているクラウスが、不意によろけた。慌てて身体を支える。
「おいおい大丈夫かよお前……ッ!?」
左手に、強烈な違和感を覚えた。
何か異物が入りこみ、体の中をゆっくりと侵食するような違和感を。
見ると、クラウスの胸を押さえていた左手に、べっとりと血が付いている。
左手は確かにさっきから血が出ていたが、これは明らかに手から出た血だけじゃない。
「お前……ケガしてんじゃねえか!」
クラウスの服の胸の部分が破れ、赤く染まっていた。
「岩で切ったみたいだね。大丈夫、大したことないよ」
「いや大したことないって……これ結構な傷だろ!とりあえず止血しないと……」
あくまで落ち着き払った態度のクラウスにやや不審を抱きながら何か傷口に当てる布はないか探す。
するとクラウスが、笑いながら肩をたたき、
「だから大丈夫だよ。ほら、もう傷口はふさがってる」
と言った。
「……へ?」
クラウスが、傷口に対して乱雑とも思えるやり方で胸の血をぬぐった。
そこには確かに、きれいな肌が広がっているだけだった。
「ど、どうなってんだ?」
「ありがたいことに、これくらいの傷だったらすぐ治るような体質なんだ」
「いや体質ってレベルじゃないだろそれ……」
普通にびっくり人間でテレビに出られるレベルのものを見せつけられて困惑する。だが、主人公なこいつならあり得るのかもしれない。現に傷は治ってるわけだし。ともあれ、
「もう、安全だよな、俺達」
「ああ、もう安全だ」
身体に力が入らなくなり、草むらにどさりと倒れこむ。
「よかった……ありがとう、ありがとうクラウス。本当に、助かった。感謝してもしきれねえ」
「親友が困っていたら助ける。当たり前のことをしただけだよ」
「……お前がいなきゃ、俺はきっと死んでたと思う。正直、さっき一度はもう無理だとあきらめてた。それを 助けてくれたのは、クラウスだ。本当に、感謝してる。お前は俺にとっての英雄だよ。クラウス」
「……君からその評価をしてもらえるなんて、これほどうれしいこともないよ」
空を眺めながら、濃過ぎる今日を振り返る。
死ぬほど怖い体験に、元の世界では陥ったこともないような危機。あまりに過酷なスタートダッシュだったが、それらを経て分かったこともある。
今回の一件を経て、俺は固く、あることを決意した。
――――――――絶対にあの魔王を見つけ出して、元の世界に帰ってやる、と。
今日はここまで―!
これにて序章は終了です。
次話からいよいよ一章。
憑依したり中二病だったり攫われたりとやたらと忙しい序章でしたが、一章から出したかった濃いキャラたちが来ると思いますので、ぜひとも楽しんでいただければ幸いです。
そういえば、友人のエイ君はなぜか、読んでいてノルマン×クラウスが読みたくなったようです。
エイ君ェ……