試読みエピソード 「ナラカ」
キャラクターのイメージを持ちやすいように、試し読みのエピソードを書きました。
本編の時系列とは関係なく、キャラたちのやり取りを楽しんで頂ければ幸いです。
そして気に入って頂けたら、プロローグへとお進みください。
ページ下部に「ナラカ」の設定資料も公開しています。
トガヒ・ナラカ
サキカゼ・ジュウベエ
サキカゼ・ハクト
―― そうか。こういう兄妹仲ってのもあるんだな……。
私はふと、そんなことを思った。
星空の下。森の中の少し開けた場所。
焚火を囲み、私 ― ナラカ ― は、ジュウベエ、ハクトの三人で夕食をとっていた。
今日のメインは野鳥の肉を焼いたもの。正直そんなにすすまない。私はフォークでお皿の鳥肉をつつきながら、ぼんやりと目の前の二人を見ていた。
私の目の前では、ジュウベエとその妹のハクトが、一個のこんがりと焼けた鳥肉を巡ってさっきから骨肉の争いを繰り広げている。
「おまっ!? それは俺の分だろうが!」と、ジュウベエが目にも止まらぬ速さでフォークを突き出し、ハクトに奪われた鳥肉の塊を奪還しようとする。
「そんなのズルイ!ハクトだってもっと食べたい! 」と、ハクトも自らのフォークに力を込めて譲らない。
一個の鳥肉に互いのフォークを突き立て、互いの顔を力任せに押さえつけ合う二人。どうやら先に少しでも口を付けた方が勝ち! みたいなことらしい。
「アンタたちねぇ…… 譲り合いの精神ってのは無いわけ? 」
ため息交じりに仲裁を試みる。
「ナラカ様のバカッ!! 譲るなんてできない!! 」
「そうだバカヤロウ!! そんなことして腹がふくれんのか!? いいや、ふくれねぇ!! 」
「バッ!? ……えぇ?」
二人の凄まじい剣幕に思わずたじろいでしまった。―― いや、その前にちょっと待って。コイツらいま、私のことバカって言った? バカって言った!?
額にピキッ! と、「怒りマーク」が浮かび上がりかけたのが感じられたが、それを無理矢理に笑顔で押さえ込んだ。
……ふーぅ。落ち着きなさいナラカ。大丈夫。そうよ大丈夫。私はそれくらいじゃ怒らない。だって大人の女だもの。……よし! 気を取り直して……まずはハクトから。
「あのね、ハクト。そういうのは、女の子としてはしたないことで…… 」
「はしたなくたって良い!! 食べたいっ!! 」
ダメだ。この娘、目がマジだ。となればジュウベエに……
「ねぇ、ジュウベエ。アンタお兄さんなわけだし、今日くらい妹に食べさせてあげればいいんじゃ…… 」
言い終わる前に、食い気味でジュウベエが吼えてくる。
「だったら今すぐ兄なんてやめてやらぁっ!! 」
「やめるとかないから! ……って言うか、いい加減食べすぎなのよアンタたちは!!」
そこら中に食べ終えた鳥の骨が散らかっている。昼間の狩りで仕留めた分のほとんど全部を、一回の食事でこの兄妹は食べ尽くそうとしていたのだ。本当に冗談じゃない。
「ったく、もう。2~3日分は食料を確保できたと思ったのに。信じられないわよ」
「だって食べたいものは食べたいもの! 」
「そうだ!食べたいのを我慢して餓死したら責任とれんのか、テメェ!? あぁ!!? 」
まるでチンピラの言い草だ。食べ物の恨みは恐ろしいと言うけど、この二人の食欲というか独占欲は、とにかくタチが悪いというのがよっく分かった。どちらか一方に「譲れ」と言って聴かないのなら……
「だったら、せめて……仲良く『半分こ』になさい! 」
私はいがみ合う二人の間を縫って、右手の甲で下から鳥肉をカチ上げた。フワッと地上2メートルくらいの位置に浮かぶ鳥肉。二人は同時に「あっ!! 」と叫びながら見上げている。
すぐさま肉をキャッチしようと動き出そうとした二人よりも速く、私は刀を素っ破抜いていた。
――シャキッ!! という子気味良い音がして、空中で鶏肉は真っ二つに分かれた。
ジュウベエ、ハクトがジャンプしながら、それぞれに一片ずつ肉をキャッチしたのと、私が鞘に刀を収めたのはほぼ同時だった。
「……はい。これでお互いに恨みっこなし。仲良く二人で半分こよ」
私はニッコリと笑って二人に言った。我ながら素晴らしい。いかにも「お姉さん」な対応であったと思う。
ところが――
「あつつ、あつあつっ!!あっちゃあああああっ!! 」
「お肉がっ! お肉が、あっつうううぁい!! 」
「……え? 」
二人の手の中で、鳥肉がメラメラと燃えていた。ウソ。私、やっちゃった?無意識に火炎術式やっちゃってた?
燃え盛る鳥肉を手の平の上で転がしながら、二人も転がるようにのたうち回っていた。あーあーあー……鳥肉がどんどん焦げていく。
……うん、ごめん。これは、ごめん。で、でもまぁ、これもある意味で二人仲良く半分こ、ってことで。……そう! 悲しみを仲良く半分こ! ってことで……とは、ならないよね。うん。
「あー……ごめん。二人とも、大丈夫…… ? 」
地面の上で、もはや消し炭となった鳥肉に覆いかぶさるようにして震えている二人に、私は恐る恐る声をかけた。
「ナラカ! てめぇええ!! なんてことしやがる!この大バカヤロウ!! 」
「炭にっ!! お肉が炭になったぁあああ!! バカバカバカバカ!!ナラカ様のバカーッ!! 」
「返せ! 肉返せバカ!! 」
「そうだ!我らに肉を!! バカは責任をとれぇー!! 」
兄妹そろって罵倒の嵐。何回「バカ」っていう気だ貴様ら。
――ブチッ。もういい。キレたぞ、コノヤロウ。
私はもう一度、今度はひどくゆっくりと刀を抜いた。そして今度は無意識でなく、意識的に刀身に火炎術式による炎を纏わせたのだった。
左手に握った刀に、勢いの良い炎が踊っている。
「え……? 」
「ナ、ナラカ様……? 」
最初はゆっくりと、しかし途中からは段々と激して早口になるのを抑えられなかった。
「バカバカうるさいのよっ!! バカって言う方がバカなのっ!! これ世界の常識だから!! バカって言う、アンタたちの方がバカだから!! 絶対バカだから!! っていうかねぇ、アンタたちがくだらないことで喧嘩するからでしょうが!! このバカーッ!! 」
気付いた時にはありったけの大声で叫んでいた。
叫んだらちょっと、スッキリした。そして急速に恥ずかしくなってきた。刀まで抜いてどうする気だ私……。刀身の炎がみるみるしぼんでいった。
――だが、しかし。
「「いや、一番バカって言ってるの、そっちだから。ってことは、ホントのバカはそっちだから……ねぇ? 」」
ナドト、アニイモデ、カオヲミアワセ、ヌカシオッタ。
途端に刀身の炎が勢いを取り戻す。
「うおりゃぁあああああああっ!! 」
私は全力で刀を振り回してやった。慌てふためいた二人が走って逃げ回る。ダメダメ、これくらいじゃ許さない。ほぅら、もっと踊れ踊れぇ!!
逃げ回る二人を追い掛け、そのお尻を燃え盛る切っ先でチクチクと突いてやった。勿論、滅茶苦茶に手加減して。
「あはははははははははっ!! 」
気付けば私は、声を出して大笑いしていた。
トガヒの里を出て以来、いや、あの日からずっと……こんなにも声を出して笑ったことはなかった。
そう。私はいま、生きて、笑っている!!
「……ありがとう。ジュウベエ。ハクト」
私がそう呟いた時、二人は燃え盛るお尻を押さえ、近くの川に飛び込んだところだった。
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以下は、ナラカの設定資料です。
【名前】
トガヒ・ナラカ
【通称】
「焼き場の歌い姫」
「左剣のナラカ」
「炎眼のナラカ」
「炎眼・左剣の」
合わせて「炎眼・左剣の歌い姫様」など
【一見した特徴】
赤髪・炎眼の美少女。
【属性・一族紋】
「炎」
【使える術式】
火炎の術式全般。攻撃の方が得意で、補助・回復系は不得手。
【各種データ】
年齢:15歳
身長:152cm
体重:43kg
B:84cm・Dカップ
W:56cm
H:80
【性格】
負けん気の強い性格で、細かなことにとらわれない。やや大雑把でもある。
家族や仲間想いで、縁のある人間は必ず大切にする。
年相応でない、長としての覚悟の深さも持ち合わせる。
【好きな食べ物】
果物や甘いお菓子。特に焼き菓子が好物。
【苦手な食べ物】
脂っこい肉。苦いもの全般。
【趣味・特技】
「オリジナルソング」を歌ううこと。美声の持ち主で、かなりの高音が出せる。彼女の歌には鎮魂の願いが籠められているものが多い。ときに恋心の切なさや喜びを歌うこともある。
【生い立ち】
マガハラの不浄一切を焼き清めることを生業とするトガヒの一族。その長の家に生まれた姫君。長女。リュカという名の妹がいる。
両親は3年前に他界している。ゆえに肉親は妹のリュカのみで、その妹が病弱なこともあって、彼女を溺愛している。
幼い頃から、父に厳しく剣と術式を鍛えこまれた。
左剣な理由は「長を継ぐ者」のしきたり。トガヒの長の家では、代々長となる者は左手で剣を振るうように育てられる。これは一族の開祖が左剣であったことに由来する。ちなみにナラカは、生まれつきの左利き。
十五の年ながら、剣も術式も一族で並ぶものが居ないほどの腕前。
現時点で、物語に登場する唯一の「マガ王 三化身」。
マガ王の紋は、両親が死ぬこととなった「ある事件」がきっかけとなり発現した。
【外見の特徴】
一見してそれとわかる美少女。
意志が強く凛とした印象。小柄だかプロポーションが良い。
家族や仲間の前では、つとめて明るく振舞おうとするが、死人の悲しみに常に触れる生業のため、その紅い瞳に愁いを漂わせることもしばしば。そこがまた、彼女の美しさに深みを与えてもいる。
腰の辺りまで届く、輝くような赤髪はトレードマーク。
毛先の方に近付くにつれ、髪色がグラデーションで橙色になる。左側(向かって右側)の髪をサイド編み込みにしているアシンメトリーな髪型。ごくゆるくウエーブががっており、動きのある印象。ちなみに左側の髪を編み込んでまとめてあるのは、本人曰く、「左手で剣を振るう時に邪魔になりやすいから」。
もう一つのトレードマークは大きく紅い瞳。
その瞳は「炎眼」とも呼ばれ、ナラカの感情によって色が変化する。
平常時は、深みのある赤色でいわゆる「深紅」。気分が明るくなると瞳の色も明るく、沈むと暗くなる。
特に激しく変化するのは、闘いのときなど。興奮したり、怒りで感情が昂っているときなどは「真赤」になり、輝いているようにさえ見える。
血色の良い肌色。色白というわけでなはいが、きめの細かい美しい肌である。
服装は、黒のローブとマントがデフォルトの民族衣装。それぞれに炎を象ったトガヒの紋が赤く染め抜かれている。
ローブの胸元がチラリと開いている。これはトガヒの紋形に切り抜かれたデザイン。スカートは膝上。ハイカットのブーツで絶対領域が発生。
左耳に小粒な金のピアス。「守る者」の意。これは妹のリュカに対する想い。ガチ百合ではない。その他にも、腕輪やネックレスなど、動くのに邪魔にならない程度にはお洒落をしている。
持っている刀は、トガヒの一族に伝わる業物。名を「業火」
トガヒ一族の開祖である人物が持っていた刀で、その人物も「左剣」であった。当然、その拵えも左剣仕様になっている。
朱塗りの鞘。柄は、赤い鮫皮を黒の柄糸で巻いてあるので一見黒く見えるが、菱の部分から鮫皮の赤が見える。赤と黒のコントラストが美しい。
刀身は通常は銀色だが、術式の炎を纏うと輝くようになる。
【ソウルメイト】
金色の毛並みをした四足獣。オオヤマネコの「アーグ」。
アーグは厳密には生物ではなく、ナラカの「念」によって生み出された「念生体」。常に彼女に寄り添い守護する。ナラカが三歳の年に、子猫の状態で生み出した。以来、共に育ってきた仲。
【作者のイチオシ】
強く美しい印象のナラカですが、年相応に可愛いところが随所にある女の子でもあります。仲間内ではどちらかと言えば「ツッコミ」役にまわりがちですが、大雑把で無頓着な性格から、けっこうなポカをやらかしてアワアワしてる姿……なんてのも描いてみたいです。
とにかく、人を大切にする子。
でも、その「人」の中に自分自身を含めていないふしがあり、行動が自己犠牲的になることもしばしば。いつかそれが、取り返しのつかないことにならなければ良いのですが……。
彼女がたどる宿命はおそらく過酷なものとなりますが、懸命に生きようとするナラカをどうぞよろしくお願いします!
最後まで読んでくださって、ありがとうございます。
よろしければ、このままプロローグへとお進みください。
本編はまたちょっと違った雰囲気から始まっています。
どうぞよろしくお願いいたします!