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星空の少女は兄の影を追いかける  作者: 白雪
第2幕A

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19 滝壺の龍

 南国らしいユニークな見た目の花と鳥に目移りしつつ、先へ進む。


 開けた場所にやってきたので休憩だ。

 焚き火を燃やし、シチューを食べながら話をする。


「ウイユの目的は、お兄さんが隠した秘宝を見つけることよね?」

「うん。誰も見つかっていないということは、ただのダンジョンにはなさそうだけど」


 もっと別の場所――境界を超えた先にあるのだろう。


「異界の残骸の果てか」

「だったら境界を超えなきゃな。何回ボスとやりあえるんだろう」


 アルフはなぜかウキウキしている。

 こちらはまた神経が張り詰めて、顔が固くなった。

 汁物を前にゴクリとツバを飲む。

 汗が頬を伝った。


「怖いなら、リタイアしてもいいんだぜ」

「ううん、引かない」


 もう行くと決めたから。なにより、いざ、奥まで入り込むと他人事ではいられない。


「私もナティア島の伝説を知りたいの」


 たとえば、伝承。


「島には悪者がいてそれを倒した英雄がいたって、言ったでしょ」


 無垢な態度で口走ったウイユは、アラフがピクリと眉を動かしたのには、気付かない。


 エウリック・ボーデンは英雄だ。

 護国の戦士であり、国を勝利に導いた存在でもある。


「もしかしたらお兄ちゃんかもしれない」


 ――きっとそうだ。

 確信を抱くとテンションが上がり、未来への展望が開けた気になる。

 目を輝かせるウイユに対し、ハイラムは冷めていた。


「あり得ない。そうであればなぜ今、魔がはびこっている?」


 正論で切り捨てる。


「それは……」


 ウイユは言い返せなかった。

 代わりにエレナが口を挟む。


「そもそもハイラムはどうして秘島に来たのかしら。こんな遊びに付き合うイメージもなかったのだけど」


 彼はすぐに答えた。


「王家に無関係ではないからだ。あなたの兄と同じように」


 牽制するようにエウリックのことを出されて、ドキッとした。

 確かに、関係あるけど。

 口ごもったウイユの横で、アルフ皮肉げに口の端をつり上げた。


「よく言う。あんたには関係ないだろ」


 あざ笑った態度。

 彼のほうを見るハイラム。


「なぜ、そう思った?」


 目と目が合う。

 緊張感が張り詰めて、火花を散らしそうな勢いだった。


「ちょっと、こんな楽しい時間なのにやめてよ」


 エレナが割って入ると、二人は顔を背けあった。


 いったいなんなんだ。地雷を踏んだのか。


 分からないので切り出せず、気まずい沈黙が間を隔てた。


 頭上の月は雲で隠れ、焚き火の色だけがぼんやりと、あたりを照らす。

 夜はふけっていった。



 また夢を見る。


 キラキラとした海辺で、パレオをまとった少女が、舞いを踊る。


 整ったショートヘアに、眉の上で切り揃えた前髪。

 くるりと回るとバックカチューシャの編み込みが見えた。


 羽衣を着た出で立ちは、天女のように美しい。


 彼女はたくさんの塩顔の男子に囲まれ、人気を集めていた。

 彼らのとろりとした目。頬を赤らめる姿も。

 一部は陰からこっそり様子を見る者もいる。


 少女の容姿は同性をも魅了した。


 不意に景色に影が差す。


「あなたは、どなた?」


 低くひんやりとした声。

 黄昏を宿した赤い虹彩。


 見られている。


 暗く霞んだ景色の向こうに、黒を纏った少女。

 血のように赤い髪が、幕のようになびく。


 今にも雨が滴ってきそうだった。





 情景が暗黒に落ちると同時に、意識がクリアに研ぎ澄まされる。


 朝と共に目覚めた。

 清々しい空気が肌に触れ、少しひんやりする。


 小鳥の鳴き声を耳に入れつつ、身支度を整えた。


 出発する。その前に計画の再確認する。


「第一目標は最奥にある宝を得ることだ。俺たちを待ち受けるのは、いくつかの関門」


 さっきボスと出逢ったように、ダンジョンは魔物たちの縄張り。

 彼らを退けなければどうにもならない。


「最初の関門は突破した。残りは二つ」


 第ニ関門。


 魔の気配も近づいてくる。まるで誘われているみたいだ。

 眉間にシワを寄せ、瞬き。

 闇色の脳裏に、夢で見た少女が浮かぶ。


 ぱっちりとした目の、シンメトリーな顔立ち。

 頑なな意思を持ち、一度も振り向かなかった彼女。

 それでいてなにか怖がっているし、救いを求めている。

 悪い人ではないのなら、戦いを避けられないだろうか。



 湿った地面をとらえながら歩いていると、葉擦れの乾いた音が鳴る。

 前から影が伸びた。


 面を上げると同時に、人の姿が視界に飛び込む。


 褐色の肌に薄い顔立ち。

 ガチガチに鉄で武装している。

 隙間から垂れている布はエスニック柄だった。


「先へは通さない」


 足下が透けている。亡霊だろうか。


「先へ進みたいのならマファトゥを呼べ」

「マファトゥ?」


 首をかしげるエレナ。


「境界の龍だ」


 答えはあっさりと返ってきた。


「リュウ」

「ドラゴンのことだぜ」


 ピンと来ていない様子のエレナに、アルフが教える。

 ウイユはなぜか龍という表意文字のニュアンスが、頭に浮かぶかの如く理解できた。

 まるで天に向かって細長い生物がとぐろを巻きながら、昇っていくような。


「つまり、守護者と面談を受けに行けばいいのね」


 なぜか浮き浮きと口走るエレナ。


「だが、かの人はきっとお前たちごときに顔を見せない」


 横向きになり、冷たく言い捨てる。


「どうしてもというのなら、生贄になるのだな」


 皮肉を垂れ、使者は姿を消す。ぼわんと煙に溶けるような消え方だった。

 恐ろしいことを聞いた気がする。ぞくっと身の毛がよだつ感覚に、青ざめた。

 生贄なんて嫌だ。


「行き先は滝壺。龍がいる場所なんだろ?」


 アルフはやる気だ。


「ひょっとして、自らを捧げるつもり? やめてよアルフ」

「なに言ってるんだ。龍に付き合うのも名誉だぞ」

「危険だよ。考え直して」

「いいや、行こう」


 ウイユは止めようとするが、ハイラムは賛成。


「マファトゥは古くからいる存在。聞けば魔の元凶について分かるかもしれない」

「この島でなにが起きたのか、も知る必要があるわ」


 まずは接触したいと言う二人。


「でも、相手が穏健派だって保証はないよ」


 説得を試みるが、アルフは聞かない。

 まっすぐに前を向いたまま、頭がスライドし、遠く離れる。

 茂みの向こう、森へ進む姿。


「おーい、置いてくぞ」


 自分の運命なんて考えていない顔で、のんきだ。

 肩をすくめつつも、勝手に足が動く。

 みんなでついていった。


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