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六二七日目

この話から日が飛びます とはいっても永い時を生きる竜にとっては昨日今日の感覚です

 母よ、あれから少し、我達は健やかに育っております。

 知恵ある生き物から十分離れた良い住処も見つけました。

 ただやはり、上の妹だけが心配です。




「こら、どこへ行く?」

「や、兄、や」

 じたばたと暴れるヒトの襟首をつまみあげいすに座らせた。人間で言えば十歳くらいだろうか、大きくなったものだが我の成長はそれ以上だった。体長はヒトの二倍、尻尾の先まで入れれば三倍はあるだろう、襟首をつまみあげるなんて簡単である。

 今日も我が狩りに行っている間に言葉の勉強をサボり、森に逃げ込もうとしていた、課題を倍にしてくれよう。

「ねーちゃんもいい加減まじめにやりゃぁいいのに」

「兄様から逃げられるわけないのにこりないね」

 隣で魔術の勉強をしている弟妹があきれた声を上げた。

『ギンっ、ニジっ!何となくだけど言ってる事分かるんだからね!』

 言い切ってからはっと口を抑えるヒト。だがもう遅い。

「言葉の勉強中はニホンゴを使うなと言っておるだろうが!」

 ヒトの頭を両手で挟み、めしめしと圧力をかけていく。

「いたっ!いたいいたい、兄っ、いたい!?」

 手を離してやるとおとなしく席に着いて本を読み上げ始めた。

「逃げようとしたのとニホンゴを話したのとで、その本をあと三回読み上げること」

 ヒトは『ぶーたれた』顔で本を読み続ける。

「返事をしなさい」

「はい」

 上の妹であるヒトは前世の記憶があるとやらで、それが言葉の習得の障害になっている。

 母の知識ではなかったが、役に立つものであるのもまた確か。

「ギン、ニジ、ヒトを笑えるくらいだからお前達は真面目にやっているのだろうな?」

「もちろん」

「ねーちゃんと違って今日の分は終わってるよ」

 ヒトの方眉がわずかに動く。

 ギン、一言余計だ。後でどうなっても知らんぞ。

 まあすぐに思い知るだろうからこの場では何も言うまい。

「ならばついてきてくれ、実践だ。我が狩ってきた鹿の解体を頼む」




 最近扱えるようになったばかりの風魔術でギンが鹿をさばき、ニジが小分けにしていく。切り分けた肉は我が作った氷入りの水に放り込まれた。今まで我がやってきたのを見ていただけあって一応は様になっている。

 すでに世界から魔力を取り入れて生きることができる我と違い、妹達には食事が欠かせない。特にヒトは人化しているせいで魔力の消費が激しいのか良く食べる。大きさ的には大して変わらない弟妹の倍は食べるのだ、その上味にうるさくもある。

 魔力を多量に含んでいるからと肉食の魔物ばかり狩っていたら肉が臭いと怒られ、さらには肉ばかりだと『栄養バランス』とやらが悪いと叱られ、『デザート』に甘いものが欲しいだの、『主食』が欲しいだの、ちなみに、我は上の妹と意思疎通を図るために『日本語』を習得済みである。

 肉を弟妹に任せている間に採ってきた木の実やキノコ、柔らかい葉や香草に解毒の魔術をかける。以前ヒトに『毒の無いやつだけ採ってくるとかしないの?』などと聞かれたがわざわざそんな面倒なことをする理由が分からないと返したらしぶしぶながらも納得していた。

 さて、そろそろ本も読み終わった頃だろうしヒトを呼びに行くとしよう。




 においが外に漏れないよう厳重な風の結界が張ってある中それは完成した。

 つるで編んだかごに山盛りになっているこんがりと焼かれたパン。

 カリカリになるまで炒められた鹿の脂身と粉状にしたチーズがふってあるサラダ。

 ふわふわに焼かれ、まとめられた卵の上にかけられた鹿肉が多量に入ったシチュー。

 机の中央には低い温度でじっくりと焼かれた大きな肉の塊、もちろんこれも鹿肉。

 そして、ここには並べられていないが果汁と果肉を混ぜ合わせ冷やして固めたゼリーが用意されているはずである。

 この料理を作ったのはヒト、よってこの料理を分配する権利を持つのもまたヒトである。

「ちょっ、ねーちゃん!なんか俺の肉みんなに比べて小さくない!?」

「姉様、私もうちょっと卵が欲しいかな~、なんて……」

『お姉ちゃんの悪口言った罰だ!』

「……だそうだ」

「そんなぁ、ごめんねーちゃん!もう言わないから!!」

「お願い姉様、許して~!」

 拝む弟妹、そしてヒトのこの勝ち誇った顔。

 母よ、我はこの上の妹の性格を真っ当に直せるのでしょうか?

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