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act.2 「送魂の地」
―― 2年前。
―― マガ王、不在位暦九九七年 ――
晩夏、夕刻。
ザキア峡谷の最奥、トガヒの一族が『送魂の地』または『送り場』と呼ぶその場所から彼女の宿命は動き出した。
峡谷の切り立つ崖の合間から見える僅かの空が茜色に染まっている。
燃え盛る無数の炎が谷底から黒い岩肌を舐めるように幾筋もの黒煙を立ち上ぼらせていて、煙の周囲では大型の猛禽類たちが鋭い鳴き声をあげながら焼け残った腐肉を狙ってか旋回しているのが見える。
―― 腐肉。
…… そう、谷底ではいま次から次へと運び込まれる夥しい数の死体を幾日も前からいつ果てることなく焼き続けているのであった。