帝都の影
帝国首都ベルスン。
大日輪帝国の中心にして、世界の運命が決定される都市。
輸送列車が巨大な中央駅へ滑り込んだ瞬間、イザ・マクシムは理解した。
——ここは戦場だ。
整然と並ぶ軍警察、空を巡回する監視飛行艇、重武装の衛兵。
都市全体が、巨大な要塞のように機能している。
ターニャが低く呟いた。
「……息が詰まるな」
「当然だ」
イザは淡々と答える。
「世界で最も狙われる都市の一つだ」
ハズキ=ヤナガワは、静かに周囲を観察していた。
その視線は、ただの訓練生のものではない。
無意識に死角を探し、人の動線を読み、危険を計測している。
彼自身だけが、それに気づいていなかった。
会談場所は帝都ホテル。
外交の象徴として建てられた巨大建築は、その日、完全な軍事施設へと変貌していた。
皇帝と山吹小次郎大尉は、すでに会談場へ入っている。
三人の任務は外周警戒。
護衛と補佐。
目立たず、しかし確実に危機を察知する役割。
銃声が鳴らない限り、彼らの仕事は評価されない。
会談開始から三十分。
張り詰めた静寂の中、
突然、イザの耳元の無線が震えた。
『……イザ、聞こえるか』
ハズキの声だった。
普段より明らかに低く、緊張している。
「状況を報告しろ」
『帝都中央通り、第三区画。
皇帝専用車列の護衛車両が停止している』
一瞬の間。
『……護衛官が倒れている。
血が出てる。外傷は小さい。
遠距離からの精密射撃の可能性が高い』
空気が凍る。
「確定か」
『ほぼ間違いない。
射線は——』
雑音。
『……高所。利き腕の精密射手だ』
次の瞬間、帝国警察司令本部から一斉通信が入る。
『全警備部隊へ通達。
帝都内に狙撃手侵入の可能性あり』
無機質な声が続く。
『対象は極めて高度な技能を持つ利き腕のスナイパー。
単独犯とは限らない。
警戒態勢を最大まで引き上げよ』
通信が途切れる。
風が吹く。
帝都ホテルの外壁に掲げられた帝国旗が、重く揺れた。
ターニャが周囲を見渡す。
「……来るな」
「すでに来ている可能性が高い」
イサは建物の屋上群へ視線を走らせる。
どこからでも撃てる。
どこにも姿は見えない。
だが、確実に“視られている”。
ハズキが小さく呟いた。
「……誰かが、こっちを測ってる」
その言葉に、二人の背筋が粟立つ。
彼の声には確信があった。
会談場の内部では、世界の代表者たちが言葉を交わしている。
外では、見えない敵が引き金を待っている。
帝都は静かだった。
あまりにも静かすぎた。
——嵐の直前のように。




