一二三六五日目
母よ、我達もだいぶんと大きくなりました。
弟妹にはふさわしい名を与え、ついこの間二三〇〇日ほど前に人化の術も成功し、六三七日前に五年ほど世界を見て回りたいと二匹連れ立って旅立っていきました。
我は独り、世界の動向を感じながらまどろんでおります。
たまに小さく魔力がゆれる事もありますが、おおむね平和なようです。
覚えのある気配が近づいてくるのを感じ、閉じていた目を薄く開けた。
銀の髪に銀の目をした人間、いや、人間の姿をしている竜だ。
「こんなすぐに帰ってきてどうした、ギン。ニジは一緒ではないのか?」
正式な名を与えたといっても呼ばれ慣れた名のほうが良いという事であまり使われることは無く、今までと同じく呼んでいる。
「すぐって、もう二年近くになるのに、やっぱにーちゃんだな。まあいいや、ねーちゃんが今何やってるのか分かったからその報告」
「ん、ヒトに会ったのか?」
「会ってないけど話は聞いた。ねーちゃん人間の魔術師に弟子入りして、凄腕の魔術師として冒険者で名を上げて、小さな国の王子に一目ぼれされて、その国の貴族の養子になってたよ」
「ずいぶん忙しそうだな、気晴らしになるのかそれで?」
「さあ?
俺達はこれから竜の里へ向かう使節団の護衛するんだ。
別に竜だからって挨拶とかしなくてもいいよね?」
「ああ、お前達を見て竜だと気付くのはあって長老くらいだ。護衛なら奥まで入ることも無いだろうし、気にするな。
竜の里への挨拶はヒトが戻ってきて竜に戻れるようになってからで良いだろう」
「分かった、ニジにもそう伝えておくよ」
「くれぐれも危険なことはするなよ。何かあったらすぐに我に伝えること、後は……」
「相変わらずだなにーちゃんも、なんか安心したよ。
そんな心配しなくても大丈夫、にーちゃんも気をつけてな」
「世界か」
弟が立ち去った後、ポツリとつぶやいた。
我にはいまひとつ分からぬが、妹達を惹きつける何かがあるのやもしれぬな。
妹達が独り立ちしたら巡って見るのも良いか。




