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千年地獄の呪われ王  作者: 第八のコジカ
第1章 「風の宿命」
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act.5 「術式」

 この世界の「魔法」と呼ばれるものについて、その概要をごく簡単に説明しておく。


 一言でいえば、マガハラでいう魔法とは「加護を受けた精霊の力を術式を介して借り受ける」ことである。


 例えばナラカのトガヒ一族は火精霊の加護を受けていて、炎を自由に操ることが出来る。


 ジュウベエらのサキカゼ一族は風精霊の加護を受けていて風を使うことができる、といった具合である。


 人には「念じる力」があり、これを上手く使いこなすことが魔法発現の基礎となる。


 これは言葉に出してもいいし、また出さなくても良い。言い換えれば頭の中(もしくは胸の内)で精霊に対し強く「想いを伝える」または「話し掛ける」という事である。


これは頭の中で「考える」ということとは決定的に異なるのだが、ここのところのニュアンスが理解し難い者には非常に難しいらしい。

 

念ずることと考えることは異なる行為である。ひとまずはこれだけ覚えておいてもらえれば良い。


 さて、念じる念じ方にも様式があって、それが「術式」と呼ばれるものだ。先に言葉に出さなくても良いと言ったが、最初の内はこの術式をハッキリと口に出して詠唱した方が良い。


 初心者はこの術式を詠唱し正しい手順に沿うことで精霊への念をスムーズに伝えることが出来るようになる。翻って言えば、上級者になるほどこの術式の詠唱が速く、また間を省略しても精霊にはたらき掛けられるようになるのだある。


 習熟度の違いで、詠唱の速さにもハッキリと差が現れ、以下のような段階がある。


・『正音詠唱』 いわゆる普通の速度。術式の言葉を一言一句正しく発音する詠唱。


・『高速詠唱』 正音詠唱の倍速で詠唱を行う。単純に早口で言っているのとは少し聴こえ方が異なるが、まだ正音の術式とほぼ同じ内容で、聴く者にもそれが理解できる。


・『超速詠唱』 高速の更に倍速。正音の4倍。もはや術式の一言一句は聴き取れない。術者の任意で省略も行われる。

 

 当然のことながらかなりの修練を積み、技術を磨いたうえで、センス(感性)が高くなければ、この超速詠唱は会得できない。また術者と精霊との親和性も重要である。


・『無詠唱術式』 超速詠唱をも凌ぐ最上級の術式発動の能力である。術式の詠唱自体を必要とせず、ただ本当に『念じる』『想う』だけで精霊にはたらき掛けることが出来る。

 

このレベルへは修練をいくら積んだところで達せるものではなく、先天的な才能、特に-精霊に愛される-といった特性をもって生まれたごく一部の者だけに与えられるものである。


 さらに補足としていわゆる魔道具の事も記しておく。


 ここでいう魔道具とは、魔法を行使する能力のない者でも使えるという代物で、精霊の力とそれを発現させる術式を封じ込めた「術式結晶」なるものである。


見た目はクリスタルのような質感で、形と色は封入されている精霊の力の種類と大きさによって千差万別である。


 これの研究が進んだことで、非常に様々な術式結晶が生成されており、それらはマガハラの人々の生活のあらゆるところで日常的に使用され、いわゆるインフラを支える基盤の役割を担うほどである。


 簡単に、と言いながら少し長くなってしまった。


 場面をサキカゼの狩りの話に戻そう。


++++++++++++++++++++


 早馬にまたがったジュウベエが、ついに巨大野牛らを罠の発動ポイントまで誘い込むことに成功していた。


 獲物をおびき寄せたポイントには直径50メートルほどの魔法陣がはってあり、その図形に沿った要所要所に風精霊の力を込めた件の「術式結晶」が埋め込まれていた。


 この範疇に獲物を入れてしまいさえすれば、こっちのものである。仕掛けた術式結晶が一斉に発動すればいかな巨大野牛といえどもひとたまりもないはずである。


 ただし、その術式結晶の力を発動させるため、一瞬だけ魔法陣の中央部分で獲物を足止めする必要があった。


 魔法陣の後方には等間隔で隊列を横一文字に展開したサキカゼの若者たちが獲物を待ち構えていた。右手に刀を握り、左手は刀身にあてがい、皆でタイミングを合わせ、獲物が迫る少し前から正音詠唱による精霊への働きかけを開始していた。


 それぞれの左手の甲に刻まれたサキカゼ一族の証『風の紋章』が光り始め、小さな魔法陣が紋章の上に展開される。やがてその魔法陣の周辺に風精霊たちが光体の姿で顕現し始め、各々の刀身に風の力を付与していった。


 隊列の中央でシンザが出張って指示を飛ばす頃合いを見計らっている。


 当然のことながら、シンザの刀身にはすでに風精霊の力が宿っている。さすが頭領と言うべきか、シンザはサキカゼで数少ない超速詠唱の体現者だった。


いよいよジュウベエの乗った早馬が魔法陣の中央を駆け抜けるまであと30メートルまで迫った。


「構え!」


 シンザの号令に応じて、若い衆が一斉に風精霊の力が宿った刀を振り上げる。緊張によってピンと空気が張り詰めた。


 あと10メートル…5メートル…ジュウベエが魔法陣の中央を駆け抜けた!。いまだ!!

 シンザが吠える。


「はなてぇぇぇっ!!」


 気合一閃、シンザと若い衆、皆が一斉に刀を振りぬいた。

 

風精霊から付与された力が風の斬撃、いわゆるカマイタチとなって野牛目掛けて放たれ、空を斬り裂く音を響かせながら飛んでゆく。


グシャブシャグシャァッ!!


ちょうど魔法陣の中央に差し掛かった先頭の野牛のまさにその鼻先に、幾重にも重なった斬撃が一局集中で刻み込まれた!!


 これにはさしもの巨大野牛も、唐突に刻食らった予想外の痛みで、もんどうりをうって棹立ちになった。


「ンゴォオオオオオ!!!」


先頭を走っていた野牛は、咆哮をあげながらなんとか二本足で立って痛みを我慢しようとしたが、そこへ後ろを走っていたもう一頭がもろにぶつかったきたの2頭一緒に派手にひっくり返った。


また訳も分からず続いた子牛も、その大人2頭のひっくり返る余波をものの見事に食らって下敷きになった。


足止めが思い通りに成功した。あとは術式結晶を発動させ、獲物にトドメを刺すだけである。


事の順調な運びにニヤリとしながら、シンザは術式結晶発動の位置についていた若い衆らに「やれっ!」と合図を送った

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