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星空の少女は兄の影を追いかける  作者: 白雪
第1幕

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3 模擬戦


 今日の授業は投影石の加工で終わる。

 支給されたのはノーマルな武具で、いかにも加工して味をつけてくださいと、言わんばかりだ。


 別に武器が欲しいわけじゃないし、作るのならかわいいものがいい。

 錬金術の要領で想像力を働かせるとぼんと爆発し、完成品が登場する。


 丸い玉が連なったものだ。

 鳥の羽の模様も刻めればよかったのだけど、さすがに細かすぎて難しかった。


 身につけてみる。

 ……なんとも言えない。

 そもそも見えていないのだから、出来は分からない。


 眉を曇らせたウイユを、じっと見つめる教師。

 信じられないものを見る目をしつつ、素通り。

 問題はなかったようだ。


 なお、周りは剣に埋め込んだりしている。アルフは杖にだ。

 魔力を研ぎ澄ますと石が尖り、杖なのに矛のようになった。

 殺意が高そうな見た目で、それっぽい。


 だって彼、少し怖いし。

 白々と視線を流しつつ、ウイユは作業を続けた。




 次の日は実戦で、シンプルな戦闘着に着替えた。


 体育館のバトルフィールドに散らばり、生徒は各々の能力で戦う。

 戦い向きではないと判断された者は、対戦が終わった者を回収したりと、補助に徹する。


 なお、ウイユはなぜか実戦組に回された。

 わざわざブレスレットに加工したというのに。解せぬ。

 顔をしかめても、教師は無視だった。


 待機する間に模擬が進み各人の能力を見せつけ合う。

 戦いといっても特殊な術式の下、受けたダメージをポイントとして変換するもので、実際は無傷だ。

 戦闘不能になっても、ぷつっと魔道具の明かりを消すように、意識が落ちるだけである。


 それはそれとしてバトルの風景は派手なので、脇の席で見ている側のウイユは、気が気ではない。

 汗をかいている間に、バトルフィールドにはまた新たな生徒が登場する。


 一際目を引く、光の王子だった。


 反対側には薄汚い風貌の男子がおり、中腰の態勢で喧嘩を売る。


「へっ、こんな温室育ちのお坊ちゃん、俺なら余裕だ。さあ、人生の厳しさってのを教えてやるぜ!」


 喜々として挑みかかる。


 直立したままのハイラム。

 真顔の彼に殴り掛かる敵。


 爆発したような衝撃が生じ、風圧が押し寄せる。


 王子はびくともせず、平然と立っていた。

 さすがに驚き目を剥く相手。


 様子見は終わった。

 ハイラムは無言のまま、術式を起動する。


 握りしめた剣が白く聖なる輝きに染まる。

 会場すら光に包まれた。

 まばゆい光景の中心で揺らぐ影。


 光は収まり、静けさが戻った。

 荒れたフィールドにぽつんと残った男子。

 倒れ伏している。

 瞬殺(殺してないけど)。

 まるで容赦がない。


 涼しい顔で毛先をはらった王子を見て、あっけにとられるウイユ。

 二階から見る女子生徒は頬を高くしながら、顔を見合わせる。


「あれが噂の光属性」

「本物よね。じゃあやっぱり勇者になるのは彼なのかしら」

「ああ、魔王が現れてくれないかしら」


 目を輝かせ、うっとりと頬を赤らめる。

 なにやら不穏な言葉を聞き流した。



 反対側のレーンでもざわざわとしている。


「なにが光属性だ。俺だって」

「あんたのはただの雷だ。スピネル野郎」

「雷も光も同じだろうが!」


 近くの生徒に怒鳴り込む不良男子ロジェ。


「だいたいよぉ、その煽りはあいつがコランダム以外だと成立しねぇんだよ。あの野郎、どうせムーンストーンあたりだろ――ダイヤモンドじゃねぇか! ふざけんなよボケが!」


 怖いから放っておこう。ウイユは目をそらす。


「貴殿は所詮、落第者。ジュエル学園への入学もコネを用いただけだろう」


 インテリ風の男はクイッと眼鏡を上げて言う。


「じゃあ、石が反応してる理由応えられっか? 解答欄埋められなけりゃァ、採点なしだからなこの野郎!」


 罵るロジェのそばを、グレーのスーツを着た教師が通り抜ける。


「お静かに。これ以上授業を乱すようなら、ジュエル学園に所属する資格はありません」


 教師の鋭い眼差しにしゅんと肩をすぼめ、ロジェは視線を落とした。



 奥が静かになったところで、中央は逆に騒がしい。

 どちらかというとポップなうるささで、荒々しい空気はかき消された。


「よっ! ジュエル学園のマドンナだ」

「お前らお待ちかねだぞ」


 次の相手はエレナだ。

 かわいらしい顔をした少女が現れた途端に、男子たちが目の色を変える。

 ナチュラルにメイクをほどこした彼女は、中央までやってくるなり、華麗にターンしてみせた。


「みんな、ばっちり魅せつけてあげるから、目を離さないでね」


 キラリと輝く笑顔。

 円形の武具チャクラムを両手にポーズを取る姿は、さしずめ舞台の演者。

 自分という存在がなんなのか分かっている。


 彼女に対戦相手は不要と判断したのか、ソロだ。


 魔道具の照明が落ち、スポットライトに照らされた少女が、ひらりひらりと舞い踊る。

 なんの変哲のないシンプルな格好のはずなのに、踊り子の衣装をまとったようだった。

 ほのかに香るジャスミン。

 チリンチリン。

 装飾品についた鈴の可憐な音。なぜか聞こえてくる情熱的な音色。


 彼女が身にまとったのはカーネリアン色のオーラだ。

 投影石が輝きを放つ度に加速、勢いを増す。


 踊りから目を離せない。暫時は呼吸すら忘れていた。


 やがて薄暗がりに静寂が降り、動きが停まった。


 演目の終了。

 今の一瞬でエレナとはどんな人物なのか、分かってしまった。


 バッファー。その能力以上のものを見た気になった。

 とにかく圧倒されて、言葉も出ない。


「はい、次の人」


 教師の無機質な声で我に返る。フィールドはすでに無人だ。



 周りの生徒がチラチラと視線を送ってくる。

 ああ、次は自分か。

 弾けるように顔を上げ、姿勢を正す。

 腰を上げて、おずおずと前に出た。


 続いて人混みの奥から別の男子生徒も現れる。

 彼はだるそうに頭をかきながら、目を細めた。


 ウイユはぎょっと顔を歪める。


 褐色の肌、尖った髪型、体操着を腰パンでだらっと下げている。


 脳裏をよぎったのは入学初日、王子に絡みにいった不良の姿。

 高貴な身分だろうと食って掛かるような者が自分の相手だなんて……運が悪くて泣けてくる。


 奥歯をかみながら反対側を睨むと、人相の悪い男子ロジェは首をポキポキと鳴らした。

 彼が構える。

 武器は乾いた血のような赤色に染まった長槍で、埋め込まれているのは青い原石?


「んだよ?」


 三白眼が睥睨へいげいする。

 かなり特徴的な虹彩だ。

 縦に長い瞳孔に、外側がインディゴと内側の赤茶。

 色の対比の影響で真っ赤に見えて、おののく。


「いえ別に」


 慌てて目をそらす。

 スピネルなのは先のやり取りで透けていたけど、まさか加工がされていないなんて、意外だ。

 容姿も人外じみているし、ロジェとかいう生徒、ちょっとやばくない?


 なにがやばいのかは分からないが、危機感を感じる。

 急いで両手を前に出し、青水晶の板を展開。


「こざかしい真似しやがって。男なら正面からだろうが!」

「あたし男じゃない」

「女が下ネタ言うんじゃねェ!」

「あなた、なに想像して!?」


 言ってるそばから駆けてくる。

 ガラスに気付かない鳥のような勢い。そのまま弾けてしまえ。


 心の中で唱えた矢先、穂が鋭く輝く。

 振り下ろす。

 一撃。強引に上から突破。


 砕けた。


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