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千年地獄の呪われ王  作者: 第八のコジカ
第1章 「風の宿命」
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act.13 「兄妹のじゃれあい」

 ハクトは、少し離れた場所から、兄ジュウベエの一連のドタバタを、実に嬉しそうな表情で眺めていた。


(兄さまって、本当にいつも、面白いことをやっているわ! )


 面白いこと、というのはこの場合、キィザ&スケクローへの情け容赦無い制裁のことを指すのだが、ハクトは真実、それを面白いことだと思っていた。


 別にハクトが、サディストだとか拷問に興味があるとか、そういった類の話ではない。


 彼女には、ジュウベエのように立場の違いに関係なく、身体と感情の全部でもって、ぶつかり合えるような友達がいなかったのである。


 だから、ジュウベエのすることはハクトにとってどんなことでも羨望の対象であり、また心底、楽し気なものに見えた。


 +++++


 ハクトは長く一人であった。元々少し身体が弱かったのもあるが、大好きだった父親を早くに亡くしてしまい、そのショックで感情が上手く出せず、ふさぎがちになってしまっていた。


 母リノはもちろん優しく、ハクトを愛してくれたが、いかんせん女手一つで生活していかなくてはならなかったから、必然、幼いハクトを預け、働かねばならぬことも多かった。


 だが、ある時、ジュウベエとの出会いが、ハクトの全てを変えた。二人が出会ったのは、シンザとリノが再婚した時が初めてで、ジュウベエが七つ、ハクトが五つになったばかりの時である。


 ジュウベエは、怖がって外に出ず、それゆえ、ほとんどまだ言葉も喋れなかったハクトに向かって、こう言った。


「いつまで屋敷ん中で、ツマンナイ顔してるつもりだ? 行こうぜ。外にはいろんな風が吹いてる。それを知らないなんて、絶対にダメだ! もし、なにか怖いものとか、嫌いなものがあるんだったら、俺に言え。全部、お前の前から吹っ飛ばしてやる! 」


 そういってジュウベエは、掌をいっぱいに広げて、ハクトの目の前に差し出し、生え揃い始めたばかりの歯を見せ、満面の笑みを見せた。


 その不思議と人の心を癒すような笑顔を差し向けられたハクトは、そっとジュウベエの手を握り返し、こっくりとうなづいた。


 +++++ 



「にーいーさー・・・・・・ま!! 」


「ぐぇっ!? 」


 唐突に、背後から猛烈な勢いで走ってきて、そのままタックル気味に、ジュウベエの首筋に抱きついてくるハクト。


ジュウベエに抱きつくのが、嬉しくて堪らないといった風に、両足で胴体を、両腕で首を、全力でもってホールドしに掛かっている。


 無口で大人しかった少女は、自由で奔放な兄と過ごすうち、いつしかその兄に負けず劣らずの明るい心とアクティブさとを身に着けていた。


 そして、誰よりも深く、強く、この異母兄を尊敬し、愛するようになっていた。


 ただ少々。その愛情表現が過激であった。行き過ぎたスキンシップが、たびたびジュウベエを悩ませることになっていた。悩ませる……色んな意味で、である。

 

完全に不意を突かれる格好になったジュウベエは、ハクトを振りほどく事が出来ず、ジタバタともがいていた。無論、キィザ&スケクローの上に乗っかったままである。


 いくら華奢な少女とはいえ、人ひとりの体重が加算されたわけだから、いよいよ下の二人は苦しさに呻いた。


 一番下のキィザに至っては、なんとか顔を横にし、呼吸は確保したもののほとんどスケクローの肉に埋没するような感じになっていた。


さて。ハクトの細腕が、バッチリとジュウベエの首筋に食い込んでいて、スリーパーホールド気味に締め上げるような形になっている。


 もう一度言うが、この娘はサディストでも残虐趣味でもない。ただただ、ジュウベエへの愛情表現が過激なだけである。しかも、自覚無く、間違って過激なだけである。


「お・・・・・・おい! やめろハクト! 入ってる、入ってるから・・・・・・!」


「兄様兄様兄様! やーっと、会えた。今日1日、兄様と一緒に居られなかったから、ハクトは詰まらなくって詰まらなくって。退屈で死んじゃうかと思ったの! 」


「そっ、そうか。わかったから、放せ」


「ホントだよ! 退屈で死ぬとか、ありえないって思ったけど、ありえるところだったの。もうちょっとで、ふーって意識が飛んじゃうところだっの!」


「わ、わかった。わかったから放せハクト。俺の方が今、ふーってなりそうだからっ!! 」


「えーっ!? それウケるー 」


あどけない口調でケラケラと笑いながら、ハクトの細腕がキリキリとジュウベエの頸動脈を締め上げる。ジュウベエの顔色が、赤から紫、そして青色に変わってゆく。


 ちなみに、この時下の二人、スケクローは重さに苦しんで真っ赤に、キィザはもはや、カサカサの土気色に至ろうとしていた。


 あやうく意識が飛びそうになったその時、ジュウベエが風の力を使ってハクトを首筋からひっぺがした。


「いい加減に・・・・・・しろってんだよ!」


「きゃはっ!!」


嬉しそうな叫び声。待ってましたと言わんばかり。


 風に舞い上げられ、ハクトの身体が宙にふわっと浮かび上がる。またジュウベエが風の力を使ったのである。


「兄さま、素敵! 」


 楽し気にその浮遊感を満喫するハクト。重さを感じさせない、不思議な浮き方。


 やがて、ゆっくりフワリフワリと落下してゆき、下で待つジュウベエが広げた腕の中に、お姫様だっこの姿勢で収まった。風の力が霧散し、ジュウベエの両腕にハクトの重みが掛かる。


 当然、下の二人にも掛かる。


「兄さまっ!! 」


 間髪入れず、再び抱き着こうとしてきたハクトを、ジュウベエは腕の力を抜いて、ハクトを下に落とすことで回避した。


 「きゃっ! 」となるハクト。


 肘から落ちたので、スケクローの柔らかい背中の肉に、グッとその鋭角なエルボードロップが突き刺さる。


 急所を突かれたスケクローは「ぎゃあっ!」となり、思わず気を失った。そしてその弛緩した肉の下で、キィザがいよいよその短い人生の幕を下ろそうとしていた。



 

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