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厄災日記  作者: LOOK Circle


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6/8

輸送列車での出来事

挿絵(By みてみん)

 帝国軍首都方面行き輸送列車は、無駄な装飾も感傷も排した鉄の箱だった。


 窓の外を流れる荒野と監視塔。

 そのすべてが、「ここから先は戦場である」と無言で告げている。


 イザ・マクシムは、座席に背を預けながら、

 自分が“首都行き”の列車に乗っているという事実を

 まだ現実として処理しきれていなかった。


 ターニャは肘を組み、前を向いたまま言う。


「……静かすぎて、逆に落ち着かないな」


「同感だ」


 イサは小さく頷く。


「訓練所のほうが、よほど騒がしかった」


 その向かいで、ハズキ=ヤナガワは少し姿勢を正し、遠慮がちに口を開いた。


「えっと……こういう時って、自己紹介とか、したほうがいいのかな」


 一瞬の沈黙。

 ターニャが視線だけを向ける。


「今さら?」


「今さらだな」


 二人に同時に言われ、ヤナガワは肩をすくめた。


「でも、同じ列車に乗ってるってことは、これからも一緒に動く可能性が高いってことだろ。

 だったら、知っておいたほうが……」


 イザは少し考え、やがて短く息を吐いた。


「……合理的だな」


 それが、この場では“肯定”を意味していた。


「イザ・マクシム」


 彼女は名乗る。


「階級は訓練生。戦闘兵適性あり。好きなものは……」


 一瞬、言葉に詰まる。


「……静かな場所だ」


 ターニャは鼻で笑った。


「戦争向きじゃないな」


「承知している」


 次にターニャが続く。


「ターニャ。

 同じく訓練生。金翼突破賞を一度だけ。好きなものは勝利。嫌いなものは慢心」


 迷いのない声だった。


 最後にヤナガワが続く。


「ハズキ=ヤナガワ。

 一般訓練生。階級は……まあ、雑用係みたいなものかな」


 そう言って苦笑する。


「好きなことは、観察。人の動きとか、癖とかを見るのが好きだ」


 その言葉に、イザとターニャは一瞬だけ目を細めた。


 だが、何も言わない。


 空気が少しだけ柔らいだ、その瞬間だった。


「——貴様ら」


 低く、鋭い声。


 三人の背筋が、同時に凍りつく。


 通路に立っていたのは、山吹小次郎大尉。


 腕を組み、感情の読めない目で三人を見下ろしている。


「輸送列車内で私語。しかも内容は雑談と来た」


 一歩、近づく。


「貴様らは観光客か?」


「い、いえ——」


「言い訳は聞かん」


 山吹は淡々と言い放つ。


「首都行きは、戦場に入る前の“猶予”ではない。

 すでに任務の一部だ」


 沈黙。


「覚えておけ」

 山吹の声は低く、重い。


「命を守るのは、銃でも魔力でもない。規律だ」


 そう言い残し、彼は通路を去っていった。


 列車の振動音だけが残る。


 ターニャが小さく息を吐く。


「……怒られたな」


「生きてる証拠だ」


 イザはそう答え、

 窓の外に視線を戻した。


 首都は近い。

 そして、本当の戦争は、これから始まる。

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