三助「大久保かなめ」8 merry Xmas
涼が目の前で首の後ろに両手を回し、何やらごそごそとやっている。
「なぁ、突っ立ってるのも可笑しいし、いい加減座らない?」
「いや、もうちょっとこのままでいてよ」
「まぁ、良いけど」
ごそごそに集中しているのか、少し口を半開きにした涼が、暫くすると外したのだろうシルバーのチェーンを手にしていた。
そしてその指が、細い首周りに合わせられたそれのアジャスターを少し動かし、長めに変える。
「もうちょっとこっちに来て」
「……うん」
狭い部屋で俺は一歩、前に進む。涼の前へ。
「クリスマスプレゼント買ってこれなかったから」
一本のシルバーチェーンを掲げる涼の手の前に、俺はゆっくりと首を差し出す。
少し冷たい涼の指がうなじのあたりに触れ、その後直ぐにひんやりとしたシルバーチェーンが掛けられる。少し俯いた視線の先に、生まれてこの方付けたことがないアクセサリーが揺れていた。
「私の付けていたので悪いけど。今度一緒に見に行こう?」
「……これで良いよ。これが良い」
「そう?じゃあ似合ってるか見てみるからちゃんと顔を上げて」
「うん。どうかな」
顔を上げると、視界のすぐ先に涼の顔があった。
ゆっくりと唇が押し付けられ、背中に腕が回された。何だかいい香りがした後、腕に力が籠められ、引き寄せられる。
涼との距離が無くなり、服越しの体温を感じて、思わず自分の腕を伸ばす。
始めて抱きしめた涼の体は思っていた通りに華奢で、少し心配になる。こいつは一人の時、ちゃんと飯を食っているのだろうか?
長いキスの後、空気を求めて唇が少しだけ離れ、また直ぐに触れ合う。お互いの腕に込められる力が強くなり、そのままベッドに倒れ込んだ。部屋が狭くて良かった。
「……少し早いけど、メリークリスマス」
ゆっくりと唇を離した後、涼がにっこりと笑いながらそう言った。
「うん、一寸早いけどメリークリスマス」
「え?文句あるの?」
お互いにベッドに上半身を預けていると、涼が俺の足を蹴ってくる。
「ないってば。そんなことはない」
「じゃあそんなこと言わないの」
「うん。わかってるって」
「ホント?ちゃんとわかってるの?」
吐息を感じるほどの近さの声に答えるよう、今度は俺から短いキスをする。
「クソ恥ずかしいんだけど」
「ヘタレにしては良くやってる。誉めてあげる」
「……ありがと」
腕の中に収まる涼の体温を感じながら、そうとしか言えない。
「じゃあさ、今日は一緒に寝ようか」
「えぇ……?涼はいつ帰るのさ」
「明後日まで休む予定。良いでしょ?」
「そっかぁ……」
どうやら相当に無理をしたようだ。ばっちりと
「じゃあ今日は一緒に寝ようか?」
「今日はもう遅いし疲れたから眠るだけにしようか。明日は知らないけど」
「知らないんだ……」
一度してしまったら、もう歯止めが利かなくなる。もう一度涼にキスをしてから、ゆっくりと体を起こす。
「じゃあそろそろ着替えて寝る準備しようか。俺は向こうで着替えてくるから」
「うん。そうしよっか。流石に今日は疲れたよ」
「ずっと移動しっぱなしだったもんね。大変だったよな。それでも来てくれてありがとう。忙しいから来れないだろうなって思ってたよ」
「あんたさぁ、私がそんな薄情な女に見える?」
「……見えないかな。うん」
「でしょう?私の事信じなさいってば」
涼はそう言ってベッドから体を起こし、肩にその体を預けてくる。
「好きだよ。涼」
「知ってた。私も好きだよ」
もう一度、キスをした。
「でももっと早く言って欲しかったなぁ。私30になっちゃったじゃん。馬鹿」
「……おっさん拗らせると面倒臭いんだよ。ごめんて」
「もう少し遅かったら私が襲ってたよ」
「襲わないでよ……」
少し腕を動かして、その髪に指を通す。途中でバレッタに当たり、何となくそれを弄ぶ。
「あんまり引っ張ると痛い」
「ああ、ごめんごめん」
「もうちょっと優しく」
「ああ、うん」
涼に促されるまま髪を梳く。気分はもう、大型犬をあやし付ける気分だ。
「そろそろ寝ないと」
「もう少し。手が止まってる」
「明日は休みだから時間は幾らでもあるってば」
「でもね。今この瞬間の、この時間はもう来ないの。もう少しこのままで」
「……まぁ、そうだね」
何を言っても勝てる気がしない。考えてみると、俺ももう少しの間このままでも良いか、そう思う。
「ああ、もう駄目。着替えなくても良いわ。時間が勿体ない」
「え?」
涼はそう言って、俺をベッドに押し倒す。
「……今日は一緒に寝るだけだよね」
「……そうね」
「今の間は」
「うるさい」
開いた唇は、直ぐに塞がれた。
BGMはアカシアで(ずっと聞いてた)




