三九四八日目
母よ、ヒトが家出をしました。
置手紙には心配するなと書かれておりましたが、そういう訳にもまいりません。
我の教育がどこか悪かったのでしょうか。
手紙を読んですぐに迎えに行こうとした我を止め、少しだけヒトに時間をあげて欲しいと願う二匹。
「帰ってきたら竜語の勉強をもっと頑張るって言ってたし!」
「姉様は少し息抜きするだけって言ってましたし!」
その必死さに心動かされた我は少し位ならとうなずいたのだが心は晴れず、三日ほど寝室である洞窟にこもっていた。
「にーちゃん、いいかげん元気出せよ」
ヒトからの手紙を腹の下に入れて不貞寝をする我の背を、ギンがぽんぽんと叩いた。
「裏切り者……」
恨めしげな我の声にニジがため息をついた。
「そうは言われましても、あのナッツがふんだんに使われたクリームパイを前にしたら私達になす術は無かったんですもの」
どうやらヒトは前々から準備を進めていて、ギンとニジはそれを手伝いつつ我に黙っていたらしい。
「一〇〇年」
「へ?」
「一〇〇年たったら迎えにいく。それでいいな」
「え、ええ。問題ないかと」
戸惑ったかのように答えるニジ。確かに息抜きには短すぎるかもしれぬが、それ以上待つ気はない。
「にーちゃんって結構ずれてるよな」
「何のことだ?」
「いや、こっちの話」