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千年地獄の呪われ王  作者: 第八のコジカ
第1章 「風の宿命」
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act.8 「解体作業」

 闇夜に浮かぶ満月。


 立ち込める血と獣の臭い。


 活気に満ちた喧噪。掛け声、笑い声、陽気な音楽。


 赤々と燃え盛る篝火の炎と月明かりが、サキカゼの者達が働く周囲を明るく照らし出している。


 野牛解体現場のそこかしこに何十と設置された篝火台は、陽が落ちる前に素早く組み上げられた。


 三本の細長い柱を地上1.5メートルくらいの高さで交差させ、その部分を荒縄で縛ってあるだけの簡素な作りで、縛り目のすぐ上に重そうな鉄製の黒い篝籠が据えられている。


 籠の中では脂気をたっぷり含んだ松の木が黒煙を上げながら燃えていて、時折りパチパチと薪が爆ぜ細かな火の粉を飛ばしている。


 作業現場の中央には、造りこそ篝火台と同じ理屈だが、その大きさが比較にならないほどに巨大な、いわゆる三又(やぐら)が立てられており、当然そこに昼間仕留めた巨大な野牛が吊り下げられていた。


 闇夜に照らし出されるその様は、異様でありまた圧巻である。


 作業に従事している者たちは、地面に立ったままではまるで上の方に届かないので、櫓の周りに足場を組んで上り、その狭い板の上で巨大な獲物に取り付き、せっせと肉を切り落していた。


 日暮れ前から始まったこの解体作業は、夜になっても休むことなく続けられ、先ほどようやく1頭目の処理が終わったところだった。


 今は2頭目を吊り上げ、その処理を始めたところだが、まだまだ時間のかかる仕事だし、シンザの指示で交代で休みをとりながら進めることになった。

 

 若い衆とはいえ、狩りのときからずっと働き詰めで、今なお作業の中心にいる彼ら。そのそれぞれ顔に疲労の色が濃くなっていたのは明らかで、シンザが頭領らしい配慮をしたのである。


 ちゃんと皆の腹が減っていることも見越していて、少し前から手の空いた者に食事の用意も進めさせている。


 それに先ほど、身支度を整え村から大勢やって来た女衆やベテラン衆が仕事に加わってくれたので、若い衆を休ませるのにちょうど良い具合になっていた。


 自らも手を止め、シンザがジュウベエら若い衆に声を掛ける。


 「皆ご苦労! ここらで飯にしようや。先はまだまだ長い。食うもん食わなきゃ力も出ねえってもんだ。そうだろ? 」


 「さすが親父殿!一族思いの名頭領!! 」


 ジュウベエもシンザのその素晴らしい提案に、一も二もなく同意した。と言うよりも、すぐ側で食事のために焼き始めた肉、その香ばしい匂いに食欲を掻き立てられ、さっきから居ても立ってもいられなくなってソワソワしていたのである。


「へっ! お前ら今日は特別だ。好きなだけ食っていいぞ! 」


その気前の良い頭領の言葉に、ジュウベエ始め若い衆らが拳を突き上げ、歓声をこだまさせて喜びをあらわにした。


 もちろんジュウベエがイの一番に道具を放り出し、ほどよく焼けた分厚い肉を取りに行ったのは言うまでもない。


 久方ぶりの大きな狩りの成功に沸き立ち、ほぼサキカゼ一族総出で行う解体作業は、もはやちょっとしたお祭り騒ぎのように活気づいていた。


 解体作業にいそしむ者。焼けた肉をむさぼる者。酒を飲み始める者。若い娘をからかって笑っている者。どこからか持ち出した楽器をかき鳴らし陽気な歌を歌う者。その周りで踊る者。


 皆が思い思いに素晴らしい狩りの成果を称え、喜びを共有していた。


 平和だった。

 

 そして豊かな夜であった。

 

 しかしながら、そのような幸福に満ちた時は長く続かないものである。


 篝火の明かり届かぬ暗闇の向こうから、死と絶望を連れた者が迫りつつあった。


 だが誰一人として、そのことにまだ気付いていなかった ―― 。


 

 

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