少女と双子
森の奥にある大きな屋敷。その中には何にでも効く薬草をくれる双子が住んでいて、客がくるのをいつも二人きりで待っているという。
「今日もお客さんこないのかな…」
「かな…」
少年達が2人で話していると、屋敷のドアがノックされた。
「お客さんかな?」
「かな?」
そう言ってドアを開けると1人の少女がドアの前に立っていた。
「いらっしゃいませ…!」
「ませ…!」
「あの、傷を…心の傷を癒す薬草はありますか?」
そう少女は問いかけた。双子は一度顔を見合わせると
「分かった、それじゃあそこの椅子に座って待ってて」
「待ってて」
と言って奥の部屋に入っていった。
「それにしても広いお屋敷…あの子たちだけしか住んでないのかしら」
少女は椅子に座って屋敷の中を見回しながらそう呟いた。
(だとしたら少し寂しそう…私の方がまだマシかしら)と思いつつ彼女は席を立ち、少し屋敷の中を見ることにした。
「ここ以外にも沢山部屋があるのね…あの子たち10歳くらいなのに二人きりで大丈夫なのかしら」
そろそろ椅子に座ろうか、と考えながら歩いていると双子が入っていったドアが開いた。
「あれ、どうしたの?」
「どうしたの?」
「いえ、少しここの中がどうなってるのか気になってしまって…ごめんなさい、でもここの部屋以外はどこにも行ってないわ。」
そう少女が言うと双子は分かった、と言って頷き、お互いの片方ずつの手で持っているトレイを持って机の方へ向かった。
「紅茶入れたから飲もう、お姉さん」
「飲もう」
そう言って双子は彼女を座るように促した。
「薬草をくれるんじゃ…?」
少女がそう問いかけると双子は
「中に入れてある…心配しないで」
「しないで」
と言って笑った。少しぎこちない双子の笑顔を見ながら少女は分かったわ、と言って紅茶を飲み始める。すると双子は彼女に問いかけた。
「お姉さん、名前は?」
「名前は?」
「…私は麻理菜よ」
そっか、と双子は紅茶を飲んで言った。
「麻理菜は、どうして心の傷を癒したかったの?」
「どうして?」
双子はおもむろに各々のカップから目線を外し、少女を見つめた。
「それは…」
少女は少しためらったが、双子に目を見つめられているうちに自然と話しだしていた。
「私、両親と一緒に暮らしていたの」
少女の家は平凡な家で、特にこれと言って特別なことができるわけでもなくただただ普通に、幸せに過ごしていた。
「だけどね」
ある日両親が火事で他界してしまった。少女もその時両親と共に家にいたけれど、少女を助けるために両親は犠牲になってしまい、少女はたった一人になってしまった。
「それが…悲しくて」
悔しかった。少女は自身のスカートを握りしめ、唇を噛んだ。
「私だけ助かってしまったのが…両親を助けられなかったのが、悔しい」
そう言って少女は泣いた。その綺麗な大粒の涙がポタポタと紅茶の中に入り、水面が揺らいだ。
「そっか…僕たちにはわからない、かも。ごめんね」
「ごめんね」
いえ、いいのよと少女は涙をぬぐいながら言った。
「ごめんなさい…いきなり泣いてしまって」
「それで、心の傷は癒えた?」
「癒えた?」
双子はいきなり少女に問いかけた。
「えっ…と…あら、だいぶ楽になってるわ」
凄いわね、と少女は驚く。そんな少女に双子は
「お代を貰わないと」
「お代…」
と、言った。
「あら、お代を払わなければいけなかったのね。そうよね、お仕事ですもの…お代はいくらかしら?」
少女が問いかけた言葉に双子は揃って首を横に振った。
「お金じゃないよ」
「ないよ」
そう言うと、双子は顔を見合わせて少し心配そうに少女に言った。
「また遊びにきてくれると、嬉しい…2人だけで寂しいから」
「寂しい…」
いい?と、問いかけると、少女は少し驚いたあと、にっこり笑って
「もちろんよ」
と言った。双子はお互いの手を合わせてわーい、と喜んだ。
「そうだわ、あなたたちのお名前は?」
少女は手をポン、と叩くとそう聞いた。
「僕はルチオだよ、それでこっちがエレノア」
「エレノア…!」
「ルチオ君とエレノアちゃんね、分かったわ」そう言うと少女は
「それじゃあルチオ君とエレノアちゃん、ここにいつでもきていいのかしら?」
と聞いた。すると双子は揃って
「うん!」
と可愛らしい笑顔で返事をした。
「分かったわ、それじゃあ、今日はありがとう。また遊びにくるわね」
「待ってるよ!」
「待ってる…!」
そう言ってお互いに別れを告げて、少女は家に帰っていった。
「心の傷、癒えてよかったね」
「よかった…」
双子は顔を見合わせて笑いながら、
「ホントは普通の紅茶なのにね」
「ね」
と言った。
森の奥にある大きな屋敷。その中にいる双子は薬草を求めてやってくるお客さんと、1人の友達が来るのを待っている。