週末は寒くなります~後日談~
週末、多少無理してでも出来上がったセーターをあの人に渡したくて根性で出社したら、あの人は休みで、会社は猛吹雪のせいで陸の孤島と化してしまった。
「あのー、何か食べ物持ってますか?」
数人で暖房が効いていない室内に閉じ込められていた。
「お昼用にお弁当買ってきましたが、どうしてですか?」
「爆弾低気圧らしいよ」
「下手すると何日か閉じ込められるかも」
「まっさか~」
みんな深刻な顔。ウソー?
笑いがひきつる。
「異常気象で冗談も言えないよ」
ずずっ。上司が鼻水を貸しているセーターの袖で拭った。
やめてけれ~。この数ヵ月の力作なんだぞあんた!
思わず殺意を抱く。
はっ。
いけない。
闇の感情は負の連鎖を呼び起こすもんだ。
へーじょーしん。
でも、誰にでも優しくするのはやめるべきだったかな?つい仏心出しちゃったけれど、上司に手編みのセーター貸したこと、他の人どう思っただろう?
あの人が今ここにいてくれたらどんなにいいか。
なんでなんとも思ってない人と密室にいなきゃなんないの?
しかもこれって遭難とか言わないかい?
涙がちょちょぎれた。
結局一晩会社に泊まって、翌日、明るくなったら車は置いて、歩きで帰宅した。
次の週の始め。
悪天候も治まり、会社に行くと、噂が流れていた。
上司に私が気があるらしいと。
は?
なんですと?
しかも上司はセーターをちゃっかり自分のだと言い張って返すどころか私に馴れ馴れしくなってしまった。
「うえーん」
「どしたの?」
あの人が声をかけてくれた。
「噂が流れてるけど、誤解なんですぅ」
「噂?」
「上司に気があるって」
「へえ。ふうんそーなの」
あの人は、ちょっと遠い目をした。
「俺、君にちょっと脈があるって思ってたけど勘違いだったか」
「えっ」
「俺の好きな青い色の手編みのセーター、欲しかったな・・・」
「えと、だから、誤解で、手違いで」
「残念残念」
こら、人の話ちゃんと聞け~。
えーん。
「で、来年こそはリベンジするの?」
「そう」
「懲りないね~」
友人からあきれられてしまった。
編み物してる最中に雑念とか怨念とか入ったらこーゆーことになるのかもしれない。
くわばらくわばら。