竜の里訪問【下】
結構間が開きましたが何とか完成しました
私の名前はニジ、竜です。
竜の里に来て今日で三日目なのですが、私も、姉様も、少し機嫌が悪いです。ギン兄様?さあ、朝起きたらおりませんでした。
「お、兄上だ、おはようございます!」
なぜ兄様はロシュさんの姿が見えたとたん駆け寄っていくのでしょうか?
竜の里は確かに珍しいですし、勉強になる事もあるのですが、ロシュさんが通りかかるたびになにやら胸の内がもやもやするというかなんと言うか、特に姉様のまとう空気が『直滑降』で落ちていきます。
昨日からはギン兄様もロシュさんのことをロスにーちゃんと呼び始めまして、こう、悲しいような、腹の立つような、何とも言えない気持ちが湧き起こっておりまして、何で、そう、何で長である忙しいロシュさんをわざわざ引き止めて時間を使わせるのか、忙しい身であるロシュさんを引き止めるのは失礼だというのに!
原因が判ったせいなのか、私は妙に良い気分で兄様に近づきます。
「兄様、ロシュさんは長で忙しいのですから、そう引き止めてはいけないのでは?」
「そういえばそうだったな、すみません兄上」
「うん、ごめんね。今日はこれから子供たちに昔話をするんだ。良かったら一緒に聞きに来る?」
ぐるりと半円状に座る子竜たち。私達は大きすぎたので人化をして後ろのほうに座っています。
その中に、以前見た青い鱗をした女の子がおりまして、私を見て嬉しそうに笑ってくれました。ひらひらと手を振ってみると嬉しそうに小さな羽根で顔をおおい隠します。
そんなことをしているうちに、ロシュさんの話が始まりました。
どうやらこれは途中からのようで、勇者はすでに勇者の剣をたずさえて、相棒の小さな竜とともに魔王に挑むところから始まりました。
今までどのような攻撃も受け付けなかった強力な魔王は、勇者の剣を見て初めてうろたえる。
長い戦いの末、魔王を打ち倒した勇者は竜の里の近くに街を造った。街は次第に大きくなり、やがて国になった。街の名前はドラグニール、国の名前はブコール。勇者の剣は国の宝として大切に保管され、剣を与えた竜への感謝を忘れぬ王族は、成人を迎えると竜の里に挨拶におもむくのが風習になったという。
「すごいですね、特に勇者と魔王の戦い。まるで見てきたかのようでした!」
姉様の食いつきがはんぱ無いです。
「見てきたからねぇ」
「え?」
「ほら、勇者についてきた小さな水色の竜がいたでしょ?あれ僕」
「ええぇえぇ!?」
あぁ、なんてこと、目がきらきら輝いています。
そうでした、姉様はこういう勇者とか、魔王とかのお話が大好きでしたものね。
「ロシュ兄は他にも見てきた話ってあるの!?」
「ん~、実は今日した話は初代勇者でね、その後にも二代目、三代目の勇者も勇者の剣をたずさえて……」
「では、また近くに来たら寄らせて頂きます」
「元気でね」
「兄上も」
五日目の昼過ぎ、ようやく出発する事になってロシュさんが見送ってくれました。
「じゃ、またな、ロスにーちゃん」
「あんまりシアンを困らせないようにな」
シアンとはお兄様の名前なのですが、私達でさえほとんど呼ばないのに……。
「ロシュ兄、またいろんなお話してね?」
「次にリリが来るときまでに思い出しておくよ」
最後、姉様はロシュさんにべったりでした。
「それでは失礼します」
「ニジ」
挨拶をして去ろうとしたところでロシュさんに引き止められました。
「何でしょう?」
「これ、お土産にね」
渡されたのは竜の私にとっては小さな、人間にとっては結構大きな袋。
「え~、何でニジだけ?」
ギン兄様が口をとがらせましたが兄様がなだめました。
「ニジは僕らの仲で一番の末っ子だからね、末っ子は甘やかされるって決まってるんだよ」
今まで僕がそうだった、だからニジも覚悟して。
最後の一言が風に乗って私の耳だけに聞こえました。
なんか、なんだか、今まで竜を束ねる長だからとか、兄様が取られそうで悔しいとか、色々な事を考えて気を張っていたのに、結局は兄様と同じ兄馬鹿だったとか、覚悟って何の事だろうとか、思い返すとこの数日、いっつも優しかった事とか……。
「また、来ますから……。ロシュ兄様もお元気で」
小さな声を風に乗せて届けてもらって、振り返ると満面の笑みを浮かべたロシュ兄様がおりました。
兄馬鹿の兄は兄馬鹿というお話でした
この先兄姉竜に会う度に四兄弟は可愛がられまくります
母竜が亡くなっているので永久に可愛がられます




