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友人「正木啓介」7 ブラックコーヒーをどうぞ

 どうやら涼の機嫌が少し悪いらしい。まぁ、ご飯を食べてこれから寝ようかって時に突然の訪問者だ。仕方ないだろうが、啓介も約束通り多分札幌に戻る前に顔を出してくれただけだろう。悪いが少しだけ我慢してもらおう。あいつは多分、涼がいることを知らなかっただけだ。


「ああ会長、なるべくすぐにこいつ連れて帰るから。すまんな」

「いや、帰る前に態々顔出してくれて嬉しいよ。今コーヒーでも淹れるからゆっくりしていってよ」

「流石かな先輩!話が分かりますねー」

「お前は少し黙ってろ……」


 麻衣ちゃんがニコニコ顔でちゃぶ台の前に座り、啓介もその隣に腰を下ろす。涼は髪を乾かし終わったらしく、バレッタを取り出しそれでゆっくりとその黒髪を留めていた。


「あ、涼さんそのバレッタ素敵ですねー」

「ああ。これかなめからもらった誕生日プレゼント」

「えぇ?かな先輩って結構大胆ですね」

「気付いてないだけだと思う」

「ははぁ。そういうところありますねよ、かな先輩。実は私も昔ヘアピン貰ったことあるんですけど」

「私はかなめにバレッタ留めてもらったけどね。つい最近」

「かな先輩!私にも下さい!」


 何やらバレッタで盛り上がる女性陣を尻目に火にかけたやかんが蒸気を吐き出したので、コーヒーサーバーを取り出しその上に金属製のフィルターをセットする。豆はひくのが面倒なので、出来合いの物を冷蔵庫から取り出しセットする。


「なぁ会長。申し訳ないんだけど、俺もう帰りたい。何アレ怖いんだけど」

「麻衣ちゃんが満足するまで無理に決まってるだろ。先に連絡してこないお前が悪い。諦めろ」

「本当に直ぐ帰る予定だったんだよ。明日はお客さん回りしたいんだよなぁ」

「……言っちゃなんだが、休めよ」

「会長がうちの会社に来てくれたら俺も楽出来るんだけどなぁ」

「じゃあ無理だな。頑張ってくれ」

「ホント、勿体ない」

「気持ちだけ頂いとくよ」


 いつの間にか隣に来ていた啓介が手持無沙汰の様で話しかけてくる。そして何時もの冗談の様で、意外と本気の転職のお誘いに断りを入れる。これも何時ものやり取りの一つ。


「へぇ。麻衣ちゃんは札幌に住んでるんだ」

「そうなんです。涼さんは?」

「所謂住所不定ってやつかな」

「えぇ……?マジですか……?」

「最近はかなめのお世話になってるけどね」

「……羨ましいです」

「私のだからね?」

「時々貸してもらえます?」

「駄目」

「……おいおいやべぇよ。あの二人すっげぇ笑顔で話し合ってるんだが。モテる男は違うねー」


 心を無にしてやかんからお湯をコーヒー豆に注いでゆくと、香ばしい香りが台所に充満し、少しずつコーヒーサーバーに琥珀色の液体が抽出されてゆく。


「啓介。そこのマグカップ取ってくれ」

「はいよ」


 シンクに置かれた四つのマグカップにコーヒーを注ぐ。全員ブラック派なのは助かる所だ。


「おい、会長があっち持ってけよ」

「はいはい。というか俺たちもそろそろ座ろうぜ。立ち話も何だし」

「……変に度胸あるよな会長は」


 啓介は溜息を吐きながらもマグカップを両手に持ってちゃぶ台の方へと歩いて行く。俺も涼のマグカップを持ちちゃぶ台へと向かう。


「コーヒー出来たよ。どうぞ」


 そう言って、ベッドに腰掛ける涼へとマグカップを手渡すと、ぽんぽんと隣を叩き始める。物凄い笑顔で。

 どうしようかと迷っていると、マグカップを持っていない方の腕をゆっくりと引っ張られ、仕方なく腰を下ろす。


「ふふん」

「ぐぬぅ」


 マグカップを傾けながら麻衣ちゃんに涼がドヤ顔を向けると、麻衣ちゃんは隣の啓介を何度も殴りつけている。啓介は諦め顔でされるがままだ。


「そう言えば()()ネックレスつけてる?」

「付けてるよ。流石に仕事のときは外してるけど」

「宜しい」


 涼が突然マグカップを持たない方の手で俺の襟を引っ張る。そして首に下がっているシルバーのチェーンを確認するとにっこりと微笑んだあと、その小さい頭が肩のあたりにもたれかかってきた。一寸恥ずかしいが、思わずドキドキしてしまう。


「え、あのかな先輩がアクセサリー?」

「マジかよ会長」


 だが、返ってきた言葉は一寸予想とは違っていた。え?何でそんなところで驚いているの?


「何だよ。そんなに驚く事か?」

「お前何か他の持ってる?持ってねぇよな?」


 一応反論してみるが、啓介からの言葉に直ぐ様首を横に振る。


「ネックレスっていうところがまたイケナイと思います。……しかも涼さんがつけてたのとかヤバすぎる」


 麻衣ちゃんはそう言うと眉をへの字にしながらも、何やら考え込んでいるようだったが、不意にパン、と音を鳴らして両手を叩いた。


「かな先輩に私の指輪もプレゼントします!そのネックレスに掛けてみてはどうでしょう?きっと似合いますよ!」

「良い訳ないでしょ」

「じゃあそれは仕方ないので諦めますが、ベットの隣が空いているみたいなので隣に失礼しても良いですか?」

「残念だけどこれ、2人が精一杯なの」

「じゃあ代わりばんこでどうですか?」

「あと60年は待ってもらおうかしら?」

「もう少し短くなりません?」

「じゃあ59年って所ね」

「わーお、太っ腹!」

「あんた面白いわね」

「ねぇ会長。俺帰って良いか?」

「あ、お兄はかえって良いよ。私ここに泊まるから」

「駄目に決まってるだろ。お前も帰るんだよ」

「えー」

「えーじゃねぇ」

「随分と仲良くなったみたいで嬉しいよ。でも、涼が疲れてるから今日はもう少しでお開きね」


 微笑ましい光景に俺がそう言うと、三人があほでも見る様な目で俺を見つめてくる。酷くないか?俺がまとめないと、何時までもやってそうじゃないか。


「涼も啓介と顔合わせが出来て本当に良かったよ。こいつとは一年に一回くらいしか会えないからさ」

「会長が札幌に来てくれたら幾らでも会えるんだけどな。ま、これからは時々顔出すさ」


 肩を竦めながら啓介がぼやくように言った。俺を時々この町から出したいようだが、それも難しいことが分かっているので諦めているのだろう。流石俺の右腕だった友人だ。


「ごめんな啓介。休みの日は涼にご飯作らないと駄目だしね」

「あー、はいはい」


 まぁ、多分これは惚気なんだろうなぁ。そう思いながらも涼の方を向きながら言うと、だいぶ機嫌は直ったみたいだった。啓介からは投げやりな返事が返ってくる。


「時々私も食べに来て良いですか!?」


 そして何故か食い付いてくる麻衣ちゃん。


「お前は駄目だろ……。こっちに住むつもりか?すまんな会長と涼さん。こいつまた彼氏にフラれて拗らせてるだけだから許してやってくれ」

「フラれたんじゃないですが?こっちからフッただけですが?お間違いのないようにして下さい?」

「こいつ男の基準が会長になってるからなぁ。何でも出来て何でも言うこと聞いてくれるのが当たり前だと思っている節がある。マジで将来が心配だ」

「何にも出来ない奴が多すぎるんです。かな先輩責任取って下さいよー」

「駄目。私のだから」


 まぁ、麻衣ちゃんも美人だしモテるのだろうが、長続きしないんだろうな……っていう、嫌な信頼感がある。一寸ばかり我儘な事を言って、何時も誰かを振り回している。……振り回された俺が言うのだから間違いない。そこが可愛いところでもあるのだけれど。


「おい、コーヒー飲んだらそろそろお暇するぞ。雪が降って来る前に帰りたいから。それとずっとここにいると胃もたれしてきそうだ」

「えー。もう少しいいですよねー。かな先輩?」

「うーん。そろそろ遅くなるから帰った方が良いと思うよ?」

「かな先輩が私に優しくない!?どうしよう兄ちゃん!?」

「俺にどうしろって言うんだよ……」


 学生時代の様なやり取りに思わず笑みが零れる。出来るなら、涼にもこの雰囲気に慣れてくれるなら嬉しいと思う。きっと長い付き合いになるのだろうだから。


「麻衣ちゃん」

「はい!なんでしょう!」

「LINE交換しましょ。私は色んな所に行くこと多いから札幌にも寄れるし、二人でゆっくりお話しできると思う」

「良いですねぇ。女二人でゆっくりと話すこともあるでしょうし」

「その通り。楽しみね」

「楽しみですね!ご連絡お待ちしています!」

「……既に上下関係が出来上がってるみたいで何よりだな」


 啓介が小さな声でつぶやく。上下関係と言う所は若干引っかかるが、二人が少しでも仲良くなってくれるなら俺も嬉しい。その時に何を話し合うのかは若干気になるところだが。


「それじゃあ麻衣、そろそろ行くぞ」

「はーい。じゃあかな先輩、涼さん。またお会いしましょうね」

「ええ。また会いましょう」

「うん。啓介は次回から早めに連絡くれると嬉しいな」

「……今度から絶対早めに連絡入れるよ。見送りは要らない。じゃあまたな」


 そう言って、疲れた顔の啓介は麻衣ちゃんを連れて帰っていった。


「……随分と慌ただしい人達だったけど」

「悪い奴らじゃないよ。俺の数少ない友人だ」

「それはわかる。かなめの友人なら長い付き合いになりそうだし」

「……うん。宜しくね」


 同じ事を考えてくれていたことに思わず笑みが零れた。そして、静かになった部屋で俺は涼にキスをした。

戦争勃発→終結

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