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はははの歯周病治療

作者: 稀Jr.

「えええええ、歳を取ったら歯が抜けるのは当たり前じゃないんですか!?」


俺は心の中で叫んだ。本当は疑問を口に出したかったが歯の治療中だったので、我慢するしかなかった。ここは歯医者だ。さんざん、子どものころにかこさとしの「はははのはなし」を読んで歯磨きをしたつもりだが、歯周病になってしまった。虫歯にならなければいいかと思ったら、実は歯周病のほうが俺にとっては問題だったのだ。

歯周病菌というと、歯磨きのケアだとかフッ素加工だとか歯医者での定期健診だとかがある。定期健診の場合は、年1度のクリーニングがあるので歯周病になりにくいのだけど、数年間ほおっておいて虫歯にならないからいいかなー、と思っていると、実は歯周病に罹ってしまう。

虫歯の場合は「はははのはなし」に書いてある通りに、甘いものを食べたら虫歯になる。虫歯菌が糖分をエサにして酸を出し、その酸が歯を溶かす。だから、歯が痛くなってわかるのだけど、歯周病菌の場合は歯茎と歯の間にしみこんできて歯の根っこにある骨を溶かしています。歯周病菌は蛋白質が大好きで、酸素が嫌いだ。酸素が嫌いだから、歯と歯茎の間に入り込み、歯の隙間から出ている蛋白質(つまりは血液)を吸いに来る。さらに血を求めて歯周病菌は隙間に入り、最後には骨に達する。そして骨を溶かし始め、骨で支えられている歯がぐらぐらになって抜けてしまうというわけだ。

だから「年を取ったら歯が抜けるのは当たり前」というのは間違いで、実は歯周病菌に罹ってしまったから歯が抜けるのである。逆に言えば、歯周病菌に犯されなければ、年を取っても歯は抜けない。


「えええええ、それ、小学校の頃に言って欲しいです!」


と叫びたかったところなのだが、歯の治療中だから言えなかった。心の叫びである。

痛かったら右手を上げてくださいね、とは言われたものの、別に痛い訳ではないので右手を上げることはしなかった。痛いのは心の痛みだ。なんと、数十年間の間、歯周病というモノを誤解していた。単に歯磨きをなんとなくしていればよいというものではない。


よく CM で歯周ポケットとかいうのは、あれは食べ物のカスが溜まっているからポケットをきれいにしましょう、とか、虫歯菌が入り込んでしまわないように、歯茎を引き締めるために塩で磨きましょう、とか、そういう話ではなかったのである。

そう、すでに歯周ポケットになっている場合は、既に手遅れ!である。

普段ならば、3,4 ㎜ 程度で収まるはず(これでも、ちょっと痛い程度なのだが)、歯周病が進んでしまうと歯茎と歯の間に金属棒を差し込むと、10 mm も差し込むことができるのである。それって、いったい! と思う間もなく、がりがりと、「うーん、これはひどいですね。かなり進んでいますよ」と歯医者は歯周病菌を取り除くのである。


「えええええ、そんなに掘り込んで大丈夫なんですか!?」


と俺はやっぱり心の声で叫ばざるを得ないのだが、実は 10 mm になると手遅れで、俺の場合は 8 mm 程度のぎりぎりであった。ぎりぎりであったが、掘り出してみるまではわからない。

歯の根っこのほうに入り込んでしまった歯周病菌は、歯石を作り出す。その歯石が固くて酸素を通さない。嫌気性の歯周病菌は歯石を住処にして、歯の根っこにある血液を吸って生きていくのだ。酸素を嫌い、蛋白質である血がちょっと手の届く場所にある。まるで、正月のこたつでぬくぬくしながら、ミカンを食べてテレビを見ている風ではないだろうか。いや、実にその通りなのだ。歯の根っこには神経や血液が通っている。根っこにある歯周病菌は、次々と新鮮な血液が運び込まれて食べ放題である。うわ、こたつに居ながらフルコースを食べている気分じゃないだろうか。

正月のこたつでごろごろしていても、次から次へと食べ物が運ばれてくるのである。雑煮やおせちどころではない、ラーメンやカレーやハンバーグやビーフシチューやら、もう次から次へと運んでくるのである。もう、UBer Eats もびっくりである。玄関に出る必要もない。スマホでぽちぽちやれば、こたつまで運んでくれるのである。Uber Eats でもここまでのサービスはやらない。まるで、田舎のおかんみたいである。


「えええええ、そんな状態で歯磨きをしても意味がないんですか?」


と、やっぱり・・・・もう、歯医者の話を聞きながら俺はもうびっくりである。虫歯にならないようにガシガシと歯磨きをしていても、歯周病に罹っていてはもう手遅れなのだ。歯茎の血をなくそうとして、歯茎を塩で磨いたり、こすったり、マッサージしても手遅れなのである。歯周病菌は既に歯茎の奥底(10 mm 程度)に潜んでいて、次々と歯石のこたつを作っているのである。

仲間を増やして、どんどん奥へ奥へと進むので、歯ブラシも届かないのである。

だから、「りんごを食べたら歯茎から血がでませんか?」で、ちょっとでも血がでるようであれば、歯医者に直行である。そこで、塩歯磨きしたって遅いんですよ!まったく。


「えええええ、じゃあ、どうすればいいんですか?」


と俺はもう心のなかで不安いっぱいになるのだが、歯医者は淡々と説明する。


「麻酔をして、歯茎を掘り出していきます。歯石を取り除いて、歯周病菌を取り除きます。場合によっては、歯茎を切開します。骨までに達していたときは難しいですが。8 mm ぐらいでしたら、なんとかなるかもしれません」

「はあ、お願いします」


かくして、俺の歯周病菌治療が始まったのである。歯茎全体で歯周病菌が罹っているので、4回に分けて治療することになった。1回目は右上の歯茎、2回目は左上の歯茎、3回目は右下の歯茎、4回目は左下の歯茎である。

そのたびごとに、「麻酔をしますね。少しチクッとしますよ」と言いつつ、

ぶすぶすぶすぶすぶすぶすぶすぶす、と8本ぐらいの麻酔を刺すのである。麻酔が効いてくると、歯茎がしびれてくる。しびれてくると、歯医者はがりがりと歯茎を掘り出していく。俺は口を開けたまま、じっと耐えるしかない。時々、歯医者が「はい、ちょっと口をゆすいでください」と言うので、口をゆすぐ。血が混じった水が口から出てくる。ああ、歯周病菌が血を吸っていたんだなあ、と実感する瞬間である。歯石も血もどばどばとでてくる。

もう口の中は血だらけ灰だらけである。

まあ、麻酔が効いているのでなんとかなるが、いや、麻酔が切れると痛いらしい。

幸いにして、俺は切開までいかなかった(金属の棒で掘り出すだけだった、これ結構時間がかかる)ので、麻酔が切れても痛くはなかったのだが、これ、相当痛いですよ。

これを、1,2週間の間隔で続けるのである。

実は4回どころではなくて、レントゲン検査や歯茎の検査もあるので、全部で8回位通うことになった。



歯茎を掘り出して、歯周病の歯石を取り出した後は、酸素が吸入されるので暫く歯周病菌は付かない。しかし、歯石の前段階の食べかすが、歯と歯茎の隙間にたまってくると再び歯周病菌の住処となってしまうので、それからは月1の歯磨き指導なのである。


「えええええ、今更、歯磨き指導なんですか?」


と言うまでもなく、ごしごしごしごしと歯科衛生士の人が歯磨きをする。

ええと、ちょっと、子どもみたいで恥ずかしいんですが、と思いつつ、仕方がない。


そして、やっとこさ今日で半年の治療が終わった。

月1の歯磨き指導の末、磨き残しが 20 % という快挙である。

いや、ええ、この歳になって快挙と言われて・・・と思いつつも、やっぱり嬉しいものである。


さらば、歯周病菌のおかん、また会う・・・ことはないでしょう!!!


【完】


厚生労働省 歯周病の予防と治療 https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/teeth/h-03-006

かこさとし「はははのはなし」 https://www.fukuinkan.co.jp/book?id=187


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