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少女、現れる

 陰陽師さんが来てから、1週間くらい経ったある日のことでした。

 エメラルドのような瞳を持つ少女が現れた。その少女は瞳の色が違えど、その少女は早月さまだった。

 その美しい瞳からは、大粒の涙が流れていて……思わず、僕は動揺してしまった。

「いらっしゃいませ、早月さま。思い出されたのですね、この店で起きた出来事を……。辛い思いをされたのでしょうが、これは“運命”であり、“定め”とも言えるのです。僕はその管理人……“運命”を変えることは“禁忌”となっております故、僕は逆らうことなど出来ぬのですよ、早月さま。

勿論、その歯車に“偶然”とは言えない巻き込まれ方をした早月さまは、この世界に現れたのは“必然”なのですよ……。

安心して下さい、貴女を悪いようには致しません。僕の一番信頼をする陰陽師が指導するようにと手配しておきました」

 と、僕は営業スマイルを保ちながら、たんたんと静かに独り言のような声の大きさでそう言った。


「最初から……わかっていたのですね、栗野さんは……。私が霊的な力を持っているって……」

「そう言うことになりますね、多分。まあ……現世に戻りたいのであれば、力を、知恵をつけるしかないのですよ、早月さま。

いいですか、妖怪さんたちは貴女が襲いかかったり、敵意を見せない限りは襲いかかるものは少ないと考えなさい。だから、人間である僕がここまで生きることが出来たのは……貴女にもわかりますね?」

 と、早月さまの質問に僕は固定した後、僕から早月さまに疑問を投げかけた。

 彼女は、顔をしかめながらもコクンと頷いてくれたことに、僕は嬉しくて思わず笑みをこぼしながらこう言ったのだ。

「貴女が本当に恐れるべきなのは“人間”なのですよ。力を持つと知れば、我々のような者たちを化け物のように扱い、しまいには使い捨てのカイロのように利用して、使えなくなったら捨てられる……そんな“運命”になっても貴女は良いと思うのですか?」

 僕は彼女が疑問に答える前に、結論から話始めたのだ。

 彼女はこのままでは、心を壊し、“力のある”、魂のない人形になってしまうと思ったからだ。魂がなくなったら、欲のある人に良いように操られてしまうから……と考えながら、僕は彼女の答えを聞かずに話を進めていくのだ。


「人間とは未練を残し、幽霊になったとしても欲を忘れないのです。だから、ビミョーに力のある今の貴女など、上手く巧みに言葉でそそのかされて、力を奪われ、死に至るだけなのですよ。

しかし、そうなるかは…………それは貴女の心意気次第なのですよ、早月さま。僕が信頼を寄せる陰陽師の元へ行き、力をつけ……現世に戻るか……それとも、死を選ぶのか。2つに1つなのですよ、早月さま」

 と、妖しい笑顔を浮かべながら僕は早月さまにそう言った。そんな僕の笑顔に彼女は、ゴクッと効果音がつきそうな勢いで唾を飲み込んでいた。

 まあ、そうなるでしょうね、いきなり貴女は死ぬか人ならぬ力をつけろと言われれば、戸惑いを隠せないのは当たり前でしょう。

 そうならなかった、僕は余程……心が壊れかけていたんだなって、思い知らされてしまったのだから。

「ほんと、人間とは矛盾した生き物ですよ。ファンタジー小説で、良くありふれた設定をいざ、自分で体験するとなると……“化け物”って言って、我々のような存在を遠ざけようとする……。彼は我々を知ろうともしない、人間たちは我々たちに守られていると言うのに……。

でも、僕は“時雨”と言う人格を認めてくれる友人に出会えた。その時、僕は初めて人間で良かったって思えたんです。

人生は、良いことばかりではありません。だからこそ、良いことが起きると嬉しいんじゃないんですか? 生きてて良かったって思えるんじゃないですか?

せっかく、愛されて産まれてきた貴方の命を……僕は無駄にしては欲しくないのですよ、早月さま」


 と、僕は妖しい笑顔を浮かべながらもなるべく優しい声色で彼女に語り続けると……彼女はやっと、泣きながらだけど笑顔を浮かべてこう言った。

「栗野さん……私は、死にたくありません。例え、茨のような人生になろうとも、後悔したまま、生きていきたくないのです!

私は……栗野さんの信頼する陰陽師の元で修行して、強くなって……自信を持って生きていきます!」

 と、希望に満ちあふれていて、生命力に満ちあふれた力強い瞳になった早月さまの力強い言葉に、僕は頭を優しく撫でてあげた後、僕はキッチンに立って、早月さまのために料理を作り始める。

 10分ぐらいはかかったが、かにかまと卵の雑炊とティラミスとローズヒップティーを作り、早月さまが座っている席へと持っていった後、キッチンの金庫の元へと戻り、水晶のかんざしをとってきてから、彼女と向き合うように座る。

「はい、どうぞ。これを食べ終わったら貴女は、力の分類は違えど……僕の後輩となります。それに、水晶のかんざしを返さなければなりませんからね。味わって、食べて下さいね」

 僕は彼女と向き合うように座ると、早月さまは黙々と食べ始めたのだが……雑炊を半分くらい食べ終わったあたりから、泣きながら食べていた。

 そんな彼女に、僕は静かにこう言ったのだ。

「いいですか、早月さま。貴女は大変、素敵な能力を持っているのですよ。貴女にはつくも神と仲良くなることが出来て、力を借りることが出来るのです。貴女は一人ではありません。つくも神との友情を築いて下さいよ。貴女はつくも神に守ってもらい、貴女はつくも神を守る……そんな素敵な関係をつくれることは、凄いことですよ」


 と、妖しい笑顔を浮かべながらもそう言った。

「……貴方は、どんな存在として生きているのですか」

「僕は陰陽師が大ッ嫌いな“少し”普通じゃない、ただの喫茶店『狐火』の店主ですよ?」

 と、妖しい笑顔のまま、彼女の質問にしらばっくれるようにそう答えた。

「……私は、たくさんの妖怪やつくも神と、仲良くなりたいです。」

 と、静かに彼女は呟いていて、僕はにこやかに笑ってこう言ったのだ。

「水晶の宝石ことばは、知恵と直感力です。きっと、貴女を助けてくれますよ」






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