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千年地獄の呪われ王  作者: 第八のコジカ
第1章 「風の宿命」
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act.10 「頭領の自覚」

 

 ジュウベエが、皿からはみ出すほどの大きさの肉にかぶりつき、瞬く間にそれを口の中へと押し込んでいった。いや、もはや飲む、吸い込むといった表現の方が正しいようにさえ思える。


 それほどの早さだった。すぐ横に座ったキィザが「ちゃんと噛んでるのか、それ? 」といった表情で呆れている。


 そんなことはお構いなしに、ジュウベエは次の肉に手を伸ばしていた。幸せだった。かれこれ7~8枚ほど、このぶ厚く切られた野牛ステーキをたいらげている。


 手が、口が、止まらない。これほどまでに、俺は、血肉を欲していたのか! と、自らの肉欲(性的な意味でない)に驚愕するジュウベエであった。


 仕留めた獲物のサイズ通り、そこから切り出された肉も、また巨大である。


 だからといって、味も大味かというと、けしてそんな事はない。実は、ギガント・ロングヘアーは、その巨体に似合わず、食べる物に細かい野牛で、上質な草や、森の果物などを好んで食べる。水も、川の上流のものしか飲まない。


 そういった野牛自身のグルメな性質の結果、肉の品質が高まり、どの部位をとっても美味となる。


 加えて、いま、ジュウベエが頬張っているのは、いわゆる最高級部位(サーロイン)。肉は、柔らかく旨味たっぷりで、焼いて塩を一振りするだけで、絶品料理と化していた。


 ジュウベエが、やめられない、止まらない、状態になっていたのは、そういった理由だった。


 だが、それでも他の者たちは、せいぜい食べても2~3枚で満腹になっていた。いくら絶品肉といえども、サイズがサイズである。


 まったく、ジュウベエの胃袋はどうなっているのか。この細身の身体のどこに、それだけの肉が入っていくのか? 周囲の者たちは不思議でならなかった。


「もうダメだーー。お腹いっぱい、ドフゥゥウーーーー 」


 ジュウベエの向かいに座り、負けじと肉をほおばり続けていたスケクローだが、5枚目を食べ終えたところで、とうとう空を仰いで、満腹宣言と共に盛大なげっぷを吐き出した。


 そんなスケクローを尻目に、ジュウベエは更に2枚の肉を口の中に押し込み咀嚼し、とどめとばかりに、木製のコップになみなみと注がれた果実酒を、一気にあおって、肉もろとも喉から胃へと流し込んだ。


 空になったコップをドン! とテーブルに叩きつけ、手の甲で口元を拭って、喜びの声を上げた。


「かぁああああっ!! 美味いな。たまんねぇな! ……おい、そっちの骨付きの一本貰えるか? 」


「どんだけ食うんだよ!? 」

 

 すぐさま次の肉を所望したジュウベエに、たまらずキィザが、突っ込みを入れた。


「いいじゃねぇか。久方ぶりの肉だぜ?キィザも、もっと食えよ 」


「こっちゃ、もう腹いっぱいだよ。ジュウベエみたく、胃が異次元と繋がってないの、コッチは 」


「いや、普通だろ。こんなの 」


「普通じゃ、ないよーー。グラトニーモニターも真っ青な食べっぷりだよーー 」


 パンパンに膨らんだ腹をさすりながら、スケクローが喘ぎ喘ぎキィザに同調した。


 ちなみに、グラトニーモニターとは、この砂漠一帯に棲息している大型の爬虫類のことで、別名、暴食トカゲ。


 その名の通り、暴食・悪食ぶりが特徴で、人でも、動物でも、動くものなら何でも口に入れると言われている。ジュウベエのような、大喰らいの人間を揶揄するとき、例えに使われる。


 しかし、当のジュウベエは、そんなことなど、どこ吹く風で、しれっと 「あのデケェ、トカゲか? ありゃ、もともと青い体してるだろ 」 そう答えて、立ち上がり、テーブルの少し離れたところに置かれた、お目当ての骨付き肉に、自ら手を伸ばそうとしていた。

 

「そういう意味じゃ、ねぇって 」アハハと、力なく笑ってキィザは、果実酒の入ったコップを傾けた。スケクローは苦しいらしく、ベンチの上で仰向けになっている。


 骨付き肉を手にしたジュウベエは、あっという間に、周りの肉を剥ぎ取り、飲み込み、骨だけにしていた。なおも、肉を探すジュウベエだったが、当然、彼らのテーブルの上に、肉は残っていなかった。


「おーーい! わりぃ、肉、なくなっちまったわ。次の頼めるか? 」


 肉を焼いてる若い衆に向かって、さらに、おかわりを叫ぶジュウベエ。キィザもスケクローも、もはや何も言わなくなっていた。


 しかし、すぐ近くの、別のテーブルで、食べていたシンザが、いい加減にしろと口を挟んだ。


「いい、いい。このバカに食わせる肉は、もうねぇ。次、焼けた奴は、こっちに持ってきてくれ」


「ふざけんなよ、親父! 俺を、餓え死にさせてる気かよ!! 」 憤懣やるかたない、といった具合にジュウベエが叫ぶ。


 その時、周囲にいた全員が(するわけねぇだろ! )と、心の中で突っ込んでいた。「肉、肉! はよ、肉! 」と、あたかも、肉中毒の禁断症状を起こしたかのように、震えだすジュウベエ。


 その額に、ピシッ! と、小さな骨がぶつかった。シンザが、手に持っていたのを、投げつけたのである。額を指でさすりながら、ジロリとシンザの方を睨むジュウベエ。


「……あにすんだよ? 」


「お前なぁ、ちったぁ自重しろ。丸々一頭、食い切るつもりか? 」


「んなわけ、ねぇだろ。あのデカさだよ? 食い切れるわけ、ねぇべ 」


「そういうこと、言ってんじゃねぇ。テメェ一人で仕留めた獲物か? って言ってんだ」

 

 ジュウベエの視線に、なんら臆することなく睨み返すシンザ。


 動かず、表情に出さなかったが、ジュウベエも内心(やっちまった、な )と、思っていた。


 シンザが言っているのは、頭領の息子としての心構えについてだと、気付いたからだ。仕留めた獲物は、一族皆を養うためにある。


 自分ばかりが口にしていて、それで周囲の者に示しがつくのか? シンザが言っているのは、そこである。


 そのことに気付いたのだから、潔く自覚の足りなさを認めて、謝ってしまえばいいのだが、ジュウベエには、それが素直にできなかった。


 下手なプライドが邪魔したのである。


 ジッとシンザを睨んだまま、動けずに居て、なんとかして、格好悪くならずに、この場を誤魔化そうと考えていた。だが、気持ちが焦るばかりで、ちっとも良い方法は浮かんでこなかった。


 シンザは、息子のそういった内心までも見透かしていて、どうやって、この場を切り抜けて見せるか、それを確かめるために、あえて、助け舟は出さず、睨みつけたままの状態を保っていた。

 

 結果、十数秒間、視線がぶつかり合い、沈黙が場を支配した。二人のかもす険悪な雰囲気に、周囲の者たちも、どうしたものかと困り始めた時、唐突に、助け舟を出す者が現れた。


「はい、ジュウベエ。まだ、お腹が空いているのなら、こっちのおイモをいただきなさい 」


 2枚の大皿に、こんもりと山盛りにされた、蒸かしたてのイモを、両手で器用に運びながら、ジュウベエの継母、リノが、とびっきりの笑顔でやってきたのである。


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