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厄災日記  作者: LOOK Circle


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3/8

地獄の底での出会い

挿絵(By みてみん)

 戦闘兵訓練は、訓練という名を借りた選別だった。


 走れ。

 殴れ。

 倒れたら起きろ。

 起きられなければ、そこで終わり。


 魔力を纏わせた身体は確かに強い。

 だが、制御できなければ自分の肉体が先に壊れる。


「遅い!」


 山吹小次郎大尉の怒声が、何度も鼓膜を打つ。


「その程度で戦場に立つ気か、マクシム!」


「……ッ!」


 イザは歯を食いしばり、脚に魔力を流した。

 筋肉が悲鳴を上げる。視界が揺れる。


 それでも、倒れなかった。


 ——倒れるわけにはいかなかった。


(ここで終わったら、私は“戻れない”)


 訓練生は減っていった。

 脱落、負傷、失踪。

 理由は誰も説明しない。


 生き残っている者だけが、次に進む。


 そんな中、イザは一人の少女と出会った。


「……あんたが噂の、規格外?」


 軽い口調。

 だが、目だけは鋭い。


 短くまとめた金髪。

 細身の身体に、無駄のない動き。


「ターニャ」


 彼女は親指で自分を指した。


「金翼突破賞、受賞者。

 初実戦で敵陣突破して、生還」


 周囲の訓練生がざわつく。

 それは、誰もが知る勲章だった。


「へえ……」


 ターニャはイザを一瞥し、鼻で笑った。


「見た目だけは大したことなさそうね。

 才能だけで生き残ってるタイプ?」


 見下し。

 だが、悪意というより——試す目だった。


「……努力もしてます」


「あっそ。じゃあ、せいぜい潰れないように」


 それが、最初の会話だった。


 数週間後。


 訓練は、実戦形式へと移行した。

 小規模な敵勢力の掃討任務。

 名ばかりの“初実戦”。


 だが、弾も血も、本物だった。


「前へ出すぎ!」


 ターニャの声が飛ぶ。


「分かってる!」


 イザは魔力を脚に集中させ、一気に距離を詰めた。

 敵の懐。

 拳に魔力を乗せ、装甲ごと叩き潰す。


 ——一撃。


 ターニャは、その背中を見ていた。


(……動き、無駄がない)


 連携が噛み合い始める。

 声を出さずとも、互いの位置が分かる。


「右、来る!」


「処理する!」


 短いやり取り。

 それで十分だった。


 任務は成功。

 全員、生還。


 帰還後、ターニャはイザに近づいた。


「……悪かった」


「え?」


「見下してた。

 あんた、ちゃんと戦場に立てる」


 それは、彼女なりの最大級の評価だった。


「ありがとう」


 イザは、少しだけ笑った。


 それから二人は、よく組まれるようになった。


 訓練でも、演習でも。

 時にはぶつかり、時には助け合いながら。


 そして、ある日。


「来年の四月から、部屋替えだって」


 ターニャが何気なく言った。


「……同室、らしいわよ。私たち」


 一瞬、沈黙。


「よろしく、イザ」


「……こちらこそ」


 地獄のような訓練所で、初めて“帰る場所”ができた気がした。


 イザ・マクシムはまだ知らない。

 この出会いが、やがて戦場で互いの命を預け合う関係になることを。


 だが今は、それでよかった。


 ——少女兵たちは、同じ部屋で生きる未来へと歩き出した。

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