貴方の幸せを願っているわ
短編を書きたいと思っていたのですが・・・
いつも登場人物が多くなり、長編案だけ増加する中
病弱な妹なら短編行けるのでは?と思い書いてみました。
日記調ですので、読みにくかったらすみません。
よろしくお願い致します。
私には5つ下の可愛らしい容姿の妹がいる。ミモザの花のように美しい金の髪に、秋桜の様な綺麗なピンク色の瞳の彼女は産まれ月より早く産まれ、産まれたときはこれは人間だろうかと思うほど小さかった。
でも、貴方より少し小さいくらいでアランサスもこのくらい小さかったのよ。とお母様は言った。だから、妹もきっと大丈夫だと思った。
けれど、妹はすぐに熱を出し、良く咳をした。肺が未熟かもしれませんとお医者様は言っていた。お父様とお母様は凄く凄く悲しそうで、私は小さな腕でお父様と一緒にお母様をギュッと抱きしめた。お父様もお母様も私をぎゅっと抱きしめ返してくれた。
妹は、お母様がいないと大泣きして凄く咳が酷くなる時があった。日々看病と社交に忙しいお母様の為に私は私の出来ることを頑張ることにした。お父様に相談するとアランサスが勤勉でお行儀が良いと母は安心するのだと聞いた。
私は、お行儀の勉強とその他の勉強を頑張ることにした。お父様に相談して、忙しいお母様の代わりに私にお行儀を教えてくれる家庭教師を雇ってもらった。お行儀の家庭教師の先生はお行儀だけじゃなくて、教養、ピアノ、ダンス、刺繍、絵画に更に算術や歴史も知っている凄い先生だった。
お父様が私への教育内容を相談しているのは、家庭教師の先生がお辞めになる13歳の時に教えて下さった。お父様は、城でのお仕事に領地のお仕事、お母様を休ませるために妹の看病を交代したり忙しい人だったけれど、私のことも考えて下さる素敵なお父様であることにその時に気が付いて私は胸が温かくなった。
私が13歳になった頃の妹は、周りの8歳の子たちよりは少し小さいけれど発熱も咳も大分少なくなった。家庭教師の先生がいらっしゃる日は良く発熱をしたり咳が止まらなくなったりするのだけど、お母様がお茶会へ連れて行くときは元気な足取りで出かけるようになった。
私は本当に元気になってきたのだと安堵した。だから、安心して全寮制の学院へ行くことが出来た。その時にお母様は、妹の後は子供を産むことが出来なくなったと教えて貰った。だから、私は学院で領主になる教育を受けることになった。
学院の勉強は、家庭教師の先生が教えてくれたことを深く知ることが出来た。お父様は私が領主になることを考えてくれたことを知って、私は増々勉強を頑張った。結果、私は3年間Aクラスで居続けることが出来た。成績優秀な人たちのクラス、300名近い同級生がいる中の10分の1の30名しか選ばれることが無いクラスに継続して居続けることが出来たのは家庭教師の先生の教えがあってこそだと先生へ感謝の手紙を送った。
学院も残り1年の15歳の夏。長期休みに領地に帰ると見たことのない同じ年ごろの男の子を紹介された。隣の領地のオルティス侯爵家の五男のハドリアノ様は、1つ上の学年で領地経営科を今年卒業したばかりなのだと言った。
彼は私の婚約者となった。レモンの様に明るい色の髪と夜明けの様な濃い藍色の理知的な瞳のハドリアノは、私が卒業するまでの1年間、当家に住み込んで父から教えを乞うのだという。正直羨ましかった。けれど、私はきちんとAクラスの下級生とも交流を持って領地の為に役立てなくてはと休みが明ける前に学院へ戻った。
学院の最上級生の年は、総仕上げという事でシミュレーションやディスカッションが大半を占めた。その合間に、同じAクラスやBクラスの下級生たちとの社交もあった。同じクラスにはいなかった、領主になる予定の女の子とも友人になった。同じクラスの女の子は、次期領主の婚約者ばかりだった。
シミュレーションで、ローアンバーの髪色に深緑の瞳のイザイアスと二人ペアになって領主夫妻になり領地経営案を発表する授業は有意義だった。ただ、男の子の多いAクラスでは男男ペアの夫婦もあり、どちらが妻役をするのかと揉めているペアもあった。しかし教師が、交代で2ターンすると言われ諍いは収まった。
男女のペアも、男性領主と妻と、女性領主と夫という役割を替えたシミュレーションに私は先生方のカリキュラムに感動を覚えた。20年前に領主経営の不備で領主が爵位を返上する事件が頻発した後にこれでは国が立ち行かないと学院のカリキュラムに変更があったのだと先生が教えて下さった。歴史も過去を課題にした大切な学びなのだと実感した。
イザイアスは、次男だから、私が女領主のシミュレーションを2回しようと言ったが、次男は長男に不測の事態があった時に領主にならなくてはいけないのだからと、きちんと交代してシミュレーションをしようと言った。私の言葉を聞いたときから、イザイアスが真剣な顔になったのは気のせいでは無いと思う。
ペアはイザイアスと組むことが多かった。やはり、嫡男では無い男の子と領主になる予定の私を組ませる方が有意義だと教師陣は考えたようだった。嫡男でない男の子はイザイアスを入れて3人しかいなかったのでその3人が私のペアになることが多かった。
3年間とても充実した学院生活だったが最後の1年が更に濃厚な日々を過ごした。そして私は卒業して領地に戻った。結婚して領主教育を受ける為に。
領地に戻ると、父との領主教育が始まった。しかし、ハドリアノ様は共に受けることが無かった。彼はこの1年、父に教育を受けてるのだから私は彼に追いつくために頑張らなければいけないと思った。
父は良く私の学院生活を聞きたがった。どんな教育と、どんな出会いがあったか。クラスの友人たちや、同じ女領主になる年下の女の子の話もした。彼女はうちの領とは少し離れている領地の娘だったので、社交シーズンしか会えないかもしれないと寂しげに話してしまったのだろう。父は私の頭を撫でてくれた。
母との教育もあった。近くの領地のお茶会、晩餐、夜会に出ることになった。妹は11歳になり、かなり元気になっていた。だから、お姉様だけが夜会に出れるのはずるいと叫んでいた。家庭教師の先生は彼女に何を教えているのだろう?お父様へ家庭教師の先生についてお話ししなくてはいけないなと思いながら私は母と夜会へ出かけた。
今回は、私の初めての夜会だったので、寄親の公爵夫人が夫人だけの夜会を開いてくれた。だからお供は父でも婚約者でもなく母が付添人として一緒に参加した。
周辺領地の夫人やご令嬢に挨拶して、お茶会にもお誘いがあった。学院生活は男性ばかりの中にいたので会話に入り込むのになかなか苦戦した。どうやら私はのんびりとした性格らしい。ご令嬢方の会話は、乗馬の時の景色のように早く過ぎ去っていった。
今度、婚約者を伴った夜会にも参加してねと他の婦人に誘われたが、なぜか母が曖昧に機会がありましたらと答えた。そういえば、帰って来てから半月が経つけど、ハドリアノと会ったのは晩餐だけだったなと思った。私とハドリアノの仲が深まっていないうちに、一緒に社交するのは無理なのだろうと私はハドリアノと時間を合わせて交流しなくてはと考えた。
帰った翌日に、ハドリアノの私室に向かった。そこの客室の奥だった。領主の家族とは真反対の部屋にしたのは妹の為かと考える。彼女は、小さな物音で起きて咳き込むから、両親が出来るだけ生活音から遠ざけたのだろうと思った。
ノックをして声をかけると、ガタンと大きな音がした後何かバタバタと布がはためく音がした後に少し息を切らしたハドリアノが顔を出した。今日、お茶の時間を一緒にすることは可能かと話すと了承してくれた。
何か、作業の最中に話しかけた事を謝り、私は侍女と料理長にお茶の時間の相談をする為に下の階に向かった。学院に同行した侍女は、それは素敵ですね。ハドリアノ様のお好みを他のメイドたちに聞いてきますと言って駆けて行って侍女長に再教育は必要ですか?と威圧のある声で叱られていた。
私の相談のせいではしゃいでしまったので、後で侍女長に取りなそうと思いながらコンフェクショナーにお茶の時間のお菓子の相談をすると少しばかり微妙な顔をしたので、ハドリアノ様はあまりお菓子を好まれないのかサンドイッチを多めがいいのかと相談した。
婚約して1年経つが学院最後の年は、長期休みのたびに友人になった令嬢の領地にお邪魔したりして過ごしてしまったのでハドリアノ様と交流が無かったなと反省しながら父の待つ執務室に向かう。
お茶の時間はハドリアノとお茶をすると父につげると「そうか」と短い返事がありそのまま今日は父の執務のお手伝いをした。今日は領民の嘆願書を読み纏める仕事を受け持った。昼食は父と共に執務室で軽く済ませて執務の続きに没頭しているとお茶の時間ですよと専属の侍女が呼びに来てくれた。
侍女長には、昼食を届けて貰った時に侍女が私が婚約者と交流することになったのではしゃいでしまったことを謝り、私の配慮不足だからあまり叱らないでほしいとお願いした。侍女長はにこにこして話を聞いてくれたのだが、心配になって侍女にも叱られなかったか確認しながらお茶の準備をしている東屋へ向かった。侍女は、あの後侍女長と話をしたようだけど、叱られたわけでもないと言っていたのでホッとした。
庭に出ると爽やかな風と日の光が眩しく、侍女が日傘を差すまで目を窄めてしまった。執務室でずっと文字を追っていたので目が疲れていたのだろうと歩き出すのを少し待って貰った。目を開けるとそこには、春の終わりの花々と青々とした木々が広がる華やかな景色が広がっていた。あぁ自分は帰って来てから庭を散策する暇もなくお父様と執務室に籠っていた事を知り、婚約者に申し訳なくなった。
東屋に入るとそこにはハドリアノだけでは無く、妹のオリヴィタもいた。お姉様遅いわと叱られ、ハドリアノ様が退屈しては可哀想だから私が相手をして差し上げたのよという。
妹が人をもてなすことまで覚えたのだと私は感動し、妹に感謝を伝えたら妹は照れ臭かったのだろう。変な顔になり俯いてしまった。せっかくなので、このまま3人でお茶にしましょうというとますます変な顔になり、私の可愛い妹は照れ屋なのだと知った。
それからは、最近母にお茶会に連れて行ってもらうことが減ったと言う妹も誘い3人でお茶をした。妹はここ数年で大分元気になったようで、ハドリアノ様と妹が出かけた場所や色々なことがあったとたくさん話をしてくれた。私の分からないことばかりだったけど、二人は仲良くなり兄妹の様で、なにより妹が元気になったことで私は嬉しくなりニコニコと微笑んで聞き入ってしまった。
妹は、何か言うことはないの?と度々聞いてきたので、貴方が元気になって嬉しいわと告げ、他の家に行くには家庭教師の先生ともっとお行儀の勉強が必要ねと助言を話すとまた変な顔になった。可愛い顔がその顔になったら困るので照れすぎてはいけないわねぇと言うと妹は違う変な顔になった。表情豊かで可愛いなと思った。
その後も、時々ハドリアノ様を誘い、3人でお茶をした。私が執務室でお手伝いや教育を受けている時も2人はお茶をしているので本当に仲良しになったんだなと微笑ましく眺めていたら、父に私の学院時代の友人を招いて夜会をしないかと提案された。
今から来る夏季は、貴族の多くは避暑地へ出かける。我が領も比較的涼しい地域になるので是非友人を招待したい。夜会を開催したいと私が言うと、父は私が夜会の準備をするようにと仕事を任せてくれた。もちろん、お母様も監修して下さるのいうので安心して準備を行った。
母に何名くらい招待しても大丈夫かと聞くと、その時期はタウンハウスの使用人たちも領地へ呼び寄せるので40室ほどは宿泊可能ということで私はクラスの全員と後輩の数名に招待状を出した。まさか、全員が参加するなんてとは思わず37名のご招待の夜会になった。
更にご兄弟や姉妹、従兄弟も参加したいと言う参加者もいたので、特に仲の良い令嬢は私の部屋にベッドを増やしお泊りすることは可能かとお伺いの手紙を送ると大変喜んでくれた。
総勢で51名、ご兄弟や姉妹は同室をお願いして初めての夜会は大所帯になり、私も準備に緊張していたが、クラスメイトが全員参加してくれる嬉しさと同室にお泊りする友人たちの来訪に楽しみの方が勝った。
夜会は2月後と日付を決めたが、避暑に訪れるのだから皆さん1〜2週間ほどは滞在する。滞在する人々の家格や学院時代の付き合いを考えながら部屋割りを行い、食材の仕入れ先や、リネン類や家具の点検などの指示を行うと、あっという間に半月が過ぎ、またお茶会をしていない事に気が付いたが最近は忙しく時間がとれないとハドリアノ様と妹に謝っておいた。
準備に追われ、夜会の日まで残すところ1月になったところで、イザイアスが早々に訪ねて来た。何か手伝うことが出来るかと、私の力になってくれると言ってくれたので、準備していた領主の家族の区域に一番近い部屋に泊まって貰うことにした。
その日の晩餐に、家族に紹介した。イザイアス・ウルティアは王都に近いオリバス伯爵家の次男である事、学院時代は私のペアでの実習が多かった事。イザイアスは、今は兄の執務を手伝いながら商会を立ち上げようと考えている事、服飾関係の商会を考えているので、羊毛と養蚕を主な主産業としてる我がタムード伯爵領に興味があると話をしてくれた。
翌日から、イザイアスは私の仕事を手伝ってくれた。夜会の準備は殆ど夫人の仕事になるが、お兄様の補佐をしているだけあってかなり助けられた。準備を何処まで終えているか、何を終えているかが分かる、オリバス伯爵夫人の考案された進捗表と確認表はかなり便利で、そのままタムード伯爵で使っていいかと聞くとそれは条件次第だなとニヤリと悪い顔した後に、冗談だよ、母上には許可を取って教えているよと言ってくれた。
オリバス伯爵夫人へ最上級のシルクを贈る話をすると、イザイアスは大喜びでもっと働くと言って私の手伝いをしてくれた。そのおかげで、私の仕事は大分片付いてきたので父の手伝いも出来る旨を父に告げると、先にイザイアスに領地を案内してはどうかと促され、羊の牧場と養蚕場に機織りの工場を一緒に視察した。
ハドリアノ様とオリヴィタも誘ったが、ハドリアノ様は何か父から用事を言いつけられているのか忙しいとオリヴィタは昨日まで元気だったのに今朝から体調が悪いという事でイザイアスと二人で視察に行ったが行く先々で感動するイザイアスに笑いっぱなしの私は、もう一度淑女教育をしなおさないといけないかと真剣に悩んだ。そんな私を彼も笑っていた。
イザイアスが滞在し始めて10日が経つと、夜会の準備はほぼ終わり、後はお客様を迎えるだけになった。手の空いたイザイアスに父が父の執務の手伝いをお願い出来るかと聞き、彼は二つ返事で了承した。父はイザイアスを大変気に入ったようで年の離れた友人のように接してくれて私も嬉しくなった。
夜会の日まで残り半月になると、宿泊予定のお客様も続々と到着していった。妹のオリヴィタの体調に配慮してオリヴィタの部屋から遠い部屋から案内していく。でも、最近はハドリアノ様と一緒に良く出かける様で体調もいいようだ。ハドリアノ様は父の執務室では会わないけど、きっとご自分の執務室の方が仕事がしやすいのだろう。忙しい中、妹の面倒を見てくれる人がいて大変助かっている。
夜会の日までも、ゲストをもてなす為色々な催しもした。それにも、イザイアスが力になってくれた。本当にイザイアスへの謝礼をどうするか父と本格的に相談しなくてはいけないと思う。
最近はゲストを交えて、大晩餐室で行っていたが、明日が夜会という今日は晩餐を家族だけの晩餐室で行い打合せをする。イザイアスがずっと手伝ってくれているので家族の晩餐室に招待した。
晩餐の席で、今迄夜会の話には入ってこなかったオリヴィタがエスコートをハドリアノ様にしてほしいと言い出した。でも、この夜会は私とハドリアノ様の婚約者としての初の夜会になるのでお披露目の意味も持っていると思う。
けれど、父がオリヴィタは初めての夜会だし招待客は私の友人で若い貴族なので練習に良いのではと了承した。私のエスコート役はイザイアスに頼んでくださった。いいのかしらと思ったけど若い貴族だけの会だからフランクにということだろうと思い私も了承した。
それにオリヴィタも、知らない男性よりいつも一緒にいてくれるハドリアノ様がいいのだと納得もしたし、私も安心した。私が喜んで了承した時、また変な顔になっていた。照れているのだろうけど、貴族社会で生きるにはそろそろ感情を表に出さないように指導していかないといけないなと考えた。
夜会の夜、オリヴィタは自身の瞳の色のピンクに金の刺繍をしたドレスを纏っていた。ハドリアノ様の瞳の色の濃い藍色に近いラピスラズリのイヤリングとネックレスは少しドレスと合っていなかったけど、昨日パートナーを変更したのだからしょうがないなと思った。
私も自分の瞳のライラック色のドレスを身に纏っていたら、藤色のハンカチーフを胸に挿したイザイアスが少し深みのあるエメラルドのイヤリングと銀の装飾の多いネックレスを持って自室を訪れ父から許可は取ってあるので身に着けてほしいと渡された。
父の許可が得られているのであれば、私に否はない。彼の瞳の色の装飾品を身に纏うことに少しの恥ずかしさを覚えたがエメラルドを銀で装飾されているからだろうか2つの装飾品はライラック色の私のドレスと調和していてドレスと共に誂えた様だった。
彼はパートナーを決めずこちらにきたのだから、どんなドレスにでも合うように誂えて来たのだろうとイザイアスのセンスの良さにさすが服飾の商会を立ち上げるだけはあると感心するしかなかった。
夜会は、主催の私とパートナーを引き受けてくれたイザイアスを中心に始まった。主催の私が挨拶をすると父の挨拶に移り、私たちのファーストダンスで夜会はスタートした。私たちと一緒に踊りたいとオリヴィタが言ったが夜会には順番があるのだときちんと教えて2曲目にハドリアノ様と踊るように諭した。
相変わらず凄く変な顔をしていたが、父と母にマナーを守れない子供は夜会に参加できないと言われしぶしぶ従った。もう数年後には学院に通う年になるのに、マナーの学習が不十分すぎるのでやはり家庭教師を変更した方がいいと父に相談しようと考えた。
夜会は、オリヴィタが色々な男性に声をかけ始め爵位の順番や紹介がないと話しかけてはいけないとハドリアノ様に教えられ二人が揃って退場するまでは少し慌ただしかったがそのあとは、懐かしい顔と久々の会話に話が弾み夜会は夜通し続いた。
皆さんが部屋に戻る頃には、空が白み始めていたので使用人たちにはお手当をはずまなくてはいけないなと色々考えてしまい、殆ど仮眠の様な時間の睡眠から目覚めると昨日はお休みしていた使用人たちに浴室の方で身支度を手伝ってもらい静かに部屋を出て昨日は早くに退室した父と朝食を取りながら使用人のお手当と休暇の相談をした。
イザイアスのお陰で、予算には余剰金が残っていたので父は賛成してくれて朝食の給仕をしている使用人たちもにこにこといつもより愛想がいい様に見えた。
朝食を終えると、談話室でゲストたちが起きてくるのを待つことにした。自室には同室にしてもらった令嬢たちがまだ寝ているので談話室で本を読むつもりだったが、やはり睡眠時間が短かかったので、気がついたら本を開きながら寝てしまったらしい。
気が付いたときには、背中にはクッションが挟まっており、肩まで毛布がかけられていた。ボーッと目を開けると近くで起きたかい?とイザイアスの声が聞こえ吃驚してあわてて姿勢を正した。
私の無作法を主催者お疲れ様と言いながら、カップに準備されていた珈琲を入れてくれた。最近お砂糖は入れなくても飲めるようになったがまだミルクはたっぷりだ。イザイアスはブラックで飲んでいた。寝不足には効くね。と穏やかに話してくれた。
数日かけてゲストを見送り、夜会から1週間が過ぎた日イザイアス以外のゲストが全員帰路についた。彼には本当に最初から最後まで世話になりっぱなしなので彼の商会に、我が領の羊毛やシルクを卸すのはどうかと父に相談したら父も承諾してくれた。それどころか、オリバス伯爵家との提携の話まで出ているのだと話してくださった。イザイアスに何かお返しが出来ることが、凄く嬉しかった。
ゲストを見送って1週間経っても、イザイアスは相変わらず父の執務の手伝いをしてくれていた。自分の家の仕事は大丈夫なのかと聞くと、父とオリバス伯爵で話は済んでいるようでイザイアスはまだ滞在するのだと聞き嬉しくなった。
夜会も落ち着いたので、オリヴィタの教育について父と相談しようとした矢先にハドリアノ様に一緒にお茶をと誘われた。初めてかもしれない。いや、初めてだ。少し浮ついた気持ちで風通りのいいお茶会室へ入ると、相変わらずオリヴィタがいた。
ハドリアノ様の隣に、腕に縋るように組んで座るオリヴィタに少し眉を顰める。お行儀が悪いし、暑くないのだろうかと。私が二人の向かいに座ると、急にオリヴィタが舞台女優のように声を張り上げて私に謝ってきた。
オリヴィタが言うには、私があまりにハドリアノ様をないがしろにして可哀想だということ、そんなハドリアノ様と交流するうちにハドリアノ様を好きになってしまったということ、だから、ハドリアノ様の婚約者を自分に代えてほしいことを涙ながらにはっきりとした声でノンブレスで滔々と話した。
私はオリヴィタの肺の異常が治った事に安堵した。こんなに声も出て息継ぎもせず話ができるのであればもう健康に問題はないのだとホッとした。安堵したところで話の内容がやっと脳へ届いて固まった。
すると、ハドリアノ様も滔々とご自身に酔うように話し始めた。自分がいくら頑張ってもタムード伯爵である父がなかなか認めてくれないこと、それはアランサスが相手にしてくれていないので、婚約者として認められないからではないかということ、オリヴィタは自分を認めオリヴィタの伴侶はハドリアノ様がいいと言ってくれたこと、オリヴィタと婚約すればタムード伯爵も自身を認めてくれるのではないかと、それはそれは悲劇のヒロインの様に語った。
私は、喜劇を見ているような気分になっていると隣の部屋の続き扉から父と母とイザイアスが入ってきた。母とイザイアスは私を挟むように座り、母は私の手をぎゅっと握ってくださった。父は一人、短辺の一人掛けの椅子に座り無表情にハドリアノ様を見る。
先ほどまで血色良く、滔々とお話ししていたハドリアノ様のお顔が真っ青に変わった。けれど、オリヴィタは早く話が進むとおもったのだろう。父に婚約者の変更と次期領主の変更を願い出た。私は、きゅっと心臓が掴まれる想いでいると優しくイザイアスが背中を擦ってくれた。
父はゆっくりとした口調で、婚約者の変更を了承した。ハドリアノ様とオリヴィタの顔に喜色が宿るのが見えた。そして、オルディの町に2人の邸を準備していることを告げる。オルディは我がタムード伯爵領とハドリアノ様のご実家のオルティス侯爵領が接してる最もタムード伯爵領の端の町の名前だった。
先ほどまで喜色満面の笑顔だったハドリアノ様とオリヴィタの笑顔がそのままの形で凍った。オリヴィタは何故、次期領主の自分がそんな端の町の邸宅に住まないといけないのか父に聞く。
父はやはり、ゆっくりとした口調で婚約者の交代は認めるが次期領主は認めないという。私はやっと安堵し身体から力が抜ける。それを支えるようにイザイアスの手が私の背中にずっとある。
つまり、伯爵を継ぐことのないオリヴィタと次期女伯爵に婿入りするはずだった爵位の無いハドリアノ様の婚姻が了承され、彼らは平民としてオリディの町に結婚祝いとして邸宅を与えられたということだろう。今から平民となる彼らが住む邸宅が彼らの想像していた邸宅かは分からない。
それに思い至ったハドリアノ様が激怒し立ち上がった。自身の実家であるオルティス侯爵家が黙ってないぞと。しかし、父は冷たい目線で淡々と説明する。婿入りの予定で、我がタムード邸に滞在を始めたハドリアノ様は父の執務の手伝いには1月を待たず音を上げ、体の不調を訴え執務の勉強の場に訪れなくなった。
父は最初は家に慣れるまではと大目に見ていた。しかし、オリヴィタと良くお茶をする姿を見かけるようになったので、半年ほどは頻繁に声をかけたが、5回に1回しか執務室に来ないハドリアノ様に早々に見切りをつけオルティス侯爵家へ婚約破棄の連絡をした。
すると、オルティス侯爵家は当主が交代しており、前オルティス侯爵家の前妻との嫡男が継いでいた。ハドリアノ様は後妻のさらに3番目の子になり、父も老いて成人した息子の面倒までみられないと言っているので破棄の違約金は払うがこちらに戻さないでほしいと言う。
それはあまりに可哀想なことだと思い、アランサスが帰ってきて交流をしたら、執務に積極的になるのではないかと長い目で見ることにした。なので、月に数度ほど執務の手伝いに誘い、それをどの様にするか記録していたという。
もちろん、その記録はアランサスが戻って来てからも続いていた。しかし、アランサスが戻ったところでハドリアノ様の態度も変わらず。最近では、ハドリアノ様の部屋にオリヴィタと二人でいると使用人からも報告が上がっている。
そこで不思議なのは、父と母がオリヴィタの行動へ何も言ってないのか?という事だった。しかし、そのなぞはすぐに解かれた。父も母も家庭教師も再三、オリヴィタに話をしているが、話が説教臭くなるとオリヴィタは咳で体調が悪くなる。また後日、話をしようとしてまた後日を繰り返し今日になったとの事だった。更に、頻繁に呼ばれる通いの医者も数年前からオリヴィタの肺の音は正常で健康であると太鼓判を押しているという。
父と母も、あんなに大切にしていた娘がただただ怠惰になってしまったのかと落胆したが自分たちが甘やかした為にこうなってしまったのだと思い。このまま病弱な令嬢として嫁に出す事を諦めアランサスが家を継いだ後は、自分たちと別邸へ移り家で最後まで面倒見ようと考えていた。
自分たちが天に呼ばれた後は少しばかりの支援をしてほしいと、アランサスに苦労を掛けるが心優しいアランサスは了承してくれるだろうと考えていた。
しかし、ただの怠惰であれば慈悲があった。姉の婚約者を誘惑し、姉を陥れることを画策する性悪であるのであれば話は変わってくる。二人が関係を持った時からタムード伯爵夫妻の中で、怠惰に育ってしまったが可愛い娘が性悪女に、実家に居場所が無い後妻の可哀想な貴族家の男が婚約者をないがしろにして少女に手を出す屑男に変わった。
そこからの伯爵の手配は素早かった。アランサスへ同級生を招いた夜会を開くことを指示し、オルディの町の長屋の一室を買い取りオリヴィタ名義にする。アランサスの同級生の名簿を手に入れそれぞれの家を調査している時にイザイアスが訪れアランサスの手伝いを始めた。
息の合った二人に少し面食らったが、イザイアスの調査をすると生まれも育ちも家族仲も良好。さらに、イザイアスのアランサスを見る目は慈しみに満たされていた。気が付いてないのはアランサスだけだった。すぐにオリバス伯爵へ連絡を取ると、あちらもそのような良縁を結べるのであればと、とんとん拍子に婚約の話は進み、手紙のやり取りだけで新事業の話まで行き早めに会いましょうとなった。
夜会の準備が落ち着いたころ、自分の手伝いもさせてみたが意欲的で気が利く。領主の補佐として理想が目の前にいることに感謝した。全てが落ち着きイザイアスへ婚約の打診を出しているまさにその時に、アランサスがハドリアノに呼び出されたとアランサスの専属侍女が報告に来たので隣室で待機していたらハドリアノたちの言いたい放題に我慢が出来ず突撃したのだと淡々と説明した。
話を静かに聞くことしか出来なくなっていた二人は真っ青な顔になったまま、婚姻届けにサインを促された。少しごねたが、婚姻しないのであれば家も与えないと言えばしぶしぶサインをして、話し合いの間に出来る使用人たちにまとめられた荷物と共にオルディ行の馬車に乗せられた。
一連を見ていたアランサスは、急にパチンと手を叩きオリヴィタが婚姻出来て好きな人と生活を共にするだけではなく苦手なマナーのいらない世界で生きていけるのねと安堵し、よかったわと言い最後に扉が閉まる前にオリヴィタに向かって
『私の可愛いオリヴィタ。貴方の幸せを願っているわ』と言った。
その時の、オリヴィタの顔は【驚愕】を表しているなと両親もイザイアスも思ったがアランサスだけは、また変な顔してるわ、照れて可愛いと呑気な事を言っていた。
そんな、呑気なアランサスを頼むぞとタムード伯爵に肩を叩かれたイザイアスは、仕事は出来るのになぜか呑気な将来の妻を優しい目で一瞥すると任せて下さいと誓った。
最後まで拝読ありがとうございます。
読者様が「いやいや。それは違う」と突っ込んで頂けたのであれば
作者はしてやったりで大満足です。
今後も執筆していきますので、よろしければ他作品も読んでください。
あっ!他の作品は会話大目になってます。




