甘えベタと甘やかし
「俺はそこまで頑張って生きてこなかったから、偉そうなこと言えるような立場じゃないんだけどさ」
そんなことを言いながら、彼は眉尻を下げて困ったように笑う。
寝付けない私をあやすように、ぎこちない手付きで、ゆっくりと頭を撫でられる。
いつもの豪快な、まるで大型犬を愛でる時のような手付きはなく、壊れ物に触るかのように辿々しい。
それでも熱が伝わってくるような、彼の優しさが滲み出る宥め方に、また、余計な水分が溢れそうになる。
私が遮らないのを、聞く気があると判断したのか、彼はでもね、と優しい声音を続けた。
「でもね、ちゃんと頑張ってるの、俺は知ってるよ」と。
「すぐ否定的になるし、俺以上にネガティブ思考だし、頑張ってるくせにまだまだ頑張ろうとするし、自分なんか幸せになっちゃいけないとか勝手に決め付けるし、嫌なことがあっても人のせいにしないし、全然俺のこと頼ってくれないところも、ちゃんと俺は知ってるし、それも引っくるめて好きだからさ」
流れる川のようにつらつらと言葉が続き、そんな、言葉、なんて、なんて、と思う。
ぽんぽん、と頭の上で跳ねて離れていこうとする手を引き止め損ねて彼に抱き着けば、少し驚いたような声を上げ、間を置いて、ぎゅうっと態とらしい抱擁を繰り出した。
「俺よりも頭良いくせに、俺よりもバカなんだから、もー」
柔い声が、彼の胸に顔を埋めた私の頭上で響く。
「……いつだって俺のことなんて、タオルにしてくれていいのにさ」だなんて、とっくに私の涙腺は決壊しているというのに、これ以上どうやって甘えたらいいの。
もっとちゃんと教えて。
腕に抗議の意味も込めて力を入れれば、ぐえ、彼が小さな呻き声を上げて笑った。