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三助「大久保かなめ」5 言葉に出来ない

 流石に30歳を超えると誕生日やクリスマスなんてイベントごとは、子供の頃の無邪気に喜び、楽しめたという記憶はその色彩を失い、色褪せていく。主に出費という痛手により。

 それでも、プレゼントを渡すことが出来る相手がいるということは、まだ良いのだろう。去年まではそんな相手もいなかったのだから。

 目的のスーパー、北海マートで買い物カートを押しながらそんな事を考える。あ、豚肉と鶏肉が安いので買っておこう。


 店内に掛かるのはクリスマスを意識した懐メロソング。嫌でもクリスマスが近いことを連想させてくる。お惣菜のコーナーも家族向けの定番が詰め込まれたセットが所狭しと並び、その少し隣にはお一人様向けの小さなセットもほどほどに並んでいる。

 思わずパーティーサイズに手を伸ばしそうになるが、最近俺の頭の中に居座り続けているあいつが戻ってくる保証はないため、お一人様向けのチキンが入ったセットをカートに放り込む。消費期限は明日の夜までは大丈夫。


「むむむ……」


 そして暫くの思案ののち、もう一パックをカートに入れる。これくらいなら冷凍でもしておけば大丈夫。そう、あいつが来なくても大丈夫。


 少しでも生活費を節約するため、思考を主夫に切り替える。そうだぞかなめ。プレゼントを買ったからお前の渋沢栄一部隊は壊滅した。津田梅子さんが最後の砦なのだから。早く給料日えんぐんよ、来てくれ。


 くだらないことを考えながら何時ものルートを辿り、買い物を済ませてゆく。若干肉類が多めに見えるが、他意はない。そう、無いのだ。

 ……と、思い込むのも流石に無理があるか。この際認めてしまえば楽かもなぁ。


「あった」


 次は酒類のコーナーで涼の好きな軽めの缶カクテルを見つけ、数本カートへ入れた後、自分のビールを見つけてそれもカートへ入れると買い物は終了。レジへ向かいコートのポケットから財布を取り出し、順番を待つ。


「あら、かなめちゃん。こんにちわ」

「あ、簑浦さん。こんにちわです」


 すると隣のレジに簑浦さんが買い物かごを腕にぶら下げていた。買い物かごの中は野菜や肉、魚がバランスよく並んでいる。隙のない布陣だった。


「明日は涼ちゃんの誕生日だもんね。それじゃあ足りないんじゃないの?何か持っていこうかしら?あー、でも若者のクリスマスのお邪魔をしちゃいけないわよねぇ。ごめんなさいね、野暮なことを言っちゃって。後でうちのドリンク差し入れに行くから飲んでおきなさいよ。効くわよー」


 その口から爆音、と言っても差し支えない音量でまくし立てられる内容に、周りの支払い待ちのお客さんからくすくすと言った控えめな笑い声と、ほほえましいものを見た時の様な優しいまなざしが俺に注がれる。うん。控えめに言っても交通事故だ。頼む、早く支払いをさせてくれと思いながら前の人の買い物かごを覗くと、まだまだ大量の商品が残っていた。絶望じゃねぇか。


「あはは、簑浦さん。あいつも多分忙しいと思うんで多分帰ってこないですって。クリスマス時期ですし飛行機のチケ……」

「何言ってんのかなめちゃん。自分の彼女の事信じられないっているの?だめよぉ。好きな女の子のことはちゃんと信じてあげないと。私も若い頃はねえ……」


 多少抵抗しようと口を開くも、その体型と同じように重量級の言葉が被せられ、一気に土俵際まで押し出される。駄目だ、勝ち筋が全く見当たらない。幸い、自分語りに内容が移行したため、隙を見てさっさと逃げ出したいが、どうしても一つ訂正しなければならないことがある。主に俺のことを眺めている周囲の人たちに向けて。


「ま、待ってくださいって。そもそも俺と涼は付き合ってないですから」

「ええ?何言ってるのよ。何時も仲良く一緒に寝てるって涼ちゃん言ってたわよ。男なんだから照れるんじゃないわよ」


 何言ってんのお前!?


「え?は?」


 そう叫びたかったが出てくるのは言葉にならない声だけ。一緒の部屋で別々に寝てるだろ!?情報は!!正確に!!


「次の方どうぞ」

「あ、はい」


 いつの間にか精算が終わり開いていたレジへとカートを並べる。

 今日のレジ打ち担当は噂話好きの工藤さんだった。

おばちゃん達の強さはガチ

エピソードタイトル修正しました……

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