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友人「正木啓介」1 何時もの約束

 今年の営業を終えた俺は、ふじの湯の談話室で簡単な打ち上げに参加をしている。隣の食堂から届けられた大皿料理が乗るテーブルを囲むソファーには、菊さんとその娘婿さん、つまり社長が並んでいる。


「大久保君、今年もご苦労様。お義母さんもお疲れさまでした。では乾杯しようか」

「ありがとうございます」


 ノンアルコールビールが入ったコップを打ち鳴らして乾杯した後、まだ湯気を立てる料理たちに舌鼓を打つ。何時もながらおやじさんの作る料理は旨い。仕事終わりで空腹を訴える腹にはもはや劇薬と言っても良い。


「ああ、お義母さんも少し食べてくださいね」


 社長がいる場合は菊さんのことは考えない様にしている。仲睦まじいと評判の社長夫婦は姑である菊さんの事を本当に大事にしているからだ。というか、社長がいる場合は何かをする暇がない。そのため、黙々と目の前の料理を食べることに集中する。涼ほど食べれるわけでは無いので、余りそうなものは菊さんが既に持ち帰り用のパックに詰め込み始めていた。


 そんなこんなをしているうちに、良い時間になり菊さんは社長と一緒にふじの湯を出て帰って行った。俺はと言うと、玄関の鍵をかけた後シャッターを下ろし、門松をとしめ縄を飾り付けているところだ。

 幸い、天気はそれなりで細かい雪がちらつく程度。空気はかなり冷え込んでいるが、速足で帰れば紙袋に入っている料理もそれほど冷めずに帰られるだろう。レンジで温めて、いつも通りにビールのアテにでもさせてもらうつもりだ。


 正月飾りの準備が終わり紙袋を手に持った時、ふと遠くから車が走ってくる音が聞こえてきた。「そろそろ帰るか」と、そう独り言ちると段々と車が走る音が近くなり、ヘッドライトの明かりがぼんやりとあたりを照らし始める。そして、姿を現した見覚えのあるガンメタリックの軽自動車がふじの湯の駐車場にゆっくりと停車した。運転席の窓が下がっていき、そこに現れたのは少し疲れた友人の顔だった。


「おーい、会長。酒持ってきたぞ。飲もうぜ」

「……啓介か。毎年良くもまぁ。おかえり。今年はゆっくりできそうだよ」

「そうなのか?聞いてた話とは少し違うが……。まぁ、恒例行事みたいなもんだからな。これも独身同士の良いところじゃあないか」

「はは、そうだな」 


 その友人、正木啓介は高校時代からの付き合いで、就職後は奴は札幌で就職をしたため地元から引っ越していったが、こうして年末年始は約束せずとも何故か俺の家で酒を飲むという流れが出来ていた。それも既に10年以上も。去年は事前連絡はしていたものの、途中でキャンセルと言う申し訳ないことをしてしまい迷惑を掛けてしまったのだが、そのことは全く表には出してこない。年末以外には会う機会は少ないというか、ほぼ無いのにも関わらず。俺の自慢の友人、いや親友と言った所だろうか。調子に乗るので口には出さないけども。

 こうして飲むのはお互いの近況報告や生存報告も兼ねている、と言ったところだろうか。数少ない友人の一人で、お節介で、頭の回転も良く、運動もできるというような完璧なやつなのだが、残念ながら浮いた話を聞いたことが無い。どうやら仕事が楽しいらしい。

 因みに俺の事を会長と呼ぶのは、生徒会で会長をやっていたからだ。啓介は副会長だ。学生時代の気分に戻り、啓介と話していると後部座席の窓が下がり、珍しい顔が見えてくる。


「かな先輩!お久しぶりでした!」


 元気のよい声であいさつしてきたのは啓介の妹の麻衣ちゃん。5つ下で学校生活で一緒になることは無かったが、生徒会の話し合いなどで良く啓介の家に入り浸っていたため、何となく相手をすることが多かった妹分だ。彼女も大学進学を機に地元を離れたところまでは聞いていたが、それから先のことは知らなかった。


「ああ、麻衣ちゃん。お久しぶりだね。元気だった?」

「元気ないので優しくしてください!」

「はは、何時も面白いこと言うよね」


 明るい性格の彼女は物おじせずに、何でも言うし聞いてくる。生徒会活動の話の中にいても、いろいろな質問が飛んできて、説明をしている間に間違いに気づいたり、もっと良い方法が見つかったりなど、影のアシスト役を結果的にやってくれていた。

 地頭が良いのだろう。小学生だった彼女は生徒会の活動について、しっかりと理解を示していたことは啓介も気付いていた。


「車に乗って下さい!家まで送りますよ!」

「俺の車だけどな」


 そんな妹に啓介は甘い。


「ありがとう。じゃあ乗せてもらおうかな。すぐ其処だけど」


 俺は紙袋を手に持ちながら、助手席に乗り込むと後ろから可愛いブーイングが聞こえて来た。見た目は大人になっても、妹分は可愛いものだ。

妹襲来

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