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厄災日記  作者: LOOK Circle


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8/8

開戦の号令

挿絵(By みてみん)

 会談は、形式上の「成功」をもって終了した。


 誰も笑わず、誰も安心せず、ただ予定された時間が過ぎただけの終結。


 帝都ホテルを包んでいた緊張は、最後まで解けることはなかった。


 だが、その裏で起きた出来事——

 狙撃未遂、そして正体不明の制圧。


 その報告はすぐに、皇帝の耳へ届く。


 帝都ベルスン、皇宮。


 玉座の間に沈黙が落ちる。


 覇権国家の頂点、**日輪院 昴耀**は、報告書を静かに閉じた。


「なるほど」


 ただ一言。


 怒りも驚きもない。


「秩序を乱す意志があるのならば、秩序そのものを拡張すればよい」


 それは結論だった。


 数時間後。


 帝国政府は全世界へ向け、正式声明を発表する。


 ——大日輪帝国は、同盟国を除く全国家に対し宣戦布告する。


 理由は単純。


 敵対の可能性があるならば、すべて敵として処理する。


 外交は終わった。

 戦争が始まる。


 その日、世界は一つの時代を終えた。


 局地戦は消え、小競り合いは意味を失い、歴史はただ一つの言葉に収束する。


 世界大戦。


 帝都ホテル外周警備に配置されていた三人は、その宣言が放送される瞬間を最も近い場所で聞いた。


 戦争を起こした“原因”のすぐ傍にいた者として。


 ターニャは沈黙し、イザ・マクシムはただ空を見上げ、ハズキ=ヤナガワは言葉を失っていた。


 歴史が動く音を、確かに聞いたからだ。


 数日後。


 帝国軍本部。


 巨大な戦争の開始に伴い、異例の人事が発表される。


 推薦者は、“山吹小次郎”。


 彼の特権的裁量による、前例のない編成だった。


■ 第158戦闘大隊


大隊長:ターニャ


副官:イザ・マクシム


作戦立案本部長:ハズキ=ヤナガワ(特例任命)


 訓練生上がりの三名による指揮系統。


 常識ではあり得ない人事。


 だが、帝国において合理性とは成果のみで測られる。


 結果を出せば正義。

 失敗すれば消滅。


 それだけだった。


 就任式は簡素に行われた。


 軍旗掲揚。

 宣誓。

 任命書授与。


 祝福の言葉はない。

 あるのは期待と、消耗の予測だけ。


 新設された第158戦闘大隊は、巨大な戦争機構の歯車として組み込まれた。


 式典終了後。


 イザは与えられた個室へ戻る。


 重い扉を閉め、ようやく一人になる。


 静寂。


 遠くから軍用車両の音が聞こえる。


 世界は動いている。

 戦争は始まっている。


 すべてが、確実に進んでいた。


 その瞬間だった。


 ——止まった。


 音が消える。


 空気が凍りつく。


 窓の外で揺れていた旗も、遠くの車両も、すべてが完全に静止している。


 時間そのものが停止していた。


 イザだけが動ける。


 心臓の鼓動だけが、やけに大きく響く。


「……何だ、これ」


 答える者はいない。


 ただ、世界が沈黙していた。


 戦争が始まった日。


 少女の時間だけが、別の何かへと接続された。

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