恋する2人の夏 ( サマー・オブ・ラヴに焦がれて )
思いやりの心を大切にした物語です。楽しんで頂けた嬉しいです!
ちひろは陽射しを浴びながら、勢いのある夏の風が、窓から部屋に吹き抜けていくのを楽しんでいた。白いスカートが揺れている。陽射しは強いが爽やかで気持ちの良い午前。夏が始まる。今年の7月の初めは曇り空の日が多く、気温も例年よりも低いために気持ちも塞ぎがちだった。ようやく、見上げれば冴え渡る青空の日が続き、ちひろの胸が躍り、逸る気持ちが抑えられないでいた。
たくさんのシャボン玉が入ってきた。窓に目を向けると、隣に住む女の子が吹いていた。「ちひろちゃん、こんにちわー」と言った。黄色のシャツを着た女の子は、ひまわりのように見えた。「あら、夏美ちゃん、こんにちは!シャボン玉、綺麗だねぇ」とちひろは笑いかけて言った。「えへへへ」と夏美は照れながらシャボン玉を吹いた。
ちひろは手を差し伸べてシャボン玉を掴もうとする。ちひろはなぜか、いつだかのテレビで、椅子に乗る緑色の眼鏡をかけた胡散臭い男が、札束を手に持って手放したあと、空中で見事に取ることが出来たなら賞金として差し上げるというゲームを思い出した。
太った男の目は血走り、右へ左へと小躍りして汗まみれになり、制限時間の30秒間は無情にも過ぎた。残念ながら男はしょんぼりと両手と床を交互に見つめていた。ちひろは嫌な気持ちになりかけたので、急いで床に寝転び、仰向けになり両手を広げた。シャボン玉がちひろの顔や足に被さっていく。突風が吹くとシャボン玉は扉まで飛んでいった。
夏美は「ちひろちゃん、遊ぼう」と言った。「少しだけしか遊べないけどいい?」とちひろは言った。
「うん」と夏美は頷くと、「おいで」とちひろは言った。
ちひろはクッキーとオレンジジュースをテーブルに置くと、夏美は喜んで「いただきます」と言った。ちひろは「夏美ちゃん、この前、自転車に乗っていた男の子は誰なの?」と聞いた。「クラスのさとしくん」「カッコいいね!さとしくん」
「えーっ、そうなのかなぁ」
「夏美ちゃんはそう思わないの?」
夏美は顔を赤くして無言で首を傾げる。ちひろは夏美の頭を撫でながら、「仲よくするんだよ」と言った。「うん」と夏美は笑った。「気持ちは大切にしなくちゃね」
「うん」と夏美は体を揺らしながら微笑んだ。
ちひろはクッキーを2箱とメロン味のジュースを夏美に持たせた。
夏美は、「ありがとう」と言い家に戻っていった。
ちひろは時計を見たあとベッドに横になった。首を僅かに上げてネックレスを指で摘む。頭を枕に戻すと深呼吸をした。両手でネックレスを外し右手で掲げて見つめた。2週間前のちひろの誕生日に真二がプレゼントをしてくれた物だった。安物だけども可愛い愛着のあるネックレス。真二は頭をかきながら恥ずかしそうに、こう言って手渡したのだった。
「ちひろは、金属やメッキ、ばったものに多く含まれる品質の素材に対してのアレルギーはないよね?」と真二は言った。
「はっ!?」本を読んでいたちひろは顔を上げてキョトンとしながら言った。
彼の手にはネックレスが光っていた。
「いや、アレルギーは危険だから。念のために用心をする必要があるので確認が大事だからさ」とまだ照れながら真二は言った。
ちひろは腕を組みながら、「私はカニのアレルギーはあるけど、たぶん、金属系は大丈夫だと思うよ」と言った。「よかったらネックレスを首にかけても良いかい?」と言って真二はちひろの後ろに回り込んだ。
ちひろはウフフフと笑う。嬉しくてしかたがない。顔を赤らめながら後ろ髪をかき上げた。ちひろの洗い立ての髪からはバラの香りがした。ネックレスをすると真二はちひろの耳元で「いつもありがとう。ちひろ、24歳の誕生日おめでとう!」と言い首筋にキスをした。ちひろは「ありがとう!」と言い頭を下げハニかんだ。普段、ちひろはアクセサリーをあまりしないが、今回の彼のプレゼントには素直に喜んだ。
2人は手を繋いで近所にあるスーパーへと買い物に行った。ちひろはネックレスを、店の中にある大きな鏡の前で確認してニヤけた。「ちょっと失礼」と言い、ちひろはトイレに行き、淡いライトが照す鏡の前でもニヤけていた。愛する人との素敵な思い出はいつまでも色褪せない。
ちひろはネックレスをすると立ち上がり窓辺に向かう。最高の天気だった。道行く人の顔には笑顔が溢れている。幼い子供を肩車する若い父親。子供の麦わら帽子を手に持つ母親は嬉しそうに微笑んでいた。父親とわが子の姿を誇らしげに見ている母親は、デジタルカメラを片手に持ち肩車を撮影していた。子供は喜びの声を上げて散歩中のシベリヤンハスキー犬に目を丸くする。「わんわんちゃんだよ〜」と父親は言った。ちひろは家族の幸せな一時を見ることが出来て、暖かい気持ちになっていた。
真二はあと10分ほどで来る。ちひろは急いで部屋を片付けたあと玄関に行き、通りの様子を伺う。向こう側で手を振っている真二の姿が見えてきた。白いシャツのボタンを3つまで開き、暑そうに舌を出して顔をしかめている。真二は立ち止まると携帯を取り出し自分の写真を撮った。ちひろの携帯にメールが届く。写真が送付されていた。『やあ!』という文章と満面の笑顔の、たった今見た真二の姿が写っていた。ちひろも自分の顔の写真を撮り、真二の携帯に送った。真二は携帯を見ると、同じく『やあ!』と書いてあり、満面の笑顔のちひろが写っていた。
終
読んで頂いてどうもありがとうございました!