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星空の少女は兄の影を追いかける  作者: 白雪
第2幕 B

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3 魔術大会前

 後日。


 空き地で目を閉じ、念じる。

 新たに手に入れた力を使ってみる。


 これは強くなるための修行だ。

 彼と一緒にいても恥ずかしくない自分になりたい。


 何度も何度も技を行使しようとしては、不発する魔力。


 首をひねり、突っ立つそばを、ひゅーと風が吹いていった。


「よう、やってるじゃないか」


 軽く声が掛かる。


 横髪を揺らしながら振り返ると、黒と暗赤色のグラデーションヘアが真っ先に目に入った。

 トレンチコートにジーンズを合わせた少年が、悠然とこちらまで赴く。


「こういうのは俺の本領だぜ」


 彼は胸を張り、口角を上げた。


 言葉通り、アルフはウイユに適切なアドバイスを送る。


 第一に、精神の力に意識を集中。

 無限の可能性を信じ、理想を現実に植え付ける雰囲気で。


 できると信じてやってみると、本当にうまくできた。


 淡い色がオーラのように体を縁取り、ふわりと踵が地を離れた。


 浮いている、飛べている。


 ウイユの目がきらめき、口角が上がる。

 そして、スタッと足をつけ、振り返った。


「ありがとう。あなたのおかげ」


 じっと見つめ、頬を高くする。

 アルフも照れくさそうに笑った。



 背後では日が傾き、暖色が空を彩り始めた。

 今のいい雰囲気なら、切り出せるかもしれない。

 ウイユはそっと彼につま先を向けた。


「ねえ、街を二人で巡らない?」

「別にいいぜ」


 ダメ元で言って見たら、快諾。

 予想外の反応に、目を丸くする。


「なんだよ、冗談か?」

「違うわ、ありがとう」


 ほっこりと口元をゆるめる。心に花が咲くのが分かった。



 休日の朝、広場で待ち合わせをする。

 どうせ遅れて来ると分かっていたので、余裕を持って移動。時間通りにたどり着く。

 きっちり準備をしてきたので、おしゃれはバッチリだ。


 広場に止まる鳥を眺め、髪型を整えながらそわそわと待っていると、彼がのんびりと登場する。

 ボヘミアン柄のコートを身につけた姿だった。


 目を合わせる。

 なんともいえないムードの中、共に歩き出した。



 二人で街に出る。


 カフェに行ったり巡ったりしている内に、ゆったりとした時間が流れた。


 彼は平然と振る舞い、こちらも深く追求できない。

 何事もなく、日が暮れてゆく。


 終わり際、アルフは手を差し出した。

 グローブをはめた平には、イヤリングが乗っていた。


 金具を受け取り、空気に晒す。

 ラピスラズリのアクセサリー。


「昔拾ったやつだ」


 自分のために加工してくれたもの。

 途端に甘酸っぱい感情が胸に広がり、ウキウキと身につけてみた。

 あれほどがっかりした石が、今では特別なものに思える。

 だけど、ふとひんやりとした風が吹き、心が静まる。


「どういう風の吹き回しよ? さんざん拒絶しておいて」

「気が変わったからさ」


 あっさりと答える。

 拒絶していたことは否定しないんだ……。


 彼は隠し事をしている。

 いい機会だから聞いてみることにした。全て吐かせるつもりで。


「なにがあったのか?」

「別になにも」


 目をそらす。


「俺はほかのやつらとは違うってだけさ。ちなみにこれ、奢りだから」


 ペラペラと語り捨てる。

 実質、他のものとは相容れないと、言っているようなものだ。


 勝手に推測して心がきしむ。


 ウイユが眉を曇らせている間に、アルフは背を向ける。


 見送ることしかできない。

 立ちすくむ少女。


 今、彼との間に壁を感じた。

 まるでこれが最後の別れかのように。


 イヤリングはその餞別せんべつ

 急に胸が苦しくなる。

 泣きたくなった。


 ***


「さあいよいよ魔術大会。各々が力を出し切れば、卒業までの足がかりとなるでしょう」


 教室の壇に上がった教師は、淡々と話す。

 生徒の背中を押す立場でありながら、本人は特に興味がなさそうな目をしていた。


 とにもかくにもトーナメントは、祭りだ。

 入賞を目指してピリピリとしたムードが立ちこめている。


「私はハイラム様に賭けるわ」

「えー、本命はアルフ・ミュルクヴィズでしょー」

「あんた非国民?」


 早くも賭けの様相を呈し、浮ついた雰囲気が漂う。

 彼女たちは観戦する気満々だ。


 ウイユも内心は、ワクワクしている。

 イベントは好きだし、秘島を攻略した実績があるので、力を示したい。

 自分がどこまでやれるのか試すのだ。


 確かな自信の下、ぐっと指先を丸めたところで、天井を見上げる。


 頭に浮かんだのは黒髪にダークグレイの毛先をした少年。

 アルフは優勝候補筆頭だ。

 彼なりに準備を進めているらしい。広場では武器を新調していたのを見た。


 対策、なのだろうか。

 期待されているから、応えようとしていると踏んだ。


 別にそんなに力を入れなくてもいいし、余裕だと思う。

 なにせ、彼より強い人は見たことがない。

 皆、蹴落とそうとしている。

 前評判通りに無双されてもつまらないと。


 だからこそ、ウイユはひそかにまだ見ぬジャイアントキリングを求めていた。



 授業を終わらせ、外に出る。


 なんだかんだ本番は楽しみだ。

 誰が勝つか賭けをするのも悪くはない。

 優勝候補は二人だけど。


 その流れでふと、思い出す。


 最近、ハイラムと会っていない。


 彼はどこでなにをしているのだろうか。

 ぐるぐると考えながら、帰路につく。



 ***



 放課後。


 どんよりと濁った水が流れる対岸、玉砂利の転がる河原に、影が伸びる。


 シワ一つないドレスシャツに袖を通した、ハイラム。

 手には訓練用の剣を握りしめている。

 アルダーの木を掘り出したもので、ナチュラルな形ながらに、神秘的なオーラを放っていた。


 制服を汚さないためにと私服に着替えてきたわけだが、こちらのほうがより高級な見た目だ。

 そんな価値の高そうな衣服を汚すのもいとわず、汗をかく王子。


 剣術で空を薙ぎ、光を放つ。

 聖なる輝き。


 研ぎ澄まされた力だけど、まだ足りない。


 眉をしかめ、首をひねる。



 頭をよぎったのは例の少年。

 グラデーションヘアの魔術師は優秀で、自分よりもよっぽど才能がある。

 差をどんどん開けられていることは、認めざるを得ない。


 この調子で王になれるのか、ルイン王国を引っ張っていけるのか。


 不安が心に巣食う。

 首を曲げ、歯を食いしばる。


 もっと強くならなければと、木の柄をぎゅっと握り込んだ。


 全力を振り絞っては、はーはーと息をし、うなだれる。

 一気に疲れた気分になり、汗をかきながら顔をしかめた。


 なんとか目線を上げたところ、背後に荒々しい気配が立つ。

 鋭く伸びた気配に目を見開き、振り向く。


 身構えるハイラムの前に、ズラッと並ぶ影。

 腰パンに学ランの群れ。特攻服のような出で立ちだった。


 ハイラムは警戒を露わに、眉と目の間を狭めた表情になる。


「これが継承者とはな。こんな奴、俺たちにかかりゃあイチコロだぜ」


 余裕のある態度えニヤニヤと笑う者たちがいた。

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