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創作家のためのアクセスアップ入門  作者: 有沢翔治
ワナビのための読書入門
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第二回 語彙力を身に付けよう。

 物書きには語彙力が必須です。つまりどれだけ言葉を知っているか、ですが、これを身に付けるには、「読書」しかありません。では具体的にどの本を、どのように読めば語彙力は身に付くのでしょうか。

 ある努力をするだけで、簡単に語彙は増えていきます。辞書を引くだけでメモするだけ。何だ、それだけのことかと思いましたか? それは辞書を引いてから言ってください。幸いにも「小説家になろう」では、goo辞書などのリンクが貼ってあります。

 まず読む本ですが、作家の背景が自分とは違っていればいるほど、言葉を多く知ることができます。青空文庫は明治、大正、昭和の小説を公開していますので、活用するのも一つの手でしょう。ここでは中島敦の『山月記』を例に取ります。

 『山月記』より『文字禍』のほうが僕は好きなのですが、 『山月記』は高校の教科書で扱われて、馴染み深いでしょう。引用しますから高校生でなくても安心してください。


 隴西の李徴は博学才穎、天宝の末年、若くして名を虎榜に連ね、ついで江南尉に補せられたが、性、狷介、自から恃むところ頗ぶる厚く、賤吏に甘んずるを潔しとしなかった。


 のっけから隴西という言葉が出てきました。Wikipediaで引いてみると、「中国甘粛省定西市の県」か、「中国にかつて存在した郡。秦代から唐代にかけて、現在の甘粛省東南部に設置された」とあります。では山月記の時代設定はいつなのでしょうか? 「天宝の末年」という一文があります。

 それでは天宝とはいつなのでしょうか。Wikipediaで引くと742年 - 756年とありますね。西暦だと解りにくいので、今度は天宝が終わったのは西暦何年なのかを調べます。Wikipediaによれば西暦の756年に改元されているので756年以前だと見ていいでしょう。

 つまり、甘粛省東南部です。これで一件落着ではありません。甘粛省とは中国のどの辺りかを調べないと、何も解っていないのと同じです。もしかしたら北側かもしれませんし、ずっと南かもしれません。トルコに近いのかもしれません。

 したがってこの場合は地図で確認することが大切です。慣れないと大変疲れますが、疑問点を一つ一つ潰していくことこそが「読む」ことなのです。

 そして、山月記の作品世界を深く理解するには世界史(中国史)の知識があったほうが便利だということも解りましたね。そこで、山月記を読み終えたら、次は中国史の本を読むことで知識が広がっていくのです。


 もちろん隴西はWikipediaだけで解りましたが、言葉によってはすぐは出てこないかもしれません。

 例えば「江南尉」。残念ながらYahoo知恵袋と個人のブログしか出てきませんね。的確なことが書いてあればいいのですが、知識がなく判断できないでしょう。

 しかし役職だということは文脈的に推察できます。ノートの切れ端か等にメモをして読後に調べましょう。

 

 この調子で、

虎榜は「科挙に及第した者の名を記した札」

狷介は「《名ノナ》自分の意志をまげず、人と和合しないこと。だということを調べたとします。《名ノナ》とあるので、名詞であり「狷介の」「狷介な」というふうに使うことも解りましたね。

 これで「虎榜」、「狷介」という言葉を知ることができたのです。



 次に恃むという言葉ですが、これも辞書を引いて意味を確認しましょう。

 たのむ【頼む・恃む】の項目には、下記の説明がなされています。

(「恃む」とも書く)依存しうるだけの能力がそれにあると信じる。あてにする。

 しかし「恃む」と()書く、とある以上は明確な使い分けが分かりません。さらに調べると、

 「頼む」・・・相手に自分の希望や用事を伝えて、それを果たしてくれるようにお願いすること

 「恃む」・・・相手が良い結果を残してくれるだろうと信じて、大いに期待すること

https://eigobu.jp/magazine/tanomu

にあるので、ひとまずは意味の違いがはっきりしました。しかし、ここで疑問が残ります。そもそも、「頼」「恃」とは漢字が違いますよね。なら漢和辞典で調べましょう。

 恃は「何かをあてにする」という意味だと確認もできましたが、それ以上に大切なのは解字です。漢字源には「心+寺(=待つ)で、相手に対して待つこと」とあります。ついでに、漢字源には他の熟語が載っています。

【恃力】勢力や、権力を当てにする。

【恃気】勇気をたのむ

【恃頼】たのみとする

 など。【恃】と漢和辞典で調べるだけで3つ、言葉を獲得したのです。

 頼は、「人+貝(財貨)+刺。財貨の貸借にさいしてずるずると責任を他人になすりつけること」から派生しています。仕事を頼まれて引き受けると、頼まれた人は実行しなければ責任問題になるでしょう。

 これで「頼」「恃」はどう違うか解ったと思います。こうしてまた一つ、漢字の微妙な違いを根本から知ったのです。



 もちろん誰かに聞けば簡単でしょうが、いつでも質問ができるという甘えから記憶に残りません。

 繰り返しますが、解らない言葉があれば漢和辞典、国語辞典などを駆使して調べることでしか語彙力は身に付かないのです。

 大事な点なので何回でも言います。言葉の意味が解らなかったら徹底的に自分で調べましょう。1年、2年、3年と調べていくうち、確実に表現の幅が広がります。

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