八日目
母よ、ついに残りの卵も孵りました。
ちゃんと竜のままで、一安心です。
二匹ともまだ鱗が白いので、硬化したら名をつけようと思います。
さらに良いことは続くとはよく言ったもので、生まれてすぐに殻をかじり始めた弟妹を見て上の妹も殻をしゃぶるようになってくれた。
さて、次の引越し先を探しに行くか。
本来だったらもっと遠くへ行っていたはずなのだが、妹に魔力を与えていたことにより我達は未だに樹のうろの中。
ここでは竜の里に近すぎる上に雨が降ったりしたら水がたまるかもしれない。早急に次の住処を探す必要がある。
どこか、洞窟のような場所。
母の知識を頼ろうにもここがどのあたりか、正確な場所がわからない。空から確認しようとして何かに見つかると言う危険も冒せない。
体慣らしもかねて羽を折りたたみ、地に這いつくばりトカゲのように移動する。
竜の誇り?我、誇るほど人生経験豊富じゃない。
山のほうへ向かうと小さな穴があった。入り口は狭く、奥は少し広くなっている、そして臭い。
中には先住がいた、非常に大きないのししだ。とはいえ我に比べてのことなので大概のものは非常に大きいになってしまう。
近寄るとにおいを確認しようというのか鼻先を近づけてきたので、我は小さいながらも鋭い爪でその鼻先を引っかいた。
ぶぎぃ
悲鳴のような声を上げて頭をのけぞらせるいのしし。我の歯はその首にがっちりと食い込み皮ごと肉を引きちぎる。勢いで横倒しになったそれの今度は首の後ろを食いちぎった。
親元離れてすぐの子供だったのかもしれんな、警戒が薄すぎた。
さて、引越し先も用意できたし妹達を連れてくるか。
母よ、あなたの知識を受け継いだのは本当に我のみなのでしょうか?
血まみれで帰ったら上の妹に泣かれました。
とりあえず我は今川で体を洗っている。
なぜ上の妹はこれが血で、生き物の中を流れていて、傷つくと出てくるものだと理解していたのだろうか?
母の知識を一部なりとも受け継いでいるのかもしれない。なれば一応人化の理由もつくが、そうすると言葉が通じないのが不思議だ。
まあいい、言葉を教えてから聞けばいいことだ。
綺麗に洗い流せたかの確認のために水を溜め、姿を映す。
そこには青緑色をした鱗を持つ小さな竜がいた。
「そういえば、名を何とかせねばいかんな……」
一応母の知識の中には我達の名前についても考えてあった。
虹の七色と白と黒、男女合わせて一八の名前があったのだが我の色はその中には含まれていなかった。
「なにやら嫌な予感がする……」
無意識のうちにつぶやいて、きっと気のせいだと振り払い妹達のもとへ。
新しい住処に行くと声をかけ、今までどおり風の結界を張り移動したのだが、上の妹がやけにきらきらした顔でこちらを見てくる。
結界に興味があるのか?とたずねても首をかしげるばかり、やはり言葉は通じていないようだ。
穴に入り横たわるいのししを見たとたん上の妹が泣き出した。これもまたやはり、だ。
下の弟妹に食べなさいと促すと大喜びでかじりつき、それを見ていっそう大きな声で泣く上の妹。
こんな怖がりでこの先やっていけるのだろうか。