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厄災日記  作者: LOOK Circle


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7/8

帝都の影

 帝国首都ベルスン。


 大日輪帝国の中心にして、世界の運命が決定される都市。


 輸送列車が巨大な中央駅へ滑り込んだ瞬間、イザ・マクシムは理解した。


 ——ここは戦場だ。


 整然と並ぶ軍警察、空を巡回する監視飛行艇、重武装の衛兵。

 都市全体が、巨大な要塞のように機能している。


 ターニャが低く呟いた。


「……息が詰まるな」


「当然だ」

 イザは淡々と答える。

「世界で最も狙われる都市の一つだ」


 ハズキ=ヤナガワは、静かに周囲を観察していた。


 その視線は、ただの訓練生のものではない。

 無意識に死角を探し、人の動線を読み、危険を計測している。


 彼自身だけが、それに気づいていなかった。


 会談場所は帝都ホテル。


 外交の象徴として建てられた巨大建築は、その日、完全な軍事施設へと変貌していた。


 皇帝と山吹小次郎大尉は、すでに会談場へ入っている。


 三人の任務は外周警戒。

 護衛と補佐。


 目立たず、しかし確実に危機を察知する役割。


 銃声が鳴らない限り、彼らの仕事は評価されない。


 会談開始から三十分。


 張り詰めた静寂の中、

 突然、イザの耳元の無線が震えた。


『……イザ、聞こえるか』


 ハズキの声だった。

 普段より明らかに低く、緊張している。


「状況を報告しろ」


『帝都中央通り、第三区画。

 皇帝専用車列の護衛車両が停止している』


 一瞬の間。


『……護衛官が倒れている。

 血が出てる。外傷は小さい。

 遠距離からの精密射撃の可能性が高い』


 空気が凍る。


「確定か」


『ほぼ間違いない。

 射線は——』


 雑音。


『……高所。利き腕の精密射手だ』


 次の瞬間、帝国警察司令本部から一斉通信が入る。


『全警備部隊へ通達。

 帝都内に狙撃手侵入の可能性あり』


 無機質な声が続く。


『対象は極めて高度な技能を持つ利き腕のスナイパー。

 単独犯とは限らない。

 警戒態勢を最大まで引き上げよ』


 通信が途切れる。


 風が吹く。


 帝都ホテルの外壁に掲げられた帝国旗が、重く揺れた。


 ターニャが周囲を見渡す。


「……来るな」


「すでに来ている可能性が高い」


 イサは建物の屋上群へ視線を走らせる。


 どこからでも撃てる。

 どこにも姿は見えない。


 だが、確実に“視られている”。


 ハズキが小さく呟いた。


「……誰かが、こっちを測ってる」


 その言葉に、二人の背筋が粟立つ。


 彼の声には確信があった。


 会談場の内部では、世界の代表者たちが言葉を交わしている。


 外では、見えない敵が引き金を待っている。


 帝都は静かだった。


 あまりにも静かすぎた。


 ——嵐の直前のように。

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