輸送列車での出来事
帝国軍首都方面行き輸送列車は、無駄な装飾も感傷も排した鉄の箱だった。
窓の外を流れる荒野と監視塔。
そのすべてが、「ここから先は戦場である」と無言で告げている。
イザ・マクシムは、座席に背を預けながら、
自分が“首都行き”の列車に乗っているという事実を
まだ現実として処理しきれていなかった。
ターニャは肘を組み、前を向いたまま言う。
「……静かすぎて、逆に落ち着かないな」
「同感だ」
イサは小さく頷く。
「訓練所のほうが、よほど騒がしかった」
その向かいで、ハズキ=ヤナガワは少し姿勢を正し、遠慮がちに口を開いた。
「えっと……こういう時って、自己紹介とか、したほうがいいのかな」
一瞬の沈黙。
ターニャが視線だけを向ける。
「今さら?」
「今さらだな」
二人に同時に言われ、ヤナガワは肩をすくめた。
「でも、同じ列車に乗ってるってことは、これからも一緒に動く可能性が高いってことだろ。
だったら、知っておいたほうが……」
イザは少し考え、やがて短く息を吐いた。
「……合理的だな」
それが、この場では“肯定”を意味していた。
「イザ・マクシム」
彼女は名乗る。
「階級は訓練生。戦闘兵適性あり。好きなものは……」
一瞬、言葉に詰まる。
「……静かな場所だ」
ターニャは鼻で笑った。
「戦争向きじゃないな」
「承知している」
次にターニャが続く。
「ターニャ。
同じく訓練生。金翼突破賞を一度だけ。好きなものは勝利。嫌いなものは慢心」
迷いのない声だった。
最後にヤナガワが続く。
「ハズキ=ヤナガワ。
一般訓練生。階級は……まあ、雑用係みたいなものかな」
そう言って苦笑する。
「好きなことは、観察。人の動きとか、癖とかを見るのが好きだ」
その言葉に、イザとターニャは一瞬だけ目を細めた。
だが、何も言わない。
空気が少しだけ柔らいだ、その瞬間だった。
「——貴様ら」
低く、鋭い声。
三人の背筋が、同時に凍りつく。
通路に立っていたのは、山吹小次郎大尉。
腕を組み、感情の読めない目で三人を見下ろしている。
「輸送列車内で私語。しかも内容は雑談と来た」
一歩、近づく。
「貴様らは観光客か?」
「い、いえ——」
「言い訳は聞かん」
山吹は淡々と言い放つ。
「首都行きは、戦場に入る前の“猶予”ではない。
すでに任務の一部だ」
沈黙。
「覚えておけ」
山吹の声は低く、重い。
「命を守るのは、銃でも魔力でもない。規律だ」
そう言い残し、彼は通路を去っていった。
列車の振動音だけが残る。
ターニャが小さく息を吐く。
「……怒られたな」
「生きてる証拠だ」
イザはそう答え、
窓の外に視線を戻した。
首都は近い。
そして、本当の戦争は、これから始まる。




