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友人「正木啓介」3 類は友を呼ぶ

 いきなり初手からやらかしてしまった感じはするが、一先ずは一区切りをつけたことにして俺はちゃぶ台を取り出すと部屋の真ん中にそれを置く。そうしてから、少し冷めた料理たちを温めるべく、レンジの扉を開けながら口を開く。


「適当に始めといてくれ。冷蔵庫にビール入ってるから」

「おお、サンキュー。落ち着いたら日本酒持ってきたからそれ飲もうぜ」

「お、ありがとう。助かるよ」


 啓介はこの時期になると札幌で見繕った旨い日本酒を持参してきてくれるのだ。年に一度ということもあり、かなり奮発したものを持ってきてくれる。その料金を俺に聞かせることも無い。それが嬉しかった。


「ねぇ兄ちゃん。私のやつは?」

「はぁ?知らねぇよ。勝手についてきたんだから水でも飲んどけよ。会長はビール派だからお前が飲めるもんなんて……」

「あるじゃん」


 後ろで何やら口論の後に冷蔵庫が開く音がして、麻衣ちゃんのドヤ声が聞こえてくる。


「……会長、これ飲んでも良いのか?」


 啓介の恐る恐るといった声が聞こえてくる。そう言えば涼の誕生日の時に飲みきれなかったサワーやカクテル類が冷蔵庫に置いたままであった。


「かな先輩随分と可愛いの飲んでるんですねー」


 俺はその言葉は聞こえないふりをして、水切り皿から大皿を取り出し、温めが必要の無さそうな料理から盛り付けてゆく。


「このサングリア開いたままだから頂いちゃいまーす」

「すまん会長。後で買って返す」


 俺は両手で持った大皿をちゃぶ台に置いた後、苦笑しながら腰を下ろす。


「構わないよ。飲みきれなかった奴だからさ。今年の酒も大分奮発してくれてるんだろう?せめてものお返しってことで」

「まぁ、そう言ってくれるなら有難いが……。おい麻衣、会長にちゃんと礼言っとけよ?」

「ありがとうございます。かな先輩」


 そう言って口の空いたサングリアの缶に口を付ける麻衣ちゃんは、記憶の姿と違っていてドキリとさせられる。最後に見たのは高校生の頃だったが、随分と大きくなったものだと感心してしまう。


「あまりもので悪いんだけど好きなの飲んでもらって構わないからね」

「流石かな先輩。ほら兄ちゃん。こうしないとモテないって?」

「うっせぇな。彼女位いるって」

「兄ちゃんのはイマジナリー彼女でしょう?」

「うっせ。ほら会長も」

「ああ、ありがとう」


 二人のやり取りを見るのも本当に久しぶりだ。思わず頬が緩んでしまう。受け取ったマグカップに注がれたビールを口にしながら、そう思う。


「一人先に飲んでるやつがいるけど乾杯しようや」


 啓介が自分のコップにビールを注ぎながらそう言った。視線は麻衣ちゃんに向けられているが、その本人は顔色一つ変えることなく、残り少なくなったサングリアの缶を前に突き出した。


「じゃあ、今年も無事に集まれたことに。乾杯」

「おう、乾杯」

「かんぱーい」


 何とはなしに、こういう音頭は俺が取る流れになっている。マグカップとコップ、サングリアの缶が打ち合わされささやかな飲み会が始まった。まだほんのりと暖かいおやじさんの料理に舌鼓を打ちながら、暫くの間は穏やかな時間が流れてゆく。


「やっぱりおやじさんの飯はうめぇな。向こうでこれが食えないのが本当に残念なんだよな」

「俺はいつもお世話になってるからな。これ食うと戻ってきた気持ちになるだろ?」

「あぁ。学生時代に死ぬほど食ったけどやっぱ飽きないわ」

「だよなぁ。飽きるほど食っても飽きないのは本当に凄いわ」

「おお、レンジ終わったな。俺取って来るわ」

「ありがと。助かるよ」


 啓介は口の中の物をビールで飲みこむと立ち上がり、温め終わった料理を取りに立ち上がる。


「かな先輩兄ちゃんと話してばっかり」

「ごめんごめん。ほら、サングリアもう無いだろうから次は何飲む?」

「じゃあ遠慮しないでこれ貰いますね」

「ああ。好きなの飲んでね」


 ちゃぶ台を挟んで二人きりになったタイミングで、麻衣ちゃんが俺の事を半眼で睨んでいるのに気付き、視線を向けると案の定棘のある言葉が飛んでくる。ほおっておくと拗ねる、この変わらない感じも懐かしい。どうやらほろ酔い気分になれるそうなカクテルを選んだらしい。


「会長ここら辺の皿借りても良いのか?」

「ああ、適当に使ってくれ」

「さんきゅー」


 啓介の声に振り向いて返事をしていると、背後ではプルタブが空く音がした後、豪快に喉を鳴らす音が聞こえてくる。そして、随分と軽くなった何かをちゃぶ台に置く音。


「ねぇかな先輩」

「うん?なんだい?」


 真衣ちゃんの声で今度は正面を向くと、あざとさ満点な表情で小首をかしげる妹分が視界に入る。


「私と結婚してくれるって言ったじゃないですかぁー?」

「いや、一度も言ったことないよ?」

「それなのにいつの間にか彼女まで作ってしまって私悲しいです」

「うーん。俺ももういい大人だからね……」

「私もいい大人になりましたよ?そろそろ大台に乗ってしまいそうです」

「麻衣ちゃんも大きくなったよね。うん、綺麗になった」

「……はぁ」


 涼の事を見慣れてしまっているせいか、以前は言えないような言葉が自然と出せることに自分でも驚く。まぁ、どちらかと言うと、親戚の甥っ子や姪っ子たちに言葉を掛ける感じと言った方が妥当だろうか。

 そんな言葉に麻衣ちゃんは呆れる様な顔をした後、ちゃぶ台に置かれた缶を手に取りそれを呷った。


「これは本当に変わりましたね、かな先輩。あーあ。どうやら相当魔改造されているみたいですね。そんなこと言うキャラじゃなかったのに」

「魔改造って……」

「おい麻衣。会長に失礼なことばっか言ってんじゃねぇぞ」


 麻衣ちゃんの言葉に何となく打ちのめされていると、エビチリとエビマヨを乗せた皿を持ってきた啓介が戻ってくる。そしてそれをちゃぶ台に置いた後、にやりと笑う。


「俺も混ぜろよ」


 なんだかんだ、兄妹だけあってこの二人は似たところがある。困ったものだ。

甘やかされた妹(28歳)

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