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三助「大久保かなめ」16 ゴールはきっとまだだけど

「そろそろ飛行機が来るかな」

「そうだね」


 新千歳空港の国内線ターミナルビル2Fの、出発口Bの近くの椅子に俺は涼と並んで座っている。

 涼が何時も持っているユーラシアトランクは既に自動手荷物預け機に通してあり、出会った時に使っていたボロボロのリュックサックを背負っている。そのリュックサックは今でも旅の相棒らしく、破けたり壊れたりするたびに器用に修復しているため既に原型を留めていない。それでも継ぎはぎだらけのパッチワークリュックサックがお洒落に見えるのは、流石のセンスと言う所だろうか。


「いつも見送り悪いねぇ」

「好きでやってんだから気にすることないさ」


 忙しなく搭乗口に向かう人達を二人でぼんやりと眺め、時々言葉を交わす。そして、また暫くは無言のままで視線を彷徨わせている。


「この天気ならすんなりと飛行機は飛びそうだな」

「いきなり猛吹雪になってくれても良いのにさ。それか少し遅れるくらいでも良いのに」


 快晴の空に涼が口をとがらせて、俺は笑う。どうやら天気予報は外れみたいだ。

 7番搭乗口の電光掲示板に表示されている時刻までは暫くあるが、そろそろ並ぶ必要があるだろう。


「ねぇ」

「なに?」


 俺は涼の問いかけに返事をするが、黙ってしまう。けれども、椅子を挟んで繋いだ手が強く握りしめられ、言葉を交わさずとも言いたいことが伝わってくる。

 その、華奢で繊細な手を壊してしまわないよう、強く抱きしめる。無言の時間が続き、それは永遠に続くかとも思えたが、あっさりと搭乗を促すアナウンスによって終わりを告げられる。


「クリスマスプレゼント、ありがとう」


 涼が、喧騒に埋もれそうなほどの小さな声でそう呟いた。


「……誕生日プレゼントも忘れないでよ?」

「ばーか。勿論だよ。もう外さないから」

「いや、寝るときには外せよ」

「そういう意味じゃないから。ばーか」


 その「ばーか」の後で涼が立ち上がる。手を握ったままなので、俺も自然と立ち上がる。


「それじゃあ行くとするよ。次は年明けになるかな」

「うん。それまで待ってる。無理すんなよ?」


 そう言って、搭乗口に向かうだろう涼を見送ろうとするが、握りしめた手は解かれない。


「おい、ヘタレ君。最後の挨拶がまだじゃないかい?」

「え?マジで?ここで?え?マジで?」


 繋がれた手を伝わって、涼の言いたいことは理解している。理解はしているのだが、この年末の大混雑、大観衆の中でそれは一寸どうかと思う。


「ああ、めんどくさいやつめ」


 そして多分。痺れを切らした涼が俺のコートの襟を素早く掴み、斜め下に引っ張った。体勢を崩して少し屈む格好になった瞬間、唇が押し付けられた。

 目を見開いたままのキスは、涼の顔越しに色々な人の顔も見えたが、案外誰も気にしていないようだ。

 随分と長いキスが終わると涼は満足したように、俺の襟から手を離した。


「よし。じゃあ本当に行ってくる」

「……気を付けてね。仕事頑張って」

「かなめもね」


 涼はそう言って7番搭乗口へ向かっていく。俺はそれを見送るために、近くまで歩いて行く。


 保安検査のゲートを通過した涼が俺を発見し、鳳梨館の時のようにその目がイタズラを思いついたように楽しそうに輝いた。それに気づき、声を掛けようとしたが、どうやら一手遅かったらしく、その口が大きく開いた。


「あの時の下着洗濯機に入ってるから、寂しくなったら使っても良いからねー」

「お前何言っとんじゃ!」


 多分人生で一番の声の大きさで思わずツッコんだ。周りの人たちが驚いたのか一瞬足を止め、俺たちを確認した後クスクスと言った失笑が聞こえてくる。

 涼はけらけらと笑いながら搭乗券を頭の上で振り、搭乗口の中へと歩いて行く。

 

 同じように自慢の黒髪を留めるバレッタが揺れていた。

 やっぱりあいつは大分変わっていると思う。

使うのか、使わないのか。それが問題だ。

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