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星空の少女は兄の影を追いかける  作者: 白雪
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1 空っぽの少年

 門番として立ち続けたヒロ・アリィテア。


 大理石の肌にさらさらとした短髪が掛かる。

 銀の鎧を身につけ、兜をかぶっている。


 影からぬっと現れ、物思いに耽った顔で、空を見上げる。

 あたりは暗い闇に包まれている。


 手首や指の上で光輝く宝石。

 魔が祓い浄められたのを確認し、息を吐く。


「彼女はようやく救われたか。私の役目も終わりかな?」


 穏やかな顔で口元をゆるめ、肩をすくめる。

 衣擦れが起き鎧が動いたが、音はしない。


 やるべきことはまだある。

 できることはないけれど。


 今はただ、かの男を思う。


 最初に出会ったのは、暗い月夜だった。


 人殺し集団に村を皆殺しにされ、とらえられた少年。


 唐突に外部で動く残像。

 プラチナの軌跡が閃く。

 鋭い刃でで薙ぎ払っていった、辻斬り。


 ぽかんと座り込む少年は、救世主を見上げる。


 静かな夜は青年にマッチしていた。


 服すら無彩色に溶ける中、白い肌だけが月光のように浮き上がって見える。

 かろうじて映るシルエット。獅子や白虎を連想する体躯だった。


 目が合う。

 鋭いはずなのに、妙に落ち着いた雰囲気なのは、青年の放つオーラが穏やかだからだ。


「君、来るかい?」


 無言で見上げ、視線がかち合う。

 彼らは歩み寄り、少年もまたゆっくりと頷いた。



 早くに両親を失い、悪そうな人たちに捕まり、暗殺者の卵として生かされていた少年。


「僕は、ライといいます」

「私はヒロ。ヒロ・アリィテアだ」


 謎の青年に拾われ、浜辺の村で暮らす。

 ライはヒロを追いかけ、ずっとついて回った。


 ある日の夜、祭りが執り行われる。


 神の子として祀り上げられたヒロ。彼は真の勇者だった。


 魔物の掃討なんのその。

 この世に希望をもたらすと皆は信じ、崇めた。


 彼を祝福する舞を踊る姫。太陽の乙女。

 二人並ぶと兄妹のようだった。


 まるで届かない。

 ライは焦がれるように彼らを見上げた。



 平日。漁師は海へ出る。


 少年はわらで作った日陰で、ぐうたらしていた。


 一人の娘が遊びに来る。

 ステージで見た彼女は、多色を用いたおしゃれなファッションに身を包んでいた。


 鮮やかな赤い髪に、バックカチューシャのような編み込みが、正面からも目を引く。

 へそ出しの白シャツに、ショートパンツ。

 露出した肌がまぶしくも、健康的な印象を受けた。


「なにが困ったことがあったら、言ってくださいね」


 使用人の女も近寄る。

 大人びた印象の彼女は、にこやかに礼をした。


「歓迎会は続いているわ。さあ、どうぞ、ライ」


 マハナは村の中心へ導いた。


 祭りの設備が残る場所。

 簡素なキャンプ場の中。


 品のある女が食糧を運んできた。

 まずはかごいっぱいの果実。瑞々しい。


「さあ、どうぞいっぱい食べて」


 キラキラとした笑顔。


 釣られて、手掴み。頬張る。甘酸っぱい果汁が口いっぱいに、広がった。

 エネルギーが満ちる感覚。

 夢中でかじった。



 あっさり村の一員となり、日が経つ。

 あるとき、ヒロがライを外へ連れ出した。


 陽光の下で赤銅色に照らされた短髪。前髪はスッキリと上げている。

 シャツにベスト、短パン。シンプルなのに洗練された印象だ。

 十本指についた彫りを施したリングたちも、嫌味に見えなかった。


「こういう話は聞いたことがあるかい? この世の起源を神に委ねた。森羅万象の根源に神が存在する。神話に語られるいわく、天と地の勢力が結びつき、結婚した結果、島が生まれたとね。でも、本当にそうなのか? まだ答えは見つかっていない。いつかこの世の全てを暴いて見せる。そして、自分はなんのために生きるのか、その証明をする。そうでなければ存在する意味がないからね」


 ヒロは熱く、早口で語る。


「そのためにダンジョンを巡るんだよ」


 夢を語る目がきらめく。

 じっと見つめる少年。

 無表情。空っぽの箱のような目をしていた。


「どうだい? なかなかロマンのある目的だと思うだろ? 君ならどうしたい?」


 視線をよこし、誘う。


 ライはこくりと頷いた。



 外に出る。探索が続く。

 危地にまで平気で赴いた。


 無事に帰ってこられるのは使用人による、手作りの装備のおかげ。彼女の作った武器も上質だった。


 行程がスリリングであればあるほどヒロは熱くなり、より楽しそうになる。

 刺激を求めている風でもあり、むちゃくちゃな戦い方を続ける。

 捨て身戦法。肉を斬らせて骨を断つ。


 そしてそんな彼についていく少年が最もイカれていると、誰かが評した。



 ダンジョンを突破した先。

 崖に出る。


 海の果てになにがあるんだろう。

 彼はこの世の全てを知りたかった。


「この秘島を踏破したら、次は大陸。航海は私に任せてくれ。君をきちんと導いて見せるからさ」


 明るく、自信にあふれた態度。

 彼をじっと目を追いかけるライ。


「もちろん、信じます。あなたとならどんな大波だって越えられる気がするから」


 くしゅっと笑った。


 その流れでラロヘンガの話を聞く。


「岬から身を投げれば、冥府に行けるらしいが」


 ヒロの話をまじまじと聞いているライ。


「おい、これはあくまで伝説だ。くれぐれも」


 言いかけたときにはすでに遅く、横で飛び出す影。 

 ヒロは慌てて手を伸ばし、追いかける。


 両親に会いたい一心の、切実な思い。


 岬に駆けた少年は、崖まで飛ぶ。

 なんのためらいもなく、身を投げた。


 下で飛沫が上がる。



 暗転。






 辿り着いたのは、闇の世界だった。

 地表には淡く光る花が、一輪草のように咲くだけ。


 両親の魂はない。

 おどろおどろしい魂の奔流がとどろいている。


 視界は深緋色に閉ざされ、地へと引きずり込まれるようだった。


 悪夢を見たように発狂しかけたとき。

 視界が渦を巻き、意識が現実に引き戻された。


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