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三助「大久保かなめ」15 ”メリー” クリスマス

 結局、レジ前のおやつ売り場で攻防を繰り返していると、流れて来た蛍の光に急かされるようにレジが並ぶ通路に早足で向かうことになった。当然のようにレジ打ちの工藤さんに茶化され、なぜか俺だけ赤い顔をすることになった。見られた客は少なかったが、恐らくは数日中に噂が出回るだろうことが決定した。


 とりあえず買い物籠の品物をレジで清算し、家まで戻ってきたが帰り道の間、涼は左手の紙袋をぶらぶらと大きく動かしながら、上機嫌だった。

 

「ねー。ここら辺の空いてるところ借りても良い?」

「好きに使ってよ。もう随分と勝手に涼の物置かれてるし」

「失礼な。謙虚なところに感謝してよ」


 未だ少し冷えたままの室内で涼は一行で矛盾することを言いながら、紙袋から取り出した小物を部屋の中に並べ始めている。生活用品が主だが、何やらよくわからないぬいぐるみなども置かれてゆく。


「手が空いたらそこの下からホットプレート取っておいて。俺は野菜の準備しておくから」

「おーらい。野菜は少な目で頼むよかなめくん」

「駄目です。野菜食べなさい」

「ちぇー」


 台所で野菜の処理を始めるべく、ザルやボウルを取り出していると、涼は浴室とトイレのある、玄関の方へ色々な物を両手に抱えて歩いて行く。どうやら順調に涼にこの部屋は侵食されているらしい。


 キャベツやピーマン、南瓜などを切っていると涼が戻ってきて、ホットプレートを取り出しちゃぶ台の上に載せる。


「はい、牛脂」

「じゃあホットプレート温めとくよ」

「宜しく。もうすぐ終わるからお肉焼き始めてくれても大丈夫だよ」

「ご飯は?」

「その内炊けるよ。もう少し待ってて」

「大盛りね」

「はいはい」

 

 ザルに入っている野菜の水を切りながら苦笑していると、牛脂が焼ける音と共に食欲を刺激する匂いが部屋の中に漂ってくる。


「焼き始めるよー」

「先食べてていいよ」

「鶏から焼いとくから一緒に食べよ」

「ああ、ありがと。じゃあ少し待っててよ。今終わるから」


 水をしっかりと切った野菜の入ったざるの下に大皿を敷き、ちゃぶ台のある方へと持ってゆく。ホットプレートの上には隙間が無い位に鶏肉が載っている。


「野菜乗せるところないだろ」

「クリスマスなんだからまずは鶏」

「本当は七面鳥だけどな」

「売ってなかったじゃん」

「そもそも見たことないねぇ」


 クリスマスのターキーなんて一体どこに売ってるんだろう?少なくともこの町では見たことは無い。


「先に乾杯しようか」


 そう言って、冷蔵庫からビールとウォッカベールのカクテルを取り出し、ちゃぶ台に置かれているコップへそれを注ぐ。


「うん。じゃあメリークリスマス」

「メリークリスマス!」

「そして改めてお誕生日おめでとう」

「ありがと!じゃあ乾杯!」


 コップを合わせてからビールを飲む。温まってきた部屋で、昼間歩き回り疲れた体

にビールの苦みが染み渡ってゆく。ああ、旨い。

 涼もコップにちびちびと口を付けている。それほどアルコールには強くないのだが、お酒を飲むこと自体は好きらしい。

 他愛もない会話をしていると肉がこんがりと焼けてゆく。それを小皿に載せていくと、あっという間に涼の口へと消えてゆく。俺はベルのマークのジンギスカンのたれ。涼は塩コショウで食べている。

 空いた隙間に野菜を捻じ込んでいくと、涼の眉間には皺が寄っていた。「小皺が増えるよ」と軽口を叩くと、ちゃぶ台の下で蹴られる。そんなこんなを繰り返しているうちにご飯が炊きあがり、肉が消費されるペースが加速されてゆく。

 気が付けば、買ってきた肉のパックは底をついていた。部屋の温度も上がり、開けた窓からは心地よい冷えた新鮮な空気が流れ込んでいる。


「はのね」


 少し硬くなった肉を口に運んだ涼が口を開くが、まだ口の中に半分以上肉が残っているため若干聞き取りづらい。


「はい、これどうぞ」


 かなめはテーブルに置かれたカシスリキュールベースのカクテルが注がれたコップを涼に手渡す。それを箸を持っていない左手で受け取ると、涼はもぐもぐと肉をよく噛んで飲み込んだ後にコップのカクテルを一気に飲み干した。


「ありがと」

「どういたしまして」

「今日は幸せだぁ」

「それは良かった。俺も幸せだよ」

「もう一杯だけ貰ってもいい?」

「勿論。コップ出して」


 差し出されたコップに冷蔵庫から取り出したサングリアを半分ほど注ぐと、涼は珍しくコップの中のサングリアを一気に呷る。朱が差した顔は少し妖艶な感じがして、俺は溜まっていたつばを飲み込む時に喉が鳴らないよう気を付けたが、無駄な努力だったようだ。


「よし。じゃあお風呂入って来るから」

「……おう。じゃあ片付けておくからごゆっくり」

「かなめはその後ね」

「……おう」


 一人になった俺は片づけを始めながら、聞こえて来た雨の様な音に心拍数が上がるのを感じていた。

 あぁ、まあ。これって、そういうことだよなぁ。

涼は男前

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