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人間料理の店

以前頂いた感想にあった兄竜が青年に人化できるようになってからの話です

本作から5~600年ほど後のお話となります

 私の名前はシルファミュス。始祖竜の三七六番目の子供にして二三五番目の娘でございます。いつもは古い氷の中で過ごしているのですが、つい先日竜の里へ遊びに行った玄孫が面白い店を見つけたと話してくれたことを思い出し、久方ぶりに外出することにいたしました。何でも、人を料理する店だとか。人間など父竜が勇者に剣を託して以来食べたことが無いもので、すっかりどんな味か忘れてしまいました。本来食事などは必要としない私ですが、年甲斐も無く浮き立っております。




 私が外に出たせいで長年の住処が崩れてしまいましたが、新しい遊び場ができたとはしゃいでいる子竜達を見てこのままでも良いだろうと竜の里に向けて飛び立ちます。嗚呼、母竜が亡くなってからずっとふさぎこんでおりましたが、母の愛した世界はやはり美しい。竜の里に近づき、そろそろ降りようかというところで弟竜が慌てて飛び出てきました。

「ちょっと待って!」

「お久しぶり、シュロシュアネダーテ、そんなに急いでどこへ?」

「だから降りようとするの待って!姉上の降り方だと竜の里(ウチ)が潰れるから!?」

 確かに私は降りるのが得意ではないので弟竜に願われるまま人に姿を変えその背に降り立ちました。

「姉上、頼むから服着て」

「あら、うっかり」

 この子は幼い頃に人間と旅をしていたせいか、どうにも細かいところがあります。それは大きくなった今でも変わらないようで、全く困ったものです。

「ニジちゃん、待ってよぉ!」

「大丈夫大丈夫、ほら、ここまでおいで」

 里の上空では飛び始めたばかりの子竜と飛び方を教える若い竜の姿がちらほらと、これは、あのまま飛んできていたら危なかったかもしれません。

「それはそうと、姉上は何でここに?」

「新しい料理の店ができたと聞いて、ここしばらくこもりきりでしたから」

「あぁ、リリの店ね。この間行ったばかりだけど姉上が行くなら一緒に行こうかな」

 まぁ、時の流れとは不思議なもの。あれだけ人を食べることを嫌っていたこの子が……

「シュロシュアネダーテは何度も行ってるの?」

「まぁね」




 たどり着いたのは里の一番はずれにある一軒の店、看板には『ヒト料理店』人間が数人店の前に並んでいます。料理されるのを待っているのかしら?それともあれを食べていいの?少し困って弟竜を見ると嬉しそうにそれを見ております。

「今日もお客が多いなぁ」

 おきゃく?

「ろ、ロシュ。今お客って……」

「結構有名なんだよ、この店。態々ドラグニールから食べに来る人もいるくらいだし」

「人間が……お客」

「姉上、また何か勘違いしてない?」

 母竜よ、あなたの愛した世界は人が人を食べるような、そんな世界へと変貌してしまったようです。そして弟も恐ろしい世界にすっかり慣れきって……あら?

「あなた、ロシュ、なぜ竜の里にいるの?勇者の生まれた村で眠っていたのでは?」

「少し前に起きてさ、今はここの長をやってるんだ」

「まぁ、そんな。長だなんて大変でしょうに、大丈夫なの?あなたは昔から身体が小さいから……」

「大丈夫、大丈夫だから、ね、ほら、空いたみたいだから店に入ろう?」

 そこまで言うのだから何とかやっていけているのかもしれないけれど、可愛い末っ子ですものやっぱり心配です。

「あ、ロスにーちゃん、久しぶり!」

 店の中へ入った私達を迎えてくれたのは一匹の竜。上手に人化しておりますが、人間にはありえない銀色の髪と目でまだまだ若い竜だということがわかります。わかるのですが……あら?この子、弟?……え?

「お、今日はギンがお手伝いか、偉いな~」

「ニジが子供達の面倒見る日だからね、そっちの竜の人は新しいねーちゃん?」

「その言い方はどうかと思うんだけど、ギン達が知らないだけで生まれた時からちゃんとお姉ちゃんなんだよ?」

「う~ん、分かってるんだけどどうにも実感がわかないというかなぁ」

 頭をなでようとしたら避けられました。なぜ?

 席に案内され弟竜と向かい合って座ります。

「シュロシュアネダーテ、説明を」




 まさか、私の知らないうちに兄弟が四匹も増えていたなんて。そしてここが妹竜の店だったなんて。

「姉上、姉上、料理冷めるよ」

 ……あら、おいしい。妹竜はお料理が上手なのね。でも、どこに人間が使われているのかしら。意識をそっとキッチンへ向けると焦った声が聞こえました。

『ヒトちゃん、ヒトちゃん、もうすぐ材料なくなっちゃうよぅ!』

『あちゃぁ、もうすぐお兄ちゃんが持ってきてくれるはずなんだけど、間に合うかなぁ?』

 ヒトちゃん?ヒト料理店、ヒト、人……あら?あらあらあら、私、ちょっと勘違いしていたようですね。

 それにしても、生まれる前に母竜を亡くし、四匹で身を寄せ合って生きてきたなんて、私達兄弟にくらい頼ってくれてもよかったのに、いえ、だめね、生きている兄弟のほとんどがシュロシュアネダーテのように眠りに就いていたり、私のように母の死を嘆いて閉じこもっていたのだから。

 これからは精一杯に甘やかそうと心に決めて食事を終えました。あら?抱っこしてあげようと思ったギンが居ない。代わりに店の裏手で新たな弟の気配が。

『遅くなってすまない、剣竜山脈が崩れたと聞いて様子を見に……』

『もぅ!寄り道はしないでってあれだけ言ったのに!!』

『持ってきたのだからよかろう?』

 あら、まぁ。剣竜山脈といえば私が今日壊してきてしまった住処の名前よね?それが原因でけんかになってしまってるみたいだし、どうしましょう?

 店を出て裏に回ると黒い髪と目をした女の子と深緑色の髪と薄青色の目をした青年が言い争っています。いえ、女の子が怒って青年のほうは困っている感じですわね。二人とももちろん竜です。

「そもそもなぜリリーアンシェルはそこまで時間を気にするのだ?」

「むしろ私としてはどうしてここまで時間を気にしないのかが不思議よ!」

「二人とも、私のために争うのはやめて!」

「え、誰!?」

「姉上、ご無事でしたか」




 再び店に戻ってきた私達。なんでもリリーアンシェルが出会えた記念に甘味をご馳走してくれるとか。とても楽しみです。

 私が住処を崩してしまったことでシアンに迷惑をかけたことを謝ると、『いえ、姉上が無事で何よりです』なんて言ってくれて。新しい兄妹は良い子達のようです。

「いい子、いい子」

 深緑色の髪はさらさらで、とってもなで心地が良く、もう大満足ですとも。

「姉上、そろそろ席に付いたらいかがです?」

「いや」

 座るとシアンの頭に手が届かなくなりますからね。この子が立ってしまっても私の手が届かないので今が好機なのです。

 座っているシアンの頭をいい子いい子していると、ギンがキッチンから姿を現し、そのまま動かなくなりました。

「……にーちゃん、何やってんの?」

「丁度良い、ギン、代わってはくれぬか?」




「リリーアンシェルのお店を手伝うなんて偉い偉い、いい子いい子」

 銀色の髪はつやつやで少し固め、でもなで心地は抜群です。

「うぅ、にーちゃん、約束、絶対だからな!?」

「剣の手合わせだな、わかっておる」

 そんなことをしているうちにリリーアンシェルがお盆を持ってきました。それと同時に店の扉が勢いよく開き、一人の竜が現われます。

「ただいま戻りました。姉様、それ、私の分もありますか!?」

 あらあら、元気の良い事。

 すこーんと言う甘みの控えめなお菓子をいただいた後は、妹竜達を思う存分抱きしめて、ギンがシアンに望んだ手合わせを見ることに。

 一振りの剣をかまえるギン。あれは勇者が伝えたという聖剣流ですわね。かつて勇者と共にいたシュロシュアネダーテが興味深そうに見ております。

 対するシアンは腕の長さほどの剣を片手で持ち、ギンに向けてかまえます。薄青色の目をわずかに細め意識を広く保っている様子。

 決着はさほど時間もかからずに着きました。ギンに何度か打ち込ませ、開いている手で剣を奪い取って終了。あっけないものです。そもそもギンは視界が狭すぎます。

「なんだ、前やったときとほとんど変わってないでは無いか」

「ごめん、にーちゃん、ほんとに待って。俺のこの二九年否定するとか泣きそうになるから」

「師が悪かったのではないか?」

「ドラグニールの剣聖だよ!?」

 あら、シュロシュアネダーテの眉間にしわが寄りました。友であった勇者の名が汚された事に少し腹を立てているようですわね。まさか、聖剣流がここまで堕ちていたなんて……。

「人間になど師事せずとも姉上に教えてもらえばよいのではないか?」

 まぁ、私?

「そもそも聖剣流はミュズ姉上が勇者に教えたのが元だ。剣竜とも称された姉上から学べば……」

「喜んで!ギンは剣を学びたいのね?」

「え、いや、ちょ……」

「そうだわ、丁度良いから聖剣流も一から鍛えなおしましょう!」

「あ、それはいいね、姉上、お願い」

 シュロシュアネダーテもこう言ってくれたし、そうと決まれば急がなくては、ギンはともかく人間には時間が無さ過ぎるのですから。

 ばさり

 背中から羽を生やしてギンをつかんで飛び立ちます。

 可愛い弟に剣を教えられるなんて私は幸せね。

 こうして、私の忙しい日々が幕を開けたのでした。

ここまで読んで頂きありがとうございました~

ほとんど兄竜出てきませんでした、反省。

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