バレンタインと時雨
たくさんのお菓子を小人さん軍団『料理チーム』と一緒に作った焼き菓子だけを入れ物に入れて、お客さんが来るのを待っていると鈴の音と共に、ドアが開く。
「いらっしゃいませ、名無しさん、顔無しさん。ハッピーバレンタインッ!」
と、言ってからクラッカーを接客チームの小人さん軍団とやる。クラッカーの音にびっくりしたのか、名無しさんと顔無しさんはポカーンと呆けていた。
「今日はバレンタインデーなので、お菓子はサービスですよ〜……っと、いらっしゃいませ……狐火さん、春、紀一!」
と、顔無しさんと名無しさんを接客している間に、僕の両手で数えることが出来る人数しかいない力を持たない普通の人間の友人の二人が久しぶりに喫茶店に現れた。
春こと、柊春彦は、文化系の学科に通う大学3年生。
紀一こと、春先紀一は理数系の学科に通う同じく大学3年生である。
僕と同じく、彼女のいない2人組なのである。
女顔の僕とは違い、とても男前なのだが……大学では、アイドルのような扱いになっているんだと思う、男前すぎてね。
なんて、考えていると春は立派なカメラを構えて、僕のエプロン姿をカメラにおさめていた。春は、大学で写真をとる活動をするサークルに入っているようだった。
「……なんで、いきなり写真撮るんですか。まあ、慣れてるんでいいんですけどね……そんなことより、たくさんお菓子作ったので食べていって下さい」
「勿論だ、お前の菓子を食べるために義理でも、本命でも貰わなかったんだからな。お前の作った菓子を食べると……お前の菓子が美味すぎて、他の人が作った菓子を食べられなくなるんだよ……」
おいおいおい……だから、二人とも彼女いない歴=年齢なんだよ、バカヤロウ。それに……そんなに褒められちゃうと僕、照れちゃうんだからね、紀一!
なんて、考えながら冷蔵庫に行って、トリュフとかのとけやすいお菓子を冷蔵庫から、テーブルへと運んだ。
紀一と春は、ティラミスをみた瞬間に凄い勢いで目を輝かせたので、大きめのスプーンで二人に取り分けてあげると……。
「この甘さと苦さの絶妙なバランスに、紅茶やコーヒーに合う味つけ……お前のお菓子は相変わらず最高だよ〜……」
「嫁に来てくれ」
いや、紀一のコメントは嬉しいんだけど……流石に春のコメントは、嬉しくないよ。僕、男の子だし。
「……春、お前の嫁にはなりたくないよ、僕。嫁にはなれないけど、またアルバイトをしにくればいいよ。そしたらご飯くらいは作ってあげてもいいよ、アルバイトしてくれるならね」
喫茶店の売り上げは大したことはないけど、赤字じゃないし、僕が暮らして行けるくらいの売り上げはある。それにメニューの野菜とか果物とかは自家製だからね。それから《裏》の仕事は、結構な給料を貰えてますが、僕は別に……本と衣食住以外は欲しいものはないからね、貯金も貯まってる。
「夏休みに手伝う」
「春だけずるい、俺も長期休みの時手伝うよ」
「長期休みの時期は、わりと結構忙しいので助かります」
友人をアルバイトで雇うくらいの貯金は、あるんだよ?
「ぼくらも食べたいのです」
と、小人さん軍団はお腹を手で押さえながら、そう言っていたので、僕はにこやかに笑って「どうぞ」と言うと、小人さん軍団は満面の笑みになって、好きなお菓子の元へと戦いに挑むかのように向かって行ったのだった。
「さぁ、皆さんもどんどん食べて下さいね。小人さん軍団に食べられてしまう前に!」
と、僕にしてはわりと大きな声で言った後、またお客さんが来たようだ。
「時雨〜……来てやったぞぉ〜。菓子寄越せッ!」
もう、ハロウィーンじゃないんだからね、師匠……と呟きながら、マカロンが入った入れ物を彼女に渡した。
相変わらず、言葉使いが汚いなと考えながら苦笑いをしていた。その後からは誰もお客は来ず、たくさん作ったはずのお菓子は師匠が来た1時間後には、なくなっていた。
「あはは……」
そのことを見た時には、苦笑いをするしかなかったよ。
柊春彦
文化系男子、カメラ男子
時雨ほどの女顔ではないが、中性的な顔つきをしている。目じりのほくろがチャームポイントで、時雨と同じような髪型をしていて、時雨よりくせ毛。髪の毛の色は、栗毛(地毛です)。
背は平均より4センチほど高く、強風が吹いたら飛んでいってしまうんじゃないかと思うほど細い。
時雨のことは、時雨かシグと呼んでいるが、だいたいシグと時雨のことを呼ぶ。
春先紀一
体格がよく体育会系にみえるが、実は理系男子。
春彦とはまた違う男前で、彫刻のように整った顔つきをしている。
髪型はショートカットよりは短く、艶やかな黒髪。チャームポイントは、つり目。
実は、怖がりで甘いものが大好きなオトメン系男子。
身長は188センチで、良く時雨との関係を兄弟だと間違われる。
春彦と同じく、時雨のことはシグと呼んでいる。
師匠
時雨の魔法の師匠。
言葉使いが汚く、良く男性と間違われるが、女性。
顔無しさん
その名の通り、顔がない。紀一は出会った当初は怖がって、時雨や春彦の後ろに隠れていた。
小人さん軍団。
基本、5人1組で行動しており、4チームいる。
接客、料理、掃除、イベント係のお手伝いをしてくれる、とてもいい子な小人さんたち。