再会
現世へと遊びに行った、次の日。僕はいつもの通りに店を開いて、キッチンに立っていた。何気ない同じ毎日だと思っていたのに、違ったのだ。
チリンチリンとお客様が来たと言う合図に僕はいつものように、営業スマイルを浮かべながら、お客様の案内をしようとするとそこには、僕の元“義父”の風月さんがそこにいた。
彼は、今の栗野時雨じゃない“僕”を知る1人でもあり、妖怪さんに助けてもらうまでで、唯一の味方であった人である。
「風月さん……どうして、ここがわかったのですか?」
「雫……」
と、涙を浮かべながら、僕の本当の名前を呼ぶ風月さんをただ、喋り出すのを……僕の過去を話しながら待とうではないか。
僕は、人魚と人間の間から産まれた“半妖”と言う存在である。僕は、どっちかと言うと父方である人間の方の遺伝を強くひいていることが自分でも、わかっていた。
が、ただ……僕は、魔力量や霊力の力に関しては、母方である人魚の遺伝を強くひいてしまったことから、母が人魚だと言うことがばれてしまい、離婚に至ったらしい。
僕が何故、陰陽師嫌いなのかもここからくる。何故かと言うと……僕の父は、高位の位につく陰陽師であるからだ。だから、人魚との間に子供がいるとわかると妖怪と争っていた当時は、禁忌とされていたらしいと狐火さんから聞いている。
しかし……僕が陰陽師嫌いになった理由は、そこにはなかったと思う。母は、その話で泣いている姿を見たことがなかったからだ。だから、僕は父である陰陽師を恨むことなど、考えてもいなかったのだ。
その話を聞いて、数年後のことだった。僕の前に義父である風月さんが現れたのは……。
風月さんは、母を人魚だと知っても変わらず、母を愛していた。そんな風月さんの優しい心が僕は大好きだった。いや、今も僕は彼のことは嫌いではない。
それに風月さんは、魔術師であり、父と同じように高位の位につく魔術師だったのにも関わらず、変わらず血の繋がりのない僕を我が子のように愛してくれていたと僕は思う。
しかし、そんな幸せな時間は長くは続かなかった。その幸せな時間は、父であった陰陽師によって、壊されてしまった……。父は、僕の母である人魚を殺したのだ、ためらいもせずに……。
その瞬間を僕は見ていたんだ。幼い頃の僕には、陰陽師の力に対抗する力など無くて、父である陰陽師は僕に術をかけて瀕死の状態にしたのだ。
そんな僕を助けてくれたのは、風月さんだった。風月さんは陰陽師の力と対抗しながら、魔術である程度治療をしてから瞬間移動魔術で僕を狐火さんの近くへと飛ばしたんだ。そのおかげで、僕は……狐火さんに拾われて、今の栗野時雨がいると言う訳である。
何故、こんなに言い切れるのかと言うと僕は……瀕死の状態の時、生き霊となってその様子を見ていたからだ……。いや、見ていることしか出来なかった。
風月さんが、ある程度僕を治療してくれたおかげで僕の魂は、自分の体に戻ることが出来たし、風月さんの判断のおかげで……こうして僕は、栗野時雨として生きていけるのだと感謝している。
だけど、そこにいるのは風月さんの魂だ。
生き霊じゃない、幽霊に彼はなっているのだ。
「雫……私は、お前の側にいることが出来なくてすまかったと思っている。もっと、私に時間があれば……君を抱きしめてあげることなど、容易く出来てしまえたのに……。
私は、雫を狐火の元へと送った後に、陰陽師の手によって“人ならぬ者を見る目”を失ってしまった。
そのせいで、狐火を見つけることが出来なくなってしまったのだ。雫……一度だけでいい、一度だけでいいんだ……私のことを“お父さん”と呼んでくれないか?
そうじゃなきゃ……後悔が残って、天へと旅立てないんだ……。頼むよ、雫」
風月さんが悪霊になる姿なんて、見たくはない。でも……僕なんかがお父さんと彼のことを呼んでもいいのだろうか?
でも……僕は、風月さんがお父さんだと嫌だなんて……一度たりとも思ったことなんてないのだから……風月さんのことをお父さんだと呼んでもいいのではないのだろうか?
ううん、風月さんだからこそ、僕はお父さんだと呼びたいんだ……。
「お父さん、僕は貴方を一度も父親だと認めたくないとは思ったことはありません。僕は貴方を心から、父だと……お母さんから紹介された時から思っていました。貴方が悪霊になる姿なんて、僕は見たくない。だから、天国では母と幸せになってください、お父さん……」
と、涙を流しながら、震える声をおさえながら、僕はお父さんに自分の想いを言った。そんな僕の言葉に涙を流しながらも、嬉しそうにニッコリと笑って、僕を包み込むように抱きしめた。
「愛しい我が子よ……。ありがとう……大好きだよ、雫」
と、僕の体をすり抜けながらそう言った瞬間、フローリングに落ちて割れた硝子のように、散っていった父である風月さんの魂を見て……大泣きしながら、こう言った。
「お父さん……僕は、貴方を信じていました。絶対に逢いに来てくれると、心の何処かで信じていました。大好きです、お父さんッ!!」
と、そう言った瞬間、僕はフローリングに崩れ落ちるように座り込み、大粒の涙を流した。
僕の信頼する人間の中で、もう……僕のことを、雫だと呼ぶ人はいなくなってしまったと言う事実に、心にポカッリと穴が空いたような気がした。
僕の本当の名前を知るのは、家族と父であった陰陽師と狐火さんと妖怪さんだけだった。しかし、僕より強い狐火さんに名前を呼ばれると支配される可能性があるので、僕は本当の名の“雫”だとは呼んでもらえない。
それに、数少ない友人たちにも本当の名を教えることが出来ない。いつ、何処で、僕より強い者がいるかもわからない状態で……僕は彼らに自分の本当の名を教えることなんて出来ないのだから……。
桜野風月
時雨の義父。
人魚(本編では名前は出てこなかったが、季水【きすい】と言う)
時雨の母
桜野雫
時雨の本当の名前。
現世では、もう……戸籍上、故人となっているので、栗野時雨として住民票を登録をしている。
半妖である。




