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友人「正木啓介」4 酒の肴

 結局のところ、他人の恋愛事情など最高の酒のツマミだろう。折角の年一行事なのだ。出し惜しみは無しで行こうと思う。


「んで会長、一つ聞いておきたいんだが、その彼女さんは帰ってこないのか?一緒に住んでそうな雰囲気を感じるんだが」

「ああ、それは大丈夫だよ。涼は今頃関東の方で仕事してるから。いや、もう寝てるかな?」

「この年末でも仕事してるのか。大変だな」

「まぁペンキ絵師は銭湯に絵を書くのが仕事だからね。銭湯を閉められるこの時期は忙しいみたいだよ」

「……ペンキ絵師、涼」


 隣でスマホをいじる麻衣がいるが、無視だ無視。


「それなら少し安心か?彼女との時間を邪魔しちゃ悪いから良かったぜ」

「多分涼なら気にしないとは思うんだけどもね」

「おーおー、砂糖吐くぞこの野郎」

「いや、本当に変わった奴なんだって」

「あー!!」


 突然大声を上げる麻衣に、俺と会長が同時に箸につまんでいたエビチリをちゃぶ台に落としてしまう。


「ねぇかな先輩!この人でしょ!菅野涼!ペンキ絵師!滅茶苦茶美人じゃないですか!?」


 突き出されるスマホの画面をのぞき込むと、インターネットニュース記事タイトル「令和の美人ペンキ絵師」の文字の後に、黒髪美人が映っていた。その背後には描きかけの富士山の絵が見て取れた。少し記事をスライドさせると、これまでの作例が幾つか載っていた。これは、凄い。小さなスマホの画面でも、繊細な絵が見て取れる。


「あ、涼のインタビュー記事だね。これがきっかけで売れ始めたんだっけ。本人は嫌がってたけど」

「お前マジかよ。これ本人かよ」

「うん、まぁそうだね。今年の春頃の奴だと思う」

「うへぇ。絶対勝てそうにないんですけど」


 後ろ向きに倒れた麻衣は放っておき、落ちてしまったエビチリを箸でつまみ上げると口に入れる。隣でも会長が困った顔をしながら同じようにエビチリを口に入れていた。


「今は怖いよな。簡単に個人が特定できるんだから」

「それは一定以上の知名度があってこそだけどな」

「……涼の商売を考えるとそれも仕方ないし、有難い事か。これ以上忙しくなって体壊さないといいんだけど」


 心配そうな顔の会長を見て、妹のバッドエンドを完全に悟る。そもそも眼中にないのは分っていたが哀れ過ぎる。


「まぁ、ペンキ絵師ってのは何となくわかったけどよ、どういった馴れ初めなのよ?」

「はい!私も聞きたいです!」


 俺の言葉に反応し、即座に蘇生した麻衣が元気に手を挙げていた。我が妹ながら打たれ強い奴だ。


「えぇ……。それ話さないといけないやつか?」

「「勿論」」

「……別に面白くもないけど?」

「「良いから」」

 

 兄妹らしくハモった声に会長は非常に嫌そうな顔をするが、態度を変えない俺達に諦めたようだった。


「はぁ……。まぁ良いけどさ」


 そう言って会長はコップに残っているビールを一舐めしてから、ゆっくりとその出会いからを話し始めた。

 ……うん。なんというか、ヤバい人すぎるだろ。隣の麻衣も最初こそ目を輝かせていたが、出会いの下りで若干引き始め、朝食の量でドン引きでいた。ただ、スケッチを始めたくだりでは黄色い声を上げ、脱衣所でペンキ絵を描く話では若干涙ぐんでいた。感情がうるさいやつだ。


「と、まぁそんな感じの出会いだったなぁ」

「「面白過ぎだろ」」


 最後にもう一度兄妹の声がハモったのは仕方がないことだと思う。


「……そう言われるとそうかも?」

「気づくの遅くね?」

「かな先輩って昔から天然なところあるよね。よく生徒会長やってましたよね」

「俺が生徒会長やれてたのは啓介のお陰だよ」

「おっ、何も出ねぇぞ。そしてその後の話も聞くからな」

「くっ……」


 会長のやり口は良く知っている。今日は全て吐き出させてやろうじゃないか。


「……とは言えだ。これ以上は流石に向こうのプライバシーもあるだろうから大したことは話せないぞ?」

「構わん構わん。酒の肴になるじゃないか。会長に彼女出来たのマジで久し振りだろ。それだけでも旨い酒が飲めるわ」

「は?かな先輩いつ彼女いたの?聞いてませんけど?」

「お前には言ってないしな。そりゃいただろ彼女くらい」

「はー!?」

「なんか俺バカにされてる?」


 そんな懐かしい、バカなやりとりをしているうちに、時間はあっさりと過ぎ去っていった。

かなめと涼はSNSやっていない派

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