ビデオレター
短編です
実家を飛び出すようにして上京して十年、仕事も軌道に乗ってきて、とても忙しくなってきた頃、父から妙な動画が送られてきた。
「この動画を見ているということは、俺はもう死んでいると思う」
何て言葉から始まるもんだから、昼休憩に気軽にタップしたことを後悔した。画面には上京する前と変わらない父の姿が映っていた。
「えー、こういう時何を話したら良いモノか。えっとだな、こないだの会社の健康診断で、病気が見つかってな、手術するんだが、術後の回復が見込めないケースがそれなりに多いらしいんだ。だから、この動画が最後の連絡になる可能性がある。だから一応、ビデオレターみたいなものを作っておこうと思ってな。えっと、忙しいだろうが、まぁ、俺が死ぬのは人生の流れの一つだ。あまり悲しまなくていい。仕事を頑張ってるんだろうから、葬式もあまり無理に来ようとしなくていい。お前はお前の人生を懸命に歩みなさい。思えばお前は、一生懸命にいろんなことに取り組む子だった。よく言えば動きは速いが、悪く言えば視野が狭まりやすくい所がある。早とちりも多かったなぁ物事をさわりだけで判断するきらいがある子だった。だから上京すると言い出した時は、本当は行かせたくなかった。でもお前は俺にないモノをたくさん持ってい・・・」
過去語りが始まったあたりで私は動画を止めた。その日の仕事を終わらせてから、実家に帰るために有休をとらせてもらった。動画を見せたら上司も慌てて有給申請を通してくれた。
私はその日の夜行バスで実家に向かった。
父は冗談や曲がったことが嫌いな質だから、こんな動画を冗談で送ってくるはずがない。最近実家に帰れていなかったけど、病気になったとかそんな連絡今までなかった。確かに私が上京するころ“健康診断で引っかかった”みたいな話してたけど、手術をするような病気じゃなかった、はず・・・。たぶん。もしかしたらあの後、病状が悪化して?・・・。こんなことなら一度でも実家に帰っておくんだった。もっと母と父と一緒にいる時間を持っておけばよかった。年末年始の連絡すら惜しんだ自分が妬ましい。
夜行バスの中でじわじわと涙があふれてきた。どうしよう、もう父が亡くなっていたら。どうしよう、葬式まで終わってしまっていたら。まだ“ありがとう”って伝える時間はあるんだろうか。手術が成功しているかもしれない。でもあんな動画が送られてきたということは・・・。
不安が不安を呼んだせいで、夜行バスの中では全然寝られなかったけど、そんなことはどうでも良かった。急いでタクシーを呼び止め、実家の住所を伝えた。赤信号が今はもどかしい。早く、早く!
家を出た時より少し色あせているけど、大きな変化のない実家になんとなくホッとしたのもつかの間、急いで玄関を開け、中に入った。
「お父さん!?お母さん!!」
私の悲痛な叫びに、リビングのドアを開けたのは、父だった。
「・・・は?」
「おぅ、どうした?」
「どうしたじゃないよ!お父さん・・・病院にいるんじゃ?」
「あぁ、昨日の動画かぁ!なんだ、あれ見て帰ってきたのか!?ちゃんと最後まで観てないんだろ~。お前は本当に早とちりだなぁ。あれ、もうだいぶ前の奴だぞ?動画の最後に説明つけただろ?あれ、俺が編集したんだ」
「・・・・はぁ~!?」
聞けば、私が上京するころ、確かに健康診断で引っかかって、入院騒ぎがあったらしいが、致死率が云々は父の早とちりで、手術は無事成功。何の問題もなく退院したもんだから、私には知らせなくても良いだろうとの判断をしたらしいが、手術の前日に不安になった父が一応と撮ったらしい。そして最近、趣味で動画作成を習い始めたから、その動画をそのまま消すのはもったいないからと編集して、今更私に送ってきたらしい。
——紛らわしい事しないで!!——
もぉ~!!いつもありがとうね!じゃぁ私帰るから!!




