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一〇〇〇〇〇日目

あけましておめでとうございます〜

久しぶりに書いたので色々おかしい所もあるかもですが良かったらどうぞ〜

九九九八六日目


母よ、何とか無事にニジも世界を流れる力を自在に操れるようになりました。

貴方の残した知識、魂の欠片に語りかけられるのもあと少し、その日までここで名残を惜しませてください。


我は母の好きだった世界がよく見られるように上空に創った住処で身体を丸めた。世界の安定は妹達に任せ久方ぶりに何もせず母の記憶に語りかける。


少しは恨んだのです、何故我なのかと。重責に逃げ出したくなった事もあったのです。その度に貴方の知識のおかげ(せい)で引き止められた。どれだけこの世界を愛していたのか。残される我達の事を心配していたのか。

でも、竜の墓場に生み落とすのだけはやめて欲しかった。……恨みごとばかりになってしまいました。今日はもう寝る事にします。


九九九九二日目


大体何故異界の魂がこちらに迷い込んできたのか、それも記憶の処理もせず。あちらの世界の竜に文句を言ってやりたいものです。いや、勿論リリには何の落ち度もありませんし大切な妹です。だからこそ余計にそんな無体な扱いをした奴らに痛い目を見せてやりたいと……。


最後だというのに何故か愚痴のようになっていく口を噤み、我は世界を見下ろした。

今日も良い天気で魔力の流れも良い。

丁度眼下にはブコールが王都ドラグニール、そして竜の里。


九九九九八日目


「ち、忌々しい。よくぞここまで無恥で居られる」

ここ一〇〇年余りで急速に力を付けたリストルを見下げ思わず呟いた。

今では竜の降嫁した国と称してブコールに擦り寄っているそうな。

勿論発した声は無意識で、ここには我のみのはずだった、が。

『そう言ってやるな。人は短い。後ろを向く暇などありはしないのだよ』

「しかし、それでは余りにも勝手ではないですか。人自身はより短い物の事など考えていないというのに……」

言いかけた言葉を止め、静かな、今しも消えてしまいそうな、優しい声に顔を上げると知識にしかない母が立っていた。

住処を確認し、問題無く魔術の働いている事を確かめる。

『世界は変わったな』

「貴方が儚くなって……詳しくは判りませんが一二〇〇〇〇日は経っておりますので」

『大きゅうなったな』

「これはリリによる恩恵です。この国自体は何もしておりません」

拗ねるような口調に我ながら呆れる。そんな我を母は人の手で撫でた。

『お前の事だ』

「……もうじき一〇〇〇〇〇日ですので」

気恥ずかしくなり下を向く。

「リリは」

『ん?』

「上の妹です。リリーアンシェル。あの子は貴方によく似ております。いつも人の姿で、人が、世界が好きで、優しい子です」

『そうか』

そんなリリが育てたリストルが眼下を流れて行く。

「ギンは弟です。テーオルハディン、己を高めることを好むようで……それと一番下のニジ、フェニルエニルシェイラ。この子らは竜体がとても貴方に似て……」

『お前は、我が連れ合いに良く似ておるよ』

突然、思ってもみなかったことを言われ言葉に詰まる。

『この魔術を創り出したのもお前だろう?一度混ざった魂を再び分けようなどと無茶をする』

長年掛けて溜め込んだ魔力結晶で造られた住処と同じ程の時間をかけて描き込んだ陣を見た母は直ぐにそれと悟ったようだった。

『コレはお前にやったのだから、そのまま取り込んでも良かったのだぞ?』

「嫌です」

自らをコレと指差す母の欠片に即座に返した所、激しく笑われた。不本意である。


九九九九九日目


母の姿は薄れ、胸の辺りに淡く真珠色に輝く欠片が透ける。もう直に魔術が完成する。海に沈む夕日が美しい。

『本当に、よく似ておる。平気で無茶をする所もな』

「無茶などしておりません」

元々我の魔力も含めて丁度足りる計算だったのだ。予定通り進んでいる。

薄くなった住処に陣を壊さぬように注意を払いながら魔力を流して行く。

「母上、欠けた魂が正常に戻ったら恐らく輪廻に帰るでしょう。転生前の記憶は無くなると思いますが覚悟してください。きっと兄上達が押しかけますから」

言っても意味のない事だと思いつつも消えゆく母にそう告げた。

『だろうな、だが、何とかなるだろう。最後だけでも母と呼んでもらえて嬉しかったよ』

ハッと顔を上げる。

少し寂しげな母の顔。

何か言おうと口を開けた瞬間。

全ては世界に溶け消えていった。


一〇〇〇〇〇日目


落ちて行く。結晶も自身の魔力も使い切ったのだから当然だ。初めからそのつもりだったので下は海である。暫く海上を漂い帰るつもりであった我だが、その落下は突然に止められる。薄く目を開くと銀色に輝く鱗が見えた。

「に、にーちゃん。起きろ〜っ!早く飛ぶか人化するかしてくれっ!!」

「……すまぬ、どちらも無理だ」

「マジかっ!?」

ギンを巻き込んだ事に済まなく思ったがどうしようもなく二匹で海へ飛び込んだ。


「すまないな」

「別にいーけど、にーちゃん今までどこにいたんだ?」

我を引っ張って陸を目指し泳ぐギンに何と言えば良いのか解らずに口ごもる。

「少し出かけるって言ったきり全然気配感じなくなっちゃうし、俺達三日前から二匹で調整、一匹でにーちゃん探しって分担してたんだよ」

「ふむ、その割には上手く巡っているな」

「本当か!?実はさっきまで俺とニジがやってたんだよ!んで、この辺りの流れが少しおかしかったから来てみたらにーちゃん落ちてくんだもんな〜」

流れを乱さないように細心の注意を払っていたつもりだったがギンがそれに気付くとは。どうやら弟達は思っていた以上に成長していたらしい。

「ふむ、では帰ったら次の段階に進むか」

「げ、まだあんの?」

「まだと言うよりはまだまだだな。母上のような始祖竜になるには足りない事が多すぎる」

泳いでいたギンの動きが止まった。

「どうした?」

「いや、にーちゃんから母ちゃんの事を聞いたの初めてだなって……」

「そうだったか?」

「そうだよ!!」

「ならば今度聞かせてやろうか?」

「うん!!」

読んで頂きありがとうございました

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