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一三五四八日目

 母よ、弟妹が帰ってきました。

 二匹は冒険者として世界を見てきたそうです。

 人化したまま過ごすと人の姿の成長が早くなるのか、我よりも年上に見えて少し悔しく思います。




 ギンとニジが持ってきてくれた土産で珍しく食事をした。

 最近リストルでは続々と新しい料理が創作されているらしく、このカラアゲもその一つだという。

 スパゲッティ、カレーライス、スキヤキ、テンプラ、話をするのはほぼ料理のことだ。お前達、いったい世界で何を見てきたのだ?

 表面がカリッと焼かれたスコーンに糖蜜をかけ食しつつ緑色の澄んだ茶をすする。うむ、なかなか。

「兄様、これが何か分かりますか?」

 食事を終えた我の前に、ニジが魔道銀製の箱を差し出した。

「遠くの者と会話をする魔道具だな。この前森へやってきた兵士が持っていた」

「なーんだ、もう知ってたのか。じゃあこれなら驚くだろ?」

 ギンがにやりと笑って箱を起動させた。

「ねーちゃん、聞こえる?」

 しばしの間、恐る恐るうかがう様な声が聞こえた。

【「え、え、と、聞こえるよ」】

 紛れも無い、ヒトの声だ。

 はい、と箱を渡される。

『元気にしているか?』

 向こうは共通語で話しているというのについいつもの様にニホンゴで話しかけてしまう。

【『うん、あの、お兄ちゃん……』】

『どうした?』

【『あの、私、勝手に出てきて……』】

『確かに息抜きは必要だ、気が晴れたら戻って来い。ただし、期間は一〇〇年だ。あと七三年以内に戻ってこなかったら無理やり連れ帰るからな』

【『うん……ふえ、うん、わかっ…ぐす、うぅ』】

『どうした、なぜ泣く?』

【『だって、私っ、見捨てっ、ひっく、お兄ちゃ、全然、っく、来ない、し!』】

『なんだ、迎えに来て欲しいのか?迷子になったか?今どこにいる?』

【『ふえっ!?違う違う、迎えはいらないから、ひくっ、自分で帰るから!だからもうちょっと待ってて』】

『分かった。あぁ、そういえばヒト、人間とつがったそうだな。人間の命は短い、大事にしてやれ』

 もう特に話すことは無かろうと箱の動きを止める。そして苦笑いをしている弟妹を見た。

「どうした?」

「いや、やっぱりにーちゃんってずれてると言うか何と言うか……」

「自身のペースを崩さない方ではありますね」

 その後はもっと詳しい旅の話、冒険者として見た世界、名を上げすぎてギルドを抜けるのが大変だったこと、ヒトと再会するきっかけになった大事件、そしてやっぱり世界中で食べたもののことなど、二匹の話は尽きることを知らなかった。

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