三日目
母よ、耳が痛いです。
ぞり ぞ~り ごり
ただいま我は卵の中を回転中である。
頭を抱え込むようにしているので歯は使えない。中いっぱいに育っているので爪で切り裂くのも難しい。
よって、全身を使い卵の中を回転し首から背中に掛けての鱗で少しづつ削っているのだが、その音が反響してひどい。
ぱきり
少し、鱗が引っかかったような背ごたえがあった。
ぐぐいっと手足や首を伸ばしてみるとぴきぴきと殻が開いていった。
外だ、世界だ!
深く息を吐き出し、初めての空気をめいっぱいに吸い込ん
「ぐっ!?げほっ、ごはっ…かは……」
世界を守るようにと望まれて生まれてきた我は、その世界から、ひどくよどんだ空気で盛大に迎えられたのであった。
とりあえず殻を食べよう。
竜の卵の殻は下手な魔石よりも魔力を多く含んでいる。それが始祖竜ともなればなおさらだ。
しばらくの間卵の殻を噛み砕く音だけが響き、半分ほどで満足した我は膨れた腹をさすりつつ辺りを見渡した。
視界に入ったのは三つの卵。
はぇ?
な、なんという事だ。我、今まで妹達のことがすっかり頭から抜けていた。
慌てて這い寄るも特に異常はないようだ。
胸をなでおろして現状把握に努めることにする。
卵は三つ。我が入っていたものより小さいのが二つ、さらに少し小さいのが一つ。この一番小さい卵が我の把握していた妹らしい。
もう二つは妹と弟か、産み分け上手だな、母よ。ちなみに我は雄である。
とりあえず、生まれてくる妹達が我と同じ目に会うのはかわいそうなので穴倉内の空気を浄化する。
そう、ここは穴倉だ、洞窟ほど大きくはない。おそらく我らが母が掘ったのであろう、岩をえぐった爪あとが鋭く残っている。
封じられていた入り口の石をどけ、顔を出してみるとひどい死臭がした。
母よ、英断だと思う。だが他になかったのか?
ここは竜の墓場。死期を悟った竜が最期を迎えに来る聖地。
ここに来る竜は我らの力を必要としないだろう。
竜ではない生き物はここに来ることさえできないだろう。
外敵に襲われることはない、この上なく安全な場所。だが、妹達を育てるのには不向きだ。
生まれて早々だが引っ越すことに決めた。
我と妹達を中心に風の結界を張り、シャボン玉のように漂わせる。空高くだと見つかる恐れがあるので地面すれすれを移動。竜の墓場はえぐれた崖に取り囲まれているので一番低い所から上へ上へ。
見下ろせば大量の竜の骨、その中でひときわ大きい骨が二体分あった。朽ちかけた灰色のものと、それに寄添う輝く真珠色のもの、母とそのつがいだろう。
「行ってきます」
後は振り返らなかった。